ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

食品照射:鎖国状態で世界から取り残されている

[ 2019/09/18 (水) ]
以前から気になっていた命題ですが、やっと、勉強結果をまとめました。

目次

1.約40の国・地域で、合計約100万トンの食品照射(食品への放射線照射)が行われている
2.食品照射:Food Irradiation の有用性
3.必要な照射線量は目的に応じて異なる
4.照射食品の健全性評価
5.北海道士幌農協でのジャガイモの芽止めを目的とした商業照射
6.ジャガイモ以外の食品についての放射線照射は食品衛生法で禁止
7.照射判明なら廃棄、という鎖国状態
8.主な参考文献

1.約40の国・地域で、合計約100万トンの食品照射(食品への放射線照射)が行われている

海外では農産物の保存食中毒防止植物検疫などを目的として使われている。2013年の世界における食品照射の処理量は年間約100万トン(日本原子力産業協会による推定)
2013年の状況
食品の衛生や保存に役立つ(日本原子力産業協会)
(内容は上表と同じですが)
世界で利用されている食品への放射線照射
食品照射の研究が本格化したのは第二次世界大戦後。米国におけるジャガイモの芽止めの研究を皮切りに、日本も含め世界各国で研究がすすみ、1950年代には殺菌、殺虫、熟度調整など、現在用いられている食品照射の技術が確立した。
日本では1972年に放射線照射によるジャガイモの芽止めが世界に先駆けて許可され、 1974年1月から北海道士幌農協において実用化されている。しかし、その後は許可品目が拡大されていない後述)。

一方、海外では食品照射の実用化が急速に進展しており、日本は世界から取り残された状況となっている。
米国は世界の食品照射をリードしてきた国であり、スパイス乾燥香料植物が主で消費量の1/3が照射殺菌されている。さらに、1993年に加熱不十分のハンバーガーが原因で700人以上がO157による食中毒を発症、4人が死亡した事件をきっかけに、2000年から牛肉への照射が始まった。ハンバーグなどのひき肉料理は中まで十分に加熱されているか分かりにくいが、照射処理されたひき肉を使えば、多少生焼けだったとしても食品内部の細菌もしっかり殺菌できる。
カナダでも牛ひき肉の大腸菌汚染をきっかけに2017年に規制を改正、冷凍・冷蔵牛ひき肉への照射をできるようにした。
世界で最も多くの量の食品照射を実施している国は中国

2.食品照射:Food Irradiation の有用性

以下の特徴をもつ食品照射は、個々の品目に適した照射条件で、発芽抑制(防止)成熟遅延殺虫殺菌、などを目的に利用される。
  • 化学薬剤などを使用しない物理的処理であり、残留毒性の問題がない。
  • 温度上昇はほとんどなく、成分変化が他の処理法に比べて小さい(スパイスなどの風味の劣化が少ない)
    生鮮食品や冷凍食品の処理が可能で、色や香り、栄養素を保つ。
  • 食品を均一に処理することが可能であり、厚みのある食品の処理にも利用できる。また、わずかな隙間や複雑な形状を有する食品でも高い信頼性をもって殺菌などが可能である。
  • 包装したままで殺菌処理でき、再汚染の心配がない。
  • コンベヤで連続的に処理でき、大量の食品を短時間で処理できる。

3.必要な照射線量は目的に応じて異なる

単位はkGy:1000グレイ、1Gy=1J/kg
Food Irradiation Application
出典:PDF食品照射(等々力節子 2015)


4.照射食品の健全性評価

検討は、 1960年代から1970年代にかけて世界各国で盛んに行われた。
得られた膨大な試験結果は1970年代に国際食糧機関(FAO)、国際原子力機関(IAEA)、国際保健機関(WHO)の合同専門家委員会において総合的に審議された。
主な国際機関でまとめられた健全性についての見解
図-1 食品照射の健全性についての見解
出典:食品照射—世界の状況と日本の取り組み—(久米民和 放射線と産業 114 号 2007 年)

主な経緯
1970年国際食品照射プロジェクト(IFIP)開始
1980年
.
.
FAO/IAE/WHO照射食品の健全性に関する合同専門家委員会
(JECFI) (ジュネーブ)
『10 kGy以下の照射食品の健全性に問題はない。』
1981年国際食品照射プロジェクト終了
1983年
.
FAO/WHO食品規格委員会
「照射食品に関する国際一般規格」 (Codex規格)
1997年
.
WHOの高線量照射食品に対する見解
『10kGy以上照射した食品の健全性に問題はない』
2003年
. 
.
.
FAO/WHO食品規格委員会
「照射食品に関する国際一般規格」 (Codex規格)改訂
IPPC (国際植物検疫条約)において照射が
植物検疫措置に関する国際基準に(ISPM#18)
2011年欧州食品安全機関( EFSA )安全評価
現在、食品照射が許可されている各国においても概ね2003年規格に準拠したガイドラインが定められている。

これまでの研究成果に基づき、WHOの組織する専門家委員会等が導き出した照射食品の健全性に関する主な結論
  • 誘導放射能の生成の有無
    電離放射線のエネルギーに上限が設けられており、それを超えなければ誘導放射能の問題はない。
      γ線・X線:5 MeV以下
      電子線:10 MeV以下
  • 微生物学的安全性
    病原性や毒性または放射線などに対して抵抗性が増した突然変異株の誘発の可能性、アフラトキシンレベルの増大などの危険性はない。
  • 栄養学的適格性
    適正な線量での食品照射は、主要栄養素及び微量栄養素の両方に変化をおこしうるがその変化量は小さい。
  • 放射線分解生成物
    照射によって生成される分解物は、そのほとんどが加熱でも生じることがよく知られているものであり、量的にも少ない
    照射に特有な化合物としては、脂質に照射した場合の2-アルキルシクロブタノン類(2-ACBs)のみが知られているが、消費者の健康に危険をもたらすことはない。
出典:食品照射—世界の状況と日本の取り組み—(久米民和 放射線と産業 114 号 2007 年)

5.北海道士幌農協でのジャガイモの芽止めを目的とした商業照射

北海道のジャガイモの収穫期は9~10月頃、3~5月頃までの端境期まで発芽防止(芽には有毒物質が含まれるため商品価値が落ちる)のため5℃で冷蔵していた。(6月頃には本州産がでてくる)
出荷後の発芽、糖分の増加、冷蔵費用が大きいなどの問題があった。

放射線を照射する目的を、収穫後8ヶ月の室温貯蔵で発芽を防止することと設定し 、ガンマ線を70グレイ照射すると、目的を達成することがわかった。
1972年、ジャガイモの芽止めを目的とした照射が許可され、1974年より北海道士幌農協の照射施設(士幌アイソトープセンター)において商業照射が開始された。コバルト60から放出されるガンマ線が使用されている(上限150 Gy )。
近年の処理量は、年間5000トン~6000トン程度で、流通にあたっては法令に従って、ダンボ-ル箱外箱や店頭販売の際の小売パッケージに照射日を含めた表示がなされている。
ジャガイモの照射室
じゃがいもの照射室
出典:第21号・じゃがいもの発芽防止に放射線(IES環境研ミニ百科)

6.ジャガイモ以外の食品についての放射線照射は食品衛生法で禁止

ジャガイモ以外の食品についての放射線照射は食品衛生法で禁止されている。
2000年には、全日本スパイス協会が殺菌目的で香辛料への照射の許可を厚生省に要請した。審議会で照射について検討し、科学的知見の収集と消費者の理解を進めることを今後の課題とし2010年に審議を中断した。
2012年には、食中毒の危険性から、生食用の牛レバーの提供が法的に禁止されたが、その解除を求める声も多く、レバー中に存在する細菌に対する制御手段として、放射線照射の効果を検証する研究が厚生労働省により実施されている。
いずれも、その後の進展はなく、照射の許可の前提となる内閣府食品安全委員会のリスク評価もいまだに実施されていない。
ただ、農産物を海外に売り込みたい農林水産省は2018年度、検疫処理のための照射技術の研究に初めて予算を付けた。桃やブドウなどの高級果実を高い品質のまま輸出するのに役立つ可能性が期待されるからだ。

7.照射判明なら廃棄、という鎖国状態

照射によって安全性を保っている海外の食品も、日本では禁止のため輸入時に厳しくチェックされ、照射が判明した場合は回収し廃棄される。これまでに、中国やドイツ、ブラジルなどから輸入された冷凍シャコや乾燥シイタケ、パプリカ、唐辛子、健康食品などで照射が分かり、回収・廃棄などの措置が取られた。

【照射の検知技術】
ヨーロッパ標準分析法(CEN standards)及びコーデックス標準分析法などで定められている。
照射の検知技術
出典:食品照射—世界の状況と日本の取り組み—(久米民和 放射線と産業 114 号 2007 年)


8.主な参考文献

個別に出典を記載した資料の他は以下の文献。
●PDF食品照射の現状と展望(古田雅一 2011)
食品照射とは(日本食品照射研究協議会)
食品照射に関するQ&A(日本アイソトープ協会 2008/5/9)

メモ

放射線を多用する医療と放射線利用が極度に少ない食品の不思議( 諸葛宗男 GEPR 2018/10/23)
PDFハザード概要シート(案)(ジャガイモ)(食品安全委員会)
食品への放射線照射についての科学的知見のとりまとめ業務報告書(厚生労働省(2000年5月改定)
[ 2019/09/18(水) ] カテゴリ: 食品中の化学物質,リスク | CM(0)
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