ポストさんてん日記

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【基礎06】食物アルギーの二重抗原曝露仮説、経皮感作

[ 2019/05/10 (金) ]
『近年、経皮感作の重要性が明らかになり、食物アルギーの発症機序に関する概念が一新されつつある。』とのことで、その辺りを勉強しました。
その結果、2014年に書いたエントリー【基礎04】アレルギーとは~免疫の副作用、発症メカニズム、治療の原理などの一部に間違いがあること(正確には、食物アレルギーは奥が深く、新しい知見がどんどん出ている事)がわかりました。

従来、食物アルギーは、腸管感作により発症すると考えられてきた

ひと昔前までは、赤ちゃんの消化管機能が未熟であるために異物認識を間違えてしまい、結果として食物アレルギーを発症するという考え方があった。
その前提に立ち、米国小児科学会では2000年以降、アレルギー疾患を持つ両親から生まれたハイリスク児に対して、ピーナッツや鶏卵を含む数種類の食物を、妊娠・授乳中、および乳児期~幼児期にわたり除去するように推奨してきた。しかし、その予防効果を検証するために複数の疫学調査が行われたが、ことごとく否定的な結果であった。予防的な食物除去推奨は2008年に撤回された。
最近の研究では、これらの制限が却って食物アレルギーを招いてしまうことが指摘されている。すなわち、食事制限によって、口からのアレルゲン摂取で本来働くはずの免疫寛容(アレルギーを抑制するような免疫システムの学習機能)を阻害してしまうことになるということ。
また、アトピー性皮膚炎の発症が乳児期早期で、かつ重症であるほど、食物アルギーを合併しやすいことが以前から知られていた。

近年,経皮感作(皮膚感作)の関与が明らかになった

2003年、英国の小児科医Lackらは、コホート研究を通して、湿疹に対して行われた、ピーナッツオイル含有製品を使ったスキンケアがピーナッツアレルギーのリスクになることを見出した。
2006年にフィラグリン機能喪失型遺伝子変異が、アトピー性皮膚炎やアレルギーマーチの発症に関与することが報告され、皮膚バリアとアレルギー疾患の関係を支持するエビデンスが蓄積されたことを受けて、2008年、Lack は二重抗原曝露仮説(dual allergen exposure hypothesis)という仮説を提唱した。すなわち、食物アレルギー感作はバリア機能が障害された湿疹皮膚からの経皮感作による影響が大きく、適切な量とタイミングでの経口摂取は本来あるべき免疫寛容を誘導する、と説いたのである。(皮膚に保湿剤を塗るなどでブロックしていると、腸管からアレルゲンが取り込まれて免疫寛容が成立する。)

皮膚からのアレルゲン侵入
出典:アレルギーは皮膚から始まる? ―最近の研究より―(折原芳波 WASEDA ONLINE 2016/2/8)

二重抗原曝露仮説
アトピー性皮膚炎や乳児湿疹のある子供の皮膚はバリア機能が弱いため、離乳食前に皮膚を介して食物アレルゲンに感作され、Th2免疫応答の食物アレルギーを発症する。一方、適切な量とタイミングで経口摂取された食物は、むしろ制御性T細胞Treg)を介した免疫寛容によって食物アレルギーの発症を抑制する。
確かに、ピーナッツアレルギーの研究では、食物制限を推奨した米国や英国よりも、制限せずに乳児期に摂取させていたフィリピンやイスラエルのほうが発症率は低かった。
また、患児自身のピーナッツ摂取量よりも、患児の周囲で家族がたくさんピーナッツを食べることのほうがリスクになるとの報告もあり、食物抗原が、環境抗原として感作されうることが指摘された。
日本では茶のしずく石鹸という小麦成分(加水分解小麦)を含有する石鹸の使用者に小麦アレルギーが発症した。この事例は、経皮曝露が食物アルギーを誘導することを臨床的に初めて証明した事例であった。

すこし詳細な説明として

皮膚のバリア機能の低下がアレルギー発症のきっかけになる。
皮膚のバリア機能が低下している状態では、皮膚から入ってきた異物に対して、免疫システムがIgE抗体を作り、その物質に対するアレルギー体質が獲得されてしまう。このメカニズムが皮膚に対するアレルギーだけでなく、気管支喘息や食物アレルギーにも共通している。
食物アレルギーの原因となる物質は非常に種類が多く、それらは目に見えないレベルでテーブルや床の上にあったり、空気中に飛んでいたりする。湿疹や乾燥によって開いてしまっている皮膚バリアの隙間から、これらアレルゲンが入ってしまうと、赤ちゃんは特に皮膚の免疫機能が十分に働いていないため、アレルギー体質獲得に至る。
経皮感作には表皮バリア障害が必須であり、表皮バリアの障害下に食物抗原に曝露されると通常では皮膚を透過できないほど大きな食物抗原をランゲルハンス細胞が取り込み、所属リンパ節へと遊走しTh2アレルギー応答が誘導される。経皮曝露が繰り返されると全身性にTh2環境が整い、食物アレルギーも誘導されるものと考えられる。
次にそのアレルゲンが入ってきた時に、食物として食べると消化器症状として、また、花粉を鼻から吸い込めばくしゃみや鼻水といった症状としてアレルギー反応が起きる。
小児アトピー性皮膚炎に合併する食物アルギーにとどまらず、表皮バリアの障害下に食物抗原に繰り返し曝露される状況は、主婦や調理師のように手荒れした状態で食品を素手で調理する場合(職業性)や、食物成分を含有したスキンケア製品で美容的な施術をする場合(美容性)でもある。
経皮感作による食物アルギーに関するエビデンスが蓄積されつつある中、現在、スキンケアによる食物アルギーの発症予防効果への期待が高まっている。

以上、参考にした情報
アレルギーは皮膚から始まる? ―最近の研究より―(折原芳波 WASEDA ONLINE 2016/2/8)
(1)経皮感作と食物アレルギー[特集:小児アトピー性皮膚炎治療update](猪又直子 日本医事新報社 2016/3/5)
●PDF用語解説 二重抗原曝露仮説 (猪又直子 2016年)

皮膚のバリア機能はなぜ低下したか?

まあ、新生児のバリア機能はもともと低いわけですが、そこに清潔志向の社会への広まりであるとか、石鹸の性能がよくなって油脂が落ちてしまうとか、様々な要素が重なっていることはあるかもしれません。データが明確にあるわけではないのでよくわからないですが、昔に比べればよく洗っていますよね?
それだと説明つかないことも多いわけです。第一、アトピー性皮膚炎の発症率は、都会と農村部で差はありません。食物アレルギーも同様です。先ほどもお話ししたように、これらは「衛生仮説」が当てはまらないんですね。
乳幼児の皮膚のバリア機能が低下している以上、まず保湿が大事であると。それがまずアトピー性皮膚炎を予防し、アレルギー・マーチ(乳幼児期にアトピー性皮膚炎、食物アレルギーにかかると、その後、気管支ぜんそくや花粉症などにもかかりやすくなる)を起こさない基本であって、保湿もせずにただエンドトキシンの多い田舎などで暮らしても、アレルギーがすべて防げるわけではないということですね。
方、皮膚のバリア機能の低下については、まだはっきり原因がわかってない印象ですね。清潔になったことは間違いなく関係ありそうですが……。

出典:「いま、アレルギーのメカニズムが大きく塗り変わろうとしています」(斎藤博久インタビュー①)(Bio&Anthropos〜知をたずさえ、生命の海へ 2015/12/11)

成人期になると、、、

成人期になると一度獲得したアレルゲンに対する免疫抗体つまり特異的IgE抗体が陰性化することはほとんど期待できないことから、乳児期のアレルギー疾患の発症を予防することが世界のアレルギー研究において最も重要な課題となっている。

出典:PDF次世代のためのアレルギー疾患発症の予防戦略(斎藤博久 2016年)

関連エントリー

【基礎01-1】ウイルス、ワクチン、抗ウイルス薬
【基礎01-2】原虫・蠕虫、2015年ノーベル生理学・医学賞
【基礎02】免疫とは~自然免疫、獲得免疫、細胞性免疫、体液性免疫など
【基礎03】抗体とは~免疫の飛び道具
【基礎04】アレルギーとは~免疫の副作用、発症メカニズム、治療の原理など
【基礎05】T細胞の種類・分化ついての基礎的な全体像
【基礎06】食物アルギーの二重抗原曝露仮説、経皮感作←本エントリーです。
【基礎07】衛生仮説のTh1/Th2セオリーは崩壊した?A20というタンパク

【メモ】
日光浴がアトピー性皮膚炎の発症予防に有効か( 堀向健太 Medical Tribune 2019/5/16)
[ 2019/05/10(金) ] カテゴリ: 生物・医学の基礎 | CM(0)
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