ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

(メモ)現行の温暖化対応が行き過ぎているのでは、という論説

[ 2019/04/08 (月) ]
近頃、『欧州が主導する現行の温暖化対応が行き過ぎているのでは?』との控えめな論説が気になっています。
いずれも、温暖化問題が内包する不確実性や他の問題とのトレードオフを再認識させてくれるものでした。
関連するメモのアーカイブ第3弾目で論説2点の紹介ですが、その前に、少々古い情報ですが『トリレンマ問題の構造』の図を引用しておきます。
トリレンマ問題の構造

なお、今回、カテゴリを新設しました。

① ファクトフルネスと温暖化問題
有馬純 GEPR 2019/3/26
【一部のみ引用】

ハンス・ロスリングの「ファクトフルネス」を手にとってみた。大変読みやすく、かつ面白い本である。
ロスリングはこうした間違いを引き起こす原因として10の本能を挙げる。

  1. 分断本能(The Gap Instinct)「世界は分断されている」という思い込み
  2. ネガティブ本能(The Negativity Instinct)「世界がどんどん悪くなっている」という思い込み
  3. 直線本能(The Straight Line Instinct)「ものごとが一直線で進む」という思い込み
  4. 恐怖本能(The Fear Instinct)「実は危険でないことを恐ろしい」と考えてしまう思い込み
  5. 過大視本能(The Size Instinct)「目の前の数字がいちばん重要」という思い込み
  6. 一般化本能(The Generalization Instinct)「ひとつの例にすべてがあてはまる」という思い込み
  7. 宿命本能(The Destiny Instinct)「すべてはあらかじめ決まっている」という思い込み
  8. 単一視点本能(The Single Perspective Instinct)「世界はひとつの切り口で理解できる」という思い込み
  9. 指弾本能(The Blame Instinct)「だれかを責めれば物事は解決する」という思い込み
  10. 緊急性本能(The Urgency Instinct)「いますぐ手を打たないと大変なことになる」という思い込み
実はこれらの「本能」の多くは温暖化議論にも当てはまる。
気候変動枠組条約は世界を1992年時点の基準に基づいて附属書Ⅰ国(先進国)と非附属書Ⅰ国(途上国)に分け、「分断本能」に基づくこの二分論がその後の温暖化交渉を非常に難しいものにしてきた。全員参加型のパリ協定がようやく出来上がった後でも、先進国対途上国の対立構図は続いている。「分断本能」はわかりやすく便利であるため、なかなか脱することができない。

環境活動家の議論の中には
気候変動は旱魃、洪水、疫病その他をもたらし、難民を発生させ、国際紛争の原因となり、地球を滅亡に追いやる人類最大のリスクである。温度上昇を2℃以内に抑えるためには直ちに行動をとらねばならない。その対策は省エネと再エネであり、化石燃料と原子力は排除しなければならない。対策が進まないのは化石燃料産業等、既得権益を得ている者、科学を否定する者が邪魔をしているからである
というものがある。こうした議論は上に挙げた「ネガティブ本能」,「直線本能」,「恐怖本能」,「単一視点本能」,「指弾本能」,「緊急性本能」が様々に組み合わさったものである。とりわけ単一視点本能、即ち『温暖化防止が最重要である』という考え方が全ての出発点となり、『このままでは地球は滅亡する』という直線的危機意識に基づき、野心的目標の設定と緊急行動を求め、それに異を唱える者を「懐疑派」「化石」として指弾する行動につながっているように思える。

ロスリングはスウェーデン出身ということもあり、温暖化問題の重要性を強く認識しているが、環境活動家のこうした傾向については批判的である。以下、該当部分を抄訳で紹介する。
多くの活動家は気候変動唯一の重要なグローバルイシューであると確信しており、気候変動を他のグローバルな問題の唯一の原因であるとするのが常である。
気候変動という長期の問題の切迫感を増すため、シリア、ISIS、エボラ、HIV、鮫の攻撃等、現時点での脅威に飛びつき、気候変動がそれをもたらしていると説く。多くの場合、仮説の域を出ないものである。
彼らのフラストレーションは理解できないわけではないが、こうした方法には賛成できない。特に懸念されるのは『気候難民』という用語で人びとの関心を引こうとしていることだ。自分の理解するところ、気候変動と移民の関係性は非常に薄い。気候難民というコンセプトは故意に誇張されたものであり、移民に対する恐怖を気候変動に対する恐怖に置き換えCO2削減への支持を強めることを狙ったものだ。
この点を活動家に指摘すると、将来のリスクに対して行動を取らせるための唯一の方法なのだから、こうした手法も正当化されると答えることが多い。目的は手段を正当化するというわけだ。短期的にはこうした方法も有効かもしれない。しかし何度も『狼少年』をやっていると気候科学と運動そのものへの信頼性と評判を損なうことになる。戦争、紛争、貧困、移民に対する気候変動の役割を誇張することはグローバルな問題の他の要因を無視することにつながり、我々の対応能力を損なう。・・・
気候変動を重視する者は、一方で問題に継続的に取り組むと共に、自分たちのフラストレーションやalarmistのメッセージの犠牲者となってはならない。最悪のシナリオを考えると同時にデータの不確実性も念頭に置くべきだ。良い決断、理にかなった行動をとるためにも頭をクールに保たねばならない

全く賛成である。同時に自分自身が「直線本能」,「単一視点本能」,「指弾本能」等の影響を受けていないかも考えさせられた。「再生可能エネルギー100%」という議論のフィージビリティに疑問を呈する余り、「現在のエネルギーシステムは変わらない」という考えに寄りすぎていないか。
彼は“Slow change is not no change”と述べている。時間軸はともかく脱炭素化が大きな流れであることは事実である。野心的な温暖化目標を主張する人びとを「環境至上主義者」とひとくくりで済ませてはいないか。「自分と考え方の近い人とばかり話をせず、自分の見解に反駁する人と話をせよ」という彼のアドバイスはその通りだと思う。

ロスリングは問題解決にあたって推奨しているのは、
データに基づいて現状を冷静に分析し、現実的な改善策をステップ・バイ・ステップで講じつつ、そのインパクトを評価しながら先に進むこと
である。そうした手法は「ドラマチックではないかもしれないが、より効果的である」と述べている。多くの技術的不確実性がある中で科学的レビューに基づく複線シナリオで長期の脱炭素化を進めようという第5次エネルギー基本計画のアプローチはこれに近いと言える。

本書の副題は「Ten Reasons We’re Wrong About the World- and Why Things Are Better Than You Think」であるが、データに基づきものごとを冷静に観察し、人間の進歩を信じようという考え方は、英国のマット・リドレーの「合理的楽観主義」とも通ずるものと感ずる。


② マット・リドレーとの対話
有馬純 IEEI 2018/11/26
【部分的に引用】

過日、英国貴族院議員にして科学ジャーナリストのマット・リドレーと意見交換する機会があった。彼は(略)等の著作で世界的に著名な人物である。
ベニー・パイザー氏が事務局長を務める地球温暖化政策財団の学術諮問委員会メンバーでもあり、温暖化問題について行き過ぎた悲観主義コスト高の温暖化対策に対して一貫して批判的な論陣を張っている。
温暖化についての彼の考え方のポイントは以下の諸点に集約される。

  1. 温暖化問題の悪影響は誇張されている。過去39年間の温度上昇は0.15℃に過ぎず、過去のモデル分析の予測を大幅に下回っており、台風や旱魃の頻度が増大したという証拠もない。
  2. 温暖化議論はネガティブな側面ばかりを強調し、温暖化による便益を無視している。CO2排出拡大により世界では緑化が進んでいるのだが、誰もそのことを語らないし、聞きたがらない。CO2排出増による悪影響を理由に農民が石炭産業に賠償を求めるという話があるが、CO2排出増により収穫量が上がっている側面もあり、農民はその分を石炭産業に払ってもよいくらいだ。
  3. 温暖化議論は科学を単純化しすぎている。実測値を見れば気候感度はもっと低いはずである。
  4. 再生可能エネルギーへの膨大な補助金をはじめ、各国政府は温暖化について誤った解決策を推進している。過去30年間にわたって太陽光に膨大な補助金を費やしているにもかかわらず、世界の発電量に占めるシェアは1%程度。本当に温暖化に真面目に取り組むのであれば原子力を推進すべきなのに、直近のIPCC1.5℃報告書は原子力に対して極めてネガティブ
  5. 温暖化の進行がモデル予想よりもゆっくりなのであれば、化石燃料をすぐにフェーズアウトするのではなく、徐々に石炭からガスに転換し、更にコスト低下に伴って再エネシフトをすればよい。原子力はブリッジ技術として活用すれば良い。
  6. 温暖化防止のためにはイノベーションが必要。政府が太陽光、風力等、特定技術を選んで膨大な補助金を費やすことは大きな誤り。むしろ技術中立的な炭素税を導入することが正しい。
  7. 自分は温暖化が生じていること、温暖化が悪影響をもたらすこと、温暖化の原因が人間起源の温室効果ガスであることを全て認める。しかし環境主義者が言うほど、温暖化は危険ではないと考えている。しかし自分たちは環境派から「懐疑派」であるとレッテルを貼られ、様々な中傷を受けている。ヘンリー・ハックスレーは「自然の知識を改善するためには権威を否定しなければならない。懐疑主義は最も崇高な義務であり、盲信(blind faith)は許されざる罪(unpardonable sin)である」と述べ、リチャード・ファインマンは「科学とは専門家の無知を信ずることである」と述べている。
彼の議論はCOP界隈で語られる常識とは大きく異なるものであり、それだけに新鮮かつ知的に興味深いものである。昼食を共にした際、
「貴方は温暖化に関する極端な悲観論、政府による誤った施策が問題であると述べたが、そのほとんどが欧州発である。なぜ欧州で緑の党や環境運動はかくも影響力があるのか。米国との違いは何なのか」と聞いたところ、
「米国人の中には宗教心の強い人が多いが、欧州では宗教への帰依が低下しており、宗教にかわる新たな帰依の対象として環境運動が出てきた」との答であった。
「欧州における温暖化運動の勃興と社会主義の没落は機を一にしているが、両者は関係があるのではないか」と聞いたところ、
「その側面は確かにある。環境活動家を表現するジョークとして、外側は緑で中は赤という意味でスイカ(watermelon)というものがある」との答が返ってきた。
筆者は環境派の議論の中に計画経済的、政府介入的な色彩を強く感じており、それが再確認された形である。

食事の終わり頃、
「1.5℃報告書に代表されるように温暖化防止のために必要とされる絵姿(2050年前にネットゼロエミッション等)と現実とのギャップはますます拡大している。どこかで両者の辻褄が合わなくなり、破綻するのではないか。どこかで立ち止まって考え直すことにはならないのか」と聞いたところ、
彼はニタリと笑って「残念ながら2049年になっても1.5~2℃目標を達成可能だと主張する人はいるだろう。しかし国連が行った世界の970万人を対象に行った意識調査では皆が関心を有しているのは教育、保健医療、雇用機会等であり、温暖化防止は16項目中最低だった。最近は廃プラスチックへの関心が高まっており、そのうち関心がそちらに向くのではないか」と言っていた。

国連持続可能目標(SDG)に代表されるように世界のかかえる課題は数多く、それぞれに人的、資金的リソースを必要とする。彼が言うように誇張された温暖化脅威論に基づき、既存技術に膨大な補助金を投じ続ければ、その分、イノベーションや他の政策アジェンダに回るべきお金がクラウドアウトされることになる。COPの世界ではハックスレーが言う「盲信」から脱することは難しいかもしれない。しかしタテマエは別として各国の現実施策は必然的にプラグマティズムに裏打ちされたものになっていくしかないとも思える。
筆者は2050年時点では91歳になる。それほど長生きしたいとも思っていないが、温暖化をめぐる現在の議論を2050年から振り返ってみるとどう映るのか、見てみたい気もしている。


メモ

世界の温度は何度上昇した?温暖化クイズ:何問正解できますか?(有馬純 IEER 2019/9/27)
石炭火力で分断されるEUの温暖化目標(山本隆三 IEEI 2019/8/26)
IPCCが主張する健康便益は本当か?(ミッコ・ ポーニオ IEEI 2019/7/10)
だれにでもわかる気候モデルの問題点(ジュディス・カリー IEEI 2019/7/5)
「温暖化物語」を修正すべし(杉山大志 IEEI 2019/7/1)

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[ 2019/04/08(月) ] カテゴリ: 温暖化対応は行き過ぎか | CM(0)
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