ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

IPCC報告の変遷からみたホッケースティック論争の結論

[ 2019/09/24 (火) ]
ホッケースティック論争とは、IPCC(国連気候変動に関する政府間パネル)第3次報告書に掲載されたマイケル・マンによる古気候(過去1000年~1900年代半ば)の気温データを巡る論争です(そのグラフ曲線が「ホッケースティック曲線」と呼ばれた)。
本エントリーでは、過去~最新までのIPCC報告書が、それぞれ古気候データに何を採用したか?という側面を勉強しました。
その結果、今となっては「ホッケースティック曲線」は科学的な裏付けがなかったことに等しい、と見なして良いようです。
なお、ホッケースティック論争が、温暖化そのものに関する主流派(脅威派)と懐疑派の論争という側面も持つようですが、本エントリーでは、そこには踏み込みません。

IPCC:Intergovernmental Panel on Climate Change は、各国の政府から推薦された数千人の科学者が集まり、地球温暖化に関わる科学的知見の収集と整理を行い報告する機関。
評価報告書を5~7年おきに発表しており、更新されるたび、評価が定まった最新の研究を盛り込んで進化していく。


目次

1.IPCC第1次報告書 1990年 現在の気温は中世ピーク以下
2.IPCC第3次報告書 2001年 20世紀後半に急上昇、ホッケースティック論争の始まり
3.IPCC第4次報告書 2007年 ホッケースティックの消滅
4.クライメートゲート事件 2009年末
5.IPCC第5次報告書 2013年 本文に埋もれた新グラフ、中世温暖期の出現
6.中世に温暖期が出現していたことは、何を意味するのか
7.主な参考文献
8.温暖化主流派(脅威派)によるスラップ訴訟の一例
9.関連エントリー

1.IPCC第1次報告書 1990年
 現在の気温は中世ピーク以下

気候学者ヒューバート・ラムによる過去1000年の古気候を再現したグラフが掲載。
AR1Figure7.1
(図1)ヒューバート・ラムが再現した古気候のグラフ
出典:温暖化根拠に疑義 ホッケースティック論争を読み解く(池辺豊 日本経済新聞 2016/7/11)

11世紀から14世紀半ばまで現代より気温が高い中世温暖期を示している。その後、気温は下がり始めて小氷河期になり、19世紀後半から再び上昇に転じて今に至っている。現在(1990年当時)の気温は中世温暖期のピークには及んでいない。

中世温暖期の正確な気温はもちろん残っていないが、ヒューバート・ラムが参考にしたのは例えばグリーンランドの南部や西部に約300年間にわたって入植地があったこと。ブドウは英国や欧州大陸の高地でも栽培され、森林限界も高かったという。いずれも現在より暖かかったことの証拠になる。欧州以外でも、日本は東北で約300年間冷害による飢饉(ききん)の記録がなく、京都では桜の開花が早かったという日記が残っている。

2.IPCC第3次報告書 2001年
 20世紀後半に急上昇、ホッケースティック論争の始まり

マイケル・マン(Michael Evan Mann、米ペンシルベニア州立大学、社会学部教授)らが1999年に論文発表した古気候の再現グラフが政策決定者向け要約に掲載。
約1000年間にわたってやや下降気味の横ばいだった気温が、20世紀後半に急上昇したことを示した。
ホッケースティック曲線
赤:温度計データ。青:木の年輪、
サンゴ、氷床コアからの推測。
出典:AR3 Summary for Policymakers Figure 1
横ばいの部分を柄、急上昇を刃に見立てたホッケースティック曲線の名前がついた。

1900頃より過去についての温度変化は、木の年輪や氷床コア、サンゴなどの堆積物などの気温代替データをもとに作成したが、これらの推計は様々な局所的な環境変化の影響を受けるために、地球の北半球平均の温度変化は、膨大なデータから推計される。この方法論を巡って、激しい論争が展開された。疑問者からの問いに対して、マンらがほとんど応じなかったことで論争は混迷した。

3.IPCC第4次報告書 2007年
 ホッケースティックの消滅

データに関する誤差や統計的な推計方法等を巡っての科学的な論争が紹介された上で、図としては、ホッケースティックは消滅した。
ホッケースティックに代わるものとして、過去の温度の推計研究の結果が複数提示され(中段のb)、その結果の分布が図示された(下段のc)。
IPCC(2007) 第4次評価報告書
4.クライメートゲート事件 2009年末

マイケル・マンら主流派(脅威派)が、ホッケースティックについて協議を重ねた大量のメールが外部に流出するクライメートゲート事件が起き、データの改ざんが疑われた。犯人は依然不明。
科学界ではデータの改ざん・捏造がなかったか、いくつもの調査委員会が立ち上がり、どれもマイケル・マンらに問題はなかったとする報告をまとめた。
その後、論争をそれぞれの立場から総括した書籍が海外でたくさん出版された。日本語で読めるのはそのうちの4冊
著者訳者
地球温暖化スキャンダル
日本語版:2010年6月
原著:2010年前半
スティーブン・モシャー
トマス・フラー
渡辺正
地球温暖化バッシング
~懐疑論を焚きつける正体

日本語版:2012年
原著:2011年
レイモンド・S・ブラッドレー
(ホッケースティック論文の共著者)
桂井太郎
地球温暖化論争
~標的にされたホッケースティック曲線

日本語版:2014年
原著:2012年
マイケル・マン
(ホッケースティック論文の著者)
藤倉良
桂井太郎
ホッケースティック幻想
~「地球温暖化説」への異論

日本語版:2016年4月
原著初版:2010年
A.W.モンフォード青山洋
桜井邦朋監修


5.IPCC第5次報告書 2013年
 本文に埋もれた新グラフ、中世温暖期の出現

マイケル・マンらが2008年に発表した新しい古気候再現グラフが載っている。中世(1000年前後)の温度は、現在とあまり変わらない高さまで上がっている。第1次報告書のヒューバート・ラムのグラフの再来に見える。
(図3)第5次報告書の本文
AR5 Chapters5 Figure5.7
西暦300年ごろからの赤い曲線「Ma08elvl」がマンによる再現。中世温暖期が明示されており、ホッケースティックの面影はない

ただ、このグラフは、一般の人が目にする第5次報告書の政策担当者向け要約や、もう少し詳細な技術要約ではなく、分厚い本文の中に埋もれている。マイケル・マンは自著で「氷床コアと堆積物の記録が大量に集まったので、今度は年輪データを全く使わないでも、十分意味のある過去1300年間の北半球の平均気温を再現することができるようになった」「中世温暖期のピークも高くなる」と書いた。つまり、ホッケースティックは乏しいデータを基に作られていたことを自ら認めている

このように、IPCCはホッケースティック曲線の使用を止め、最新の第5次評価報告書では北半球において中世の温暖期が存在したことが明記されている。

6.中世に温暖期が出現していたことは、何を意味するのか

西暦0年から2011年までの主な温室効果ガスの大気中の濃度の変化
出典:温室効果ガスの濃度の変化(気象庁)

上図のとおり、中世の温暖期にGHG(温室効果ガス)の上昇はない。
すなわち、中世の温暖期はGHGが原因でなく、それ以外の自然変動によって起きた、ということで、将来についても同じことが言える。
現に温暖化が起きており、今後も気温が上昇するのは確かであるが、どの程度が自然変動であり、どの程度がGHGによるかは分かっていない。
IPCCの第5次評価報告の2100年予測では、4つのシナリオの内、中位の2つ(RCP4.5、RCP6.0)で、1.1~3.1℃上昇と、かなり不確実性の幅がある。詳細はこちら。
もしも自然変動の寄与が大きければ、GHGの寄与は小さいことになり、将来のGHGによる温度上昇推計値も低くなる。だから自然変動の大きさの推計は重要になる。

7.主な参考文献

中世は今ぐらい熱かった:IPCCの最新の知見(杉山大志 IEEI 2018/4/9)
温暖化根拠に疑義 ホッケースティック論争を読み解く(池辺豊 日本経済新聞 2016/7/11)
気候研究ユニット・メール流出事件(wikipedia)
●PDF中世温暖期と小氷期をめぐる最近の研究の動向(中塚武 2015)

本論からかなり逸れますが、
8.温暖化主流派(脅威派)によるスラップ訴訟の一例

「地球温暖化」論議に再考を促す(渡辺惣樹 産経【正論】 2019/9/17)を読んで、“温暖化懐疑論”の部分は暴論に近いと思いましたが、温暖化主流派(脅威派)によるスラップ訴訟の部分については“なるほど感”がありました。
【“なるほど感”を持った部分のみ引用】

CO2にすべて押しつける「地球温暖化」に懐疑的な科学者は少なくないが、彼らの声はメディアに登場しない。
懐疑派の学者の沈黙の理由の一つに、地球温暖化ロビーによるスラップ訴訟」がある。懐疑派学者は、その議論の出発点にCO2説を主張する学者の論文の「怪しさ」を指摘せざるを得ない。そうすると「怪しい」論文を書いた学者から名誉毀損の嫌がらせ訴訟が始まるのである。
訴える学者の背後には資金力のある環境保護団体がいる。

被告が和解を拒否し、裁判を闘うとなると100万ドル(1億円程度)単位の弁護費用がいる。これが(少なくとも北米では)地球温暖化懐疑派の学者が黙り込む理由である。

懐疑派学者のなかにもおじけづかなかった強者がいた。
カナダ・ウィニペグ大学元教授(地理学部)のティム・ボールはマイケル・マン教授のホッケースティック図(曲線)はでたらめだと激しい言葉で批判した。

マイケル・マン教授はティム・ボール教授の住むカナダ・ブリティッシュコロンビア州で名誉毀損裁判を起こした(11年3月)。マイケル・マン教授や彼を支援する環境保護団体は、ティム・ボール教授は高額な裁判費用を前にして和解に応じると考えた。
しかし、ボール教授は戦うことを決めた。戦うと決めた彼の下に、地球温暖化懐疑派の個人から献金が相次いだ。それが彼の裁判を支えた。

北米の裁判では、合理的な理由なく相手側から要求された証拠の開示を拒むことは許されない。拒めばほぼ敗訴となる。ホッケースティック図が正確かどうかは生データを使った再検証が不可欠だ。科学論争における名誉毀損裁判であるだけに、被告側(ボール教授)の証拠開示請求には合理的理由がある。裁判長もこれに同意して開示を求めた。マン教授は「データ自体が知的財産である。米国の裁判所もそう判断している」として開示を頑なに拒んだ。

8月23日、ブリティッシュコロンビア州最高裁は、原告の訴えを棄却し、被告の弁護費用全額を賠償せよ、と命じた。原告(マン教授)の完全敗訴である。


9.関連エントリー

近頃、『欧州が主導する現行の温暖化対応が行き過ぎているのでは?』との控えめな論説が気になっています。
2019年4月に、このカテゴリを新設し古い関連記事を含めて、ひとまとめにしています。記事下部or左欄のカテゴリリンクから、どうぞ。

【メモ】
気候変動の舞台裏 「地球温暖化」不都合な真実とは(長辻象平 産経ニュース 2019/10/9)
熱帯の空:気候危機論への反証(ジョン・クリスティ IEEI 2019/10/4)
日本の温暖化は気象庁発表の6割に過ぎない(杉山大志 IEEI 2019/9/30)
世界の温度は何度上昇した?温暖化クイズ:何問正解できますか?(有馬純 IEER 2019/9/27)
石炭火力で分断されるEUの温暖化目標(山本隆三 IEEI 2019/8/26)
環境省サイトの『1.5℃特別報告書』の解説資料等に『1.5℃特別報告書の概要(2019年7月)』PDFリンクがある
IPCCが主張する健康便益は本当か?(ミッコ・ ポーニオ IEEI 2019/7/10)
だれにでもわかる気候モデルの問題点(ジュディス・カリー IEEI 2019/7/5)
「温暖化物語」を修正すべし(杉山大志 IEEI 2019/7/1)
●PDF地球温暖化の原因を再考する(御園生 誠 触媒学会 2017/3/7)
●PDF地球温暖化論と懐疑論(山田耕一 2016/4/5)
[ 2019/09/24(火) ] カテゴリ: 温暖化対応は行き過ぎか | CM(0)
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