ポストさんてん日記

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IPCCの1.5度特別報告書は科学的知見の取り扱いに関して重大な欠陥があったと指摘する論文

[ 2019/12/27 (金) ]
江守正多氏による反論を追記。2020/3/14
初回公開日:2019/12/27



2018年10月に出たIPCCの1.5度特別報告書(以下SR1.5と略)は、科学的知見の取り扱いに関して重大な欠陥があったと指摘する論文
IPCC 1.5 度特別報告の欠陥 改訂新版」の邦訳の紹介エントリーです。

目次

Ⅰ.原題:「DEFICIENCIES In the IPCC’s Special Report on 1.5 Degrees」
Ⅱ.(江守正多氏による反論)組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心

Ⅰ.原題:「DEFICIENCIES In the IPCC’s Special Report on 1.5 Degrees」
 英 Global Warming Policy Foundation(2019/12/05)に掲載
 J・レイ・ベイツ 翻訳: ⼭形浩⽣
出典は、IPCC「1.5度報告書」の欠陥 IEEI 2019/12/12

以下、項目見出しと一部のみ引用です。引用箇所の選択や強調文字はブログ主の主観によるものですので、正確なところは原典で確認ください。
(お急ぎの方は、『序文』と『7. 結論』のみでも概要がわかると思います。)

序文 エドワード・ウォルシュ博⼠
この論⽂は、最近のIPCCの1.5度特別報告書(以下SR1.5と略)の中⼼的な側⾯のいくつかについて、証拠に基づく批判を提⽰している。
具体的には、SR1.5が以下の3点で⽋陥を持つという、説得⼒ある証拠を彼は提出している。
  • 地球全体の危機を訴えるという形でIPCC(2013)第5次評価報告(以下AR5と略)から逸脱しているのに、その根拠となるしっかりした科学的な理由が提⽰されていない。
  • AR5以来蓄積された重要な研究上の証拠は、危険が⽬先に迫っているという⾒通しを⼤幅に引き下げるものとなっている。SR1.5ではこの証拠が考慮されていないどころか、⾔及さえされていない。
  • 望みの結果を実現するために世界気候モデルを「チューニング」するという⼿⼝が広まっていることがAR5の後で暴露された。だがそれも⾔及されていない。
    (ブログ主注)一般的には『全球気候モデル』といわれている。

著者:J・レイ・ベイツ教授:J. Ray Bates について
現在、ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンの気象学および気候センターにおける気象学非常勤教授。かつては、コペンハーゲン大学ニールス・ボーア研究所の気象学教授であり、NASAゴダード宇宙飛行センターの上級科学者も務めた。キャリア初期には、アイルランド気象局の研究主任だった。

ユニバーシティ・カレッジ・ダブリンで物理学の学位を取得、MITで気象学博士号を取得。MITの博士号指導教官は、1979年に二酸化炭素が気候に与える影響について論じた「チャーニー報告」の著者ジュール・G・チャーニーだった。

2009年ヨーロッパ地球科学連合のヴィルヘルム・ベルクニスメダルなど、科学的な業績で多くの受賞歴を持つ。アイルランド気象学会の元会長。IPCCの第3次および第5次評価報告の専門査読者を務めた。王立アイルランドアカデミーおよびヨーロッパアカデミーの会員であり、アメリカ気象学会フェロー、イギリス王立気象学会フェローも務める。

1. はじめに
(略)

2. AR5からの逸脱
AR5作業部会報告で、温暖化の原因に関する中⼼的な主張は以下の通り:
1951年から2010年にかけて観察された世界平均地表温度の上昇の半分以上は温室ガス濃度の⼈為的増加や他の⼈為的強制⼒により生じた可能性がきわめて⾼い。⼈間による温暖化への寄与の最もよい推計は、この時期の温暖化観測値に近い。
この主張は主に、世界気候モデルシミュレーションの検出および要因分析に主に適⽤されるものだ。これは、20世紀初期(1910-1945)の⼤幅な温暖化を⼈為的な影響のせいにするものではない。この初期の温暖化について、同報告は次のように結論づけている(10.3.1.1.3節、p.887)
20世紀初期(1910-1945)の⼤幅な温暖化について、内部変動性、⾃然強制⼒、⼈為的強制⼒がどのくらい貢献しているかを定量化するのは未だにむずかしい。これは強制⼒とそれに対する反応の不確実性や、観測の不完全なカバー範囲のためである。

この慎重さとは正反対に、SR1.5は19世紀末から観察された世界の温暖化を実質的にすべて、⼈間が引き起こしたものとしている(図1)。このAR5からの⼤きな逸脱は、しっかりした理由づけがまったくなしに提⽰されている。
15℃まであとどのくらい?
15℃まであとどのくらい?
人為的温暖化は2017年に工業化前の水準をおよそ1℃上回った。
図 1:SR1.5は実質的に⼯業化以前からの地球温暖化をすべて⼈為的なものとした。

3. 一連の証拠
IPCCがよく使う表現が「⼀連の証拠(lines of evidence)」だ。この⼀節で暗黙に述べられているのは、気候科学では確実にわかっていないことがいろいろあり、中には今後も決してわからないこともあるのだ、という現実的な認知だ。
確実にわかっているのは、⼤気中で⾚外波⻑の熱放射を捉える⼆酸化炭素などの微量気体の濃度が、⼈間活動により⾼まっているということだ。これを増幅ないし相殺するものとして、⼤気中で最も強⼒な温室効果ガスは⾃然に⽣じる⽔蒸気があり、これが微量気体よりはるかに多いということもわかっている。
空気が上昇して冷えると、そこに含まれる⽔蒸気は凝集して雲となり、これが⼤気の温室的な性質を⼤きく左右する。だが雲の放射的な影響を厳密に定量化するのは、現在の気候科学の能⼒を超える。この状態が続く限り、気候システムが温室効果ガス排出増加に対してどんな反応を⾒せるかは、不確実性の領域に留まり続ける。

4. SR1.5の人為的温暖化に関する主要な一連の証拠
SR1.5は政策⽴案者向け概要(SPM)で、1960-2017年の世界平均地表温度について、実測値とモデルの結果とをグラフにしている(図2)。
1960 年以来の温度実測値とモデル値の描き⽅SPM
⽉次世界平均地表温度実測値は2017 年までの灰⾊の線
モデル推計による⼈為的地球温暖化 (2017 年までのオレンジ⾊の実線薄いオレンジの帯は「可能性の⾼い」範囲推定を⽰す)。
図 2:SR1.5での1960 年以来の温度実測値とモデル値の描き⽅SPM

オレンジ⾊の実線が2017年までの⼈為的地球温暖化についての、モデル推計の中央値だ。推計の中央値は、⼈為的な地球温暖化が明らかに加速しているように⾒える。期間の冒頭では10年あたり0.04℃だったのが、終わり頃には10年あたり0.22℃になっている。実測値とモデルの推計中央値は、図ではかなり近く⼀致しているように⾒えるため、温暖化加速と、そのモデル化された⼈為的起源には強い信頼が置けるものと⽰唆される。

SR1.5の第⼀章は、最近の温暖化が⼈為的だと⽰唆する証拠を追加した(図3)。
1960 年以来の温度実測値とモデル値の描き⽅
機器計測期間の世界平均地表温度の推移。
灰⾊の線はデータ集合の実測⽉間平均世界平均地表温度を1850-1900年との差として⽰したもの。
黄色の線はこうした世界平均地表温度変化に対するモデル化した⼈為的寄与。
オレンジ色の線はすべての寄与(⼈為的と⾃然の強制⼒の合計)。
⻘の破線はCMIP5 歴史的アンサンブル平均をRCP8.5 強制⼒で伸ばしたものからモデル化した世界平均地表温度。
青の実線は観測カバー範囲を考慮して地表温度と海⾯温度をブレンドしたモデル結果。
薄緑の部分は、2016−2035年についての世界平均地表温度に関するAR5の予測を⽰す。
この図の⻩⾊い曲線は、図2 のオレンジ曲線に対応していることに注意。
図 3:SR1.5での1960 年以来の温度実測値とモデル値の描き⽅

図3に⽰された観測データは、1960年以前に1945-1970年の25年間については、地球寒冷化が起きていたことを⽰している。それ以前の1910-1945年にかけては、⼤幅な地球温暖化が⾒られた。この20世紀初頭の温暖化は、⼈為的温室効果ガスが⼤きな影響をもたらす以前に生じている。そのさらに前には、また数⼗年の寒冷化が⾒られた。図3は明らかに、温室効果ガスとは無関係な世界平均地表温度の⼤きな⾃然変動があることを⽰している。
さらにモデル化された温度==単純モデルでも世界気候モデルシミュレーションでも==は⻑期で⾒ると実測データとあまりよく⼀致していない。この⼀致⽋如が特に顕著なのは20世紀初期の温暖化期だ。これは明らかに、AR5が20世紀初頭の温暖化を⼈為的な原因に帰属させないことにした判断に影響を与えた要因だった(上の第2節)。
これに対し、この期間において単純なモデル出⼒と実測データの間には相変わらず⼀致が⾒られないにもかかわらず、SR1.5はこれ以前の温暖化もまた相当部分が⼈為的だったとしている。
なぜ単純なモデルが⽰す⼈為的な温暖化が、1960-2017年の時期については観測された世界平均地表温度とこれほど⾒事に⼀致しているのか、という疑問が浮かぶ。その⼀致は世界気候モデルシミュレーションに基づくものよりも優れた⼀致を⽰しているのだ。
そして、なぜ20世紀初頭の温暖化期については、これほど⼤幅な不⼀致を⾒せるのか、という疑問も生じる。単純モデルの量はすべて地球平均であり、⼊⼒データもすべて地球平均だ。だから単純モデルは地域的なばらつきの余地がまったくない。⽬に⾒える地球規模の温度変化が、本当は地域的な温度パターンのばらつきで生じている可能性もある。だが単純モデルは、それを世界で⼀様に作⽤している強制⼒により⽣じたものとして扱ってしまう。これに対して世界気候モデルシミュレーションは==限界はあるものの==そうしたミスを排除する余地を持つ。

5. 関連する一連の証拠: 実測データ
⼈⼯衛星による⼤気温度の変化
図1〜3で⽰唆される近年の地表温暖化速度の明らかな加速は、対流圏下部 (地表から数キロ上空) の温度の⼈⼯衛星観測には⾒られない。⼈⼯衛星の観測値の⼀例を図4に⽰す。
⼈⼯衛星による対流圏下部温度アノマリーの地球平均
1979 年1 ⽉から2018 年11 ⽉まで。直線トレンドは+0.13℃/10 年。
図 4:⼈⼯衛星による対流圏下部温度アノマリーの地球平均

それどころか、⼈⼯衛星による温度は、2000年以降はほとんど温暖化を⽰していない。
SR1.5は⼈⼯衛星の観測した温度トレンドについては触れず、なぜそれが世界平均地表温度とこれほど⼤幅にちがっているのかという問題にも触れない。これは深刻な⽋陥だ。というのも、世界平均地表温度よりも⼈⼯衛星データのほうが、地球温暖化の本当の速度を⽰す指標として信頼性が⾼いと考えられるからだ。⼈⼯衛星の温度計測はほぼ全地球をカバーしているのに、地表温度の想定はまばらで分散も不規則なのだ。
カバー範囲の問題以外にも、⼈⼯衛星データは世界平均地表温度のように都市のヒートアイランドや⼟地利⽤変化の影響を受けないという利点もある。
海洋温暖化の実測値
最近、ヨーロッパ中期気象予報センター (ECMWF) が⾏った、海洋データの詳細研究の結果が発表された。この研究は海⾯データを200万観測局・⽇分集めて、それを最新のデータ同化システムに取り込んだものだ。1900−2010年の上層海洋熱量 (OHC、海⾯から300mまで) を図6に⽰した。
上層300mの世界平均海洋熱量
図 6:上層300mの世界平均海洋熱量

この図を⾒ると、OHC (0-300m) は1935-1955年に、2000-2010年のあらゆる数値を上回っている。こうした結果は、OHC (0-300m) の⾃然変動性、ひいてはそれと密接に関連した世界海⾯温度が、これまでの推計より⼤きい可能性を明らかに⽰唆している。
こうした結果は、重要なLaloyaux et al. 論⽂が採録の締め切りよりはるか前に刊⾏が承認されていたにもかかわらず、SR1.5で参照されていない。

6. 関連する一連の証拠: 世界気候モデルシミュレーションモデル
モデルのチューニング (パラメータ設定)
AR5以後に刊⾏されたきわめて重要な論⽂のいくつかは、世界気候モデルシミュレーションの結果を使って温暖化を⼈為的なものとするにあたって、きわめて慎重になるべきだと⽰している。そうした論⽂としては以下が挙げられる。
  • Voosen「気候科学者、ブラックボックスを開いて検討にかける」
  • Hourdin et al. 「気候モデルチューニングの技巧と科学」
  • Zhao et al. 「モデルの気候感度が持つ不確実性の原因は積雲降⾬微⼩物理の表現にある」
こうした論⽂はどれ⼀つとしてSR1.5で参照されていないが、世界気候モデルシミュレーションモデルで使われているグリッド以下の規模で起こる物理プロセスの表現のパラメータ設定を⽐較的わずかに変えるだけで、温室効果ガス増加への応答としてモデルが⽰す温暖化速度が⼤幅に変わることを⽰している。
Voosen論⽂は、、、
Hourdin et al.論⽂は、、、
Zhao et al. 論⽂は、、、
気候感度の最近の独⽴推計結果
すでに述べた通り、均衡気候感度(ECS)というのは⼤気中の⼆酸化炭素が仮想的に2倍になってその状態を保ったとしたら、いずれどれだけの温暖化が起こるかを⽰すものだ。ECSは気候科学で最も重要な指標となる。これは、CO2が実際に増えたときにどれだけ温暖化が起こるかを⽰す。
ECSの本当の値はわかっていない。AR5は、その値が1.5-4.5℃の間にある可能性が⾼いという。そして最⾼の推計値を出すのは「評価された⼀連の証拠の間でその値の合意が⾒られない」から不可能だと⾔う。1.5-4.5℃という推計範囲は、主に世界気候モデルシミュレーションの結果に基づいたもので、1990年のIPCC第1次評価報告書から変わっていない。気候モデルが、望む結果を出すよう経験的にチューニングされているという現在の知識から⾒て、こうしたモデルのECS推計は、基本となっている物理学過程の計算結果を⽰すものと受け取るべきではないというのが明らかだ。
ECS推計の独⽴⼿法は、単純な世界エネルギー収⽀モデルを、基準期間と最終期間との間の放射強制⼒、海洋熱吸収、温度変化の推移について、世界平均観測値と共に使うことだ。SR1.5で参照されたこの⼿法の例としては、Lewis and Currey論⽂がある。これはECSが1.5℃で、不確実性の範囲推計は1.05-2.45℃だ。だがSR1.5はこの研究を参照はしたものの、AR5の推計下限値を改訂するほどの重みを持つ結果とは判断しなかった。というのもそれが「たった⼀つの⼀連の証拠」でしかないから、という。

だがこうした論⽂が、有効な⼀連の証拠として採択されるべきだった根拠は⼗分にある。

7. 結論
SR1.5は、地球温暖化をめぐる警鐘を強化するという⽅向で、これまでのIPCC報告からきわめて⼤きく逸脱している。これはAR5と⽐べたときにことさら顕著だ。この逸脱についてしっかりした根拠は⽰されていない。
現実には、AR5以来、地球温暖化が地球の緊急事態というより⻑期的な脅威でしかないことを⽰すかなりの証拠が蓄積されている。この証拠は主に、もっと低い気候感度を⽰唆する実測結果(つまり温室ガス濃度がどれだけ増えても、それに対する温暖化反応は低い)と、実測された地球温度トレンドの説明において、⾃然変動の貢献がもっと⼤きいと⽰す結果で構成される。IPCCはSR1.5で政策⽴案者たちにこの証拠を提⽰しなかった。
SR1.5はまた、直近のIPCC評価報告以降に気候モデル作成者たちが発表したきわめて重要な情報の⼀部を政策担当者たちに伝えていない。その情報は、地球気候モデルにお望みの結果を出させるための、あとづけのチューニングについてのものだ。これまでのIPCC報告がモデルのチューニング⼿法を記述しなかったということは、こうしたモデル作成者たちにより「透明性の⽋如」と指摘されている。IPCCの発表した将来温暖化の予測は、完全にこうしたモデルの信頼性に依存しているのだ。
こうした⽋陥を鑑み、SR1.5は科学的に厳格な⽂書である、と政策担当者が考えるべきものではない。報告内で提案されている極端な⼿法よりも、もっと熟慮された温室効果ガス削減戦略を⽀持する最近の科学的証拠が⼤量にあるのに、それが報告では参照されていない。
その⼀⽅で持続可能な開発、貧困削減、格差低減といった有意義な⽬標は、それ⾃体の価値のために追及すべきものであり、決着のついていない気候科学に依存させるべきではない。

Ⅱ.組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心
江守正多 IEEI 2020/3/10
【小見出しとごく一部のみ引用】
  • 英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論
  • 日本における懐疑論・否定論
  • GWPFの記事を組織的に紹介?
  • 内容はどこがおかしいのか?
  • IPCC「1.5℃報告書」の欠陥?
    この記事について、「1.5℃報告書」の執筆者の一人であるIGESの甲斐沼美紀子氏が他の執筆者に尋ねたところ、過去の気温上昇量については「1.5℃報告書」と第5次報告書は完全に整合的であること、記事には特に目新しい知見は無いので学術論文として出版されない限りは相手にしないほうがよいこと、などの回答を得ている。
    なお、杉山大志氏も「1.5℃報告書」の執筆者の一人であるが、「IPCCの1.5度特別報告書は、その科学的知見の取り扱いについて、重大な欠陥があったと指摘する論文」と、否定も肯定もせずに受け入れるような短い解説をつけている。
  • 懐疑論・否定論のリスク

[ 2019/12/27(金) ] カテゴリ: 温暖化対応は行き過ぎか | CM(0)
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