ポストさんてん日記

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【基礎07】衛生仮説のTh1/Th2セオリーは崩壊した?A20というタンパク

[ 2019/05/14 (火) ]
【基礎06】食物アルギーの二重抗原曝露仮説、経皮感作のための勉強していたら、それと密接に関連するお話がありましたので、同時に勉強しました。

本論に入る前に、
衛生仮説とは

「衛生仮説」が発表されたのは1991年のこと

先進国でアレルギー性疾患が増加した理由としてStrachanが提唱した「乳児期までの不衛生な環境がアレルギーの発症を低下させる」という理論。衛生的な環境ではTh1の成熟が起こらずTh2が優位になるため、アレルギー疾患が起きやすいと考える。


衛生仮説が出てきた初期のころ、ThlTh2はシーソーのような拮抗作用があると思われていた。
Thlが増えるとTh2が減ってアレルギーが抑えられ、Th2が増えるとThlが減って自己免疫疾患が抑えられる、というのだ。ところが、この理論はほどなく破綻した。自己免疫障害を抱える患者はアレルギーも発症していることが多く、実際、欧米では自己免疫疾患とアレルギーが足並みそろえて増えている。こうして免疫系の動態は再解釈されることになり、現在では、制御性T細胞(Treg)がThlとTh2を含むすべてのエフェクターT細胞を抑えるマスタースイッチだという理解になっている。
制御性T細胞(Treg)が多くなればエフェクターT細胞全般の攻撃力が低下し、「免疫寛容」の状態になる。その免疫系のコントロール権を担っているのは腸内微生物である。

出典:人類の進化が病を生んだ(ジェレミー テイラー、訳:小谷野昭子)
参考エントリー【基礎05】T細胞の種類・分化ついての基礎的な全体像

多くの疫学調査結果から、環境中のエンドトキシン量が多い農村地域や非衛生的な地域で育った場合、その後の花粉症の発生率やアレルゲン特異的IgE抗体保有率が低くなるということが報告されている。免疫学的な背景としては、非衛生的環境下ではTh2細胞に桔抗するTh1細胞が増加することが想定されている。すなわち、ダニ抗原などのアレルゲンが生後はじめて侵入すると、抗原提示細胞にとりこまれ所属リンパ節においてナイーヴT細胞に対して抗原提示が行われる。このとき、抗原提示細胞に存在する、エンドトキシンなどの細菌やウイルス由来の分子を認識するToll様受容体(TLR)が同時に刺激されると、ナイーヴT細胞はTh2細胞には分化せず、Th1細胞が生成する。そしてアレルゲン特異的Th1細胞はIgE抗体の産生を促進せず、病的反応も惹起しないということなどが免疫学的な説明となっている。

出典:PDF次世代のためのアレルギー疾患発症の予防戦略(斎藤博久 2016年)
参考エントリー【基礎02】免疫とは~自然免疫、獲得免疫、細胞性免疫、体液性免疫など


ここからが本論です。

前書き

ここ数年、アレルギー研究の分野で新しい発見が相次いでいる。「T細胞(Th1/Th2)のバランスが崩れることで発症する」といった従来の定説が見直しを迫られる一方で、アレルギーという病態の全容が徐々に浮かび上がりつつある状況にある。いまこの分野の最前線でどんな研究が進められ、何が明らかになってきたのか? このほど刊行された一般向けの『Q&Aでよくわかるアレルギーのしくみ』(技術評論社)の著者で、同分野の研究の第一人者である斎藤博久(国立成育医療センター研究所副研究所長/日本アレルギー学会理事長)へのインタビューを3回にわたってお届けしたい。今回はその第1回。


「Th1/Th2セオリー」は崩壊した?
【部分的に引用】

「衛生仮説」は興味深い仮説であっても、だから注目されてきたとは言えなかったわけですね。ただ、そうした状況が変化する一つのきっかけとして、1990年代の終わり、自然免疫Toll様受容体(Toll Like Receptor)の発見がありました。
Toll様受容体のメカニズムがわかってきて、免疫学者も(「衛生仮説」に)興味を持ち出したんです。やはり、メカニズムが伴わないとサイエンスとしてなかなか認めにくいという風潮がありますから。
「アレルギーは皮膚から起こる」という話が出てきたのは、さらに後のことですね。
2003年に英国のギデオン・ラック教授が指摘したのをきっかけに、皮膚からの感作がアレルギーの第一原因として認識されるようになってきました。その後、2009年に「二重抗原曝露説」を提唱され、私たちの研究にもつながっていきました。
「二重抗原曝露説」については別エントリー【基礎06】食物アルギーの二重抗原曝露仮説、経皮感作を参照

じつは最近、「衛生仮説」の理論を裏付ける非常に興味深い論文が『Science』に出たんです(http://www.sciencemag.org/content/349/6252/1106)。ベルギーのランブレヒトという人がラストオーサーになっていますが、樹状細胞の研究で世界的に有名なグループの一つです。
まだ私自身も知ったばかりなのですが、この内容を読む限り、これまでの定説だった「衛生仮説」の裏付けとしての「Th1/Th2セオリー」は崩壊したんじゃないかと思いますね。
それまでアレルギーの発症については、Th1(Ⅰ型ヘルパーT細胞)とTh2(Ⅱ型ヘルパーT細胞)のバランスで説明されることが多かったのですが、実際それでは不十分で、炎症性のTh17や制御性T細胞(Treg)なども関わってくることは今回の本でも解説していますね? こうした個々のT細胞のバランスが大事であるということは正しいんですけれど、もうちょっと細かいメカニズムがわかってきたんですよ。

そもそもTh1はアレルギーに関係ないかもしれないのです。たとえば、気管支ぜんそくになる場合、まず気道にダニやほこりなどのアレルゲンが侵入し、上皮細胞に待機している樹状細胞がそのアレルゲンを取り込んでしまう。その結果、免疫反応が起きて、アレルギーを起こすサイトカインが分泌されることでIgE抗体ができ、ぜんそくが発症するわけですね。

ところが、農村などの地域ではエンドトキシン(病原菌などの細胞膜に含まれる内毒素)がたくさんある。
ほこりの多い環境下では、大気中のエンドトキシンの量が多いことから、清潔な環境かどうかのバロメーターにもなっている。

エンドトキシンはToll様受容体の4番(TLR4)のリガント(受容体に結合する物質)ですから、気道に侵入してきたエンドトキシンは最初に樹状細胞TLR4がキャッチするわけですが、その際に気道の上皮細胞からA20タンパク(Tnfaip)が発現されるんです。このA20が発現すると、樹状細胞アレルゲンを取り込まなくなる。

衛生仮説に関する新しい仮説

出典:PDF次世代のためのアレルギー疾患発症の予防戦略(斎藤博久 2016年)


――ということは、エンドトキシンの多い、あまり清潔でない環境のほうが気管支ぜんそくになりにくいという……それが論文の主旨であるということですか?
斎藤: ええ。A20が気道の上皮細胞を保護してくれるわけです。まあ、皮膚における保湿剤みたいな役割を果たすことになるんですね。

A20というのは、エンドトキシンの刺激を受けて、気道の上皮細胞上に発現する。そうやって新しく出てくるタンパクなんですね。
アレルギーのメカニズムが大きく塗り変わってきますね。先ほどもお話したように、それまでのTh1/Th2セオリーが崩壊したことになるわけですから。


「衛生仮説」の気道上皮で起こる
【部分的に引用】

A20が出てくると、アレルゲンが取り込めなくなってしまって、ぜんそくが起こらなくなりますが、消化管には普通に取り込まれますから、腸管で「免疫寛容」が成立します。皮膚に保湿剤を塗ってブロックしている間に、腸管からアレルゲンが取り込まれて免疫寛容が成立するのと同じ理屈です。
だから、保湿剤を塗っているのと同じ効果なんですね、気道上にA20が発現するということは。
その発現する条件がエンドトキシンで、正確には、少量のエンドトキシンに繰り返し曝露することが必要です。大量だと毒性が出てきますから、あくまでも少量、長期間の繰り返しによって、気道の上皮細胞上にA20が発現することになります。
やはり清潔にしすぎず、ある程度は外の環境に触れる、そうすると自然にA20が発現し、バリアができて、樹状細胞がアレルゲンと接触できなくなる、その結果、ぜんそくが発症しにくくなるわけです。

衛生仮説」が成立するのは、ぜんそくや花粉症のようなアレルギー性鼻炎だけで、そこに関与しているのは、ダニとか空気中に飛んでいる分子だけだったということでしょう。食物アレルギーやアトピー性皮膚炎が「衛生仮説」に当てはまらないことはわかっていましたが、その点もきれいに一致するわけです。
簡単に言えば「衛生仮説」というのは、気道上皮の問題だったんです。おそらく腸管にはA20は発現しないでしょうから。まあ、そこまでまだ研究は進んでないですが、普通、腸管までエンドトキシンは届かないですからね。

それにしても困ったな(笑)。とても興味深いお話だと思うんですが、もう本は作ってしまったので、この内容は収録できませんでした。
まあ、このサイトで補完するということでいいのかな。その意味では、すごくいいタイミングでインタビューに伺った気がします(笑)。


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【基礎06】食物アルギーの二重抗原曝露仮説、経皮感作
【基礎07】衛生仮説のTh1/Th2セオリーは崩壊した?A20というタンパク←本エントリーです。
[ 2019/05/14(火) ] カテゴリ: 生物・医学の基礎 | CM(0)
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