ポストさんてん日記

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そば粉の勉強、水ごね10割そばが繋がる訳

[ 2018/07/09 (月) ]
現在、巷で出回るそばの大部分は小麦粉をつなぎに使っているようです。
(小麦粉に含まれるグルテンが粘りをだす効果。)
そば粉にはグルテンがないので、「そば粉だけではそばは打てない」との風説までもあるようですが、実際に経験すると、素人でも水ごねで10割そば(生粉打ちそば)を打てました。
余談ですが、個人的に難しいと感じたのが、『延し(本延し)』と『切り』で、一方、『捏ね(こね)』は加水の水量が適正(に指導を受ければ)ならそんなに難しくないというのが、経験した感想です。
今回は、そば粉の科学の勉強です。

目次

1.玄そばの構造
2.そば粉の種類
3.小麦粉は繋がり易く、そば粉は繋がり難い
4.10割そばが打てる(繋がる)理由の候補
 (1) 10割そばの電子顕微鏡像
 (2) でんぷんの糊化
 (3) そば粉をつなげる力として、でんぷんを利用するか、タンパク質を利用するか、に違いがある
 (4) 水溶性タンパク質説だけで良いのか?
 (5) ショ糖もある
 (6) 酵素の作用も考えてよいのでは?
 (7) 粒径(製粉の方法)も影響している
5.まとめ:全層粉の水ごねによる10割そばが繋がる理由

1.玄そばの構造
そばの実(殻の付いたままの状態)を「玄そば」と呼ぶ。籾殻(もみがら)を除去しただけの米を玄米というのと少し似ている。

玄そば(そばの実)は外側から中心部に向かって、殻(外皮)→種皮(甘皮)→胚乳→胚芽という構造になっている。
そばの実の断面
出典:そばの秘密!? (蕎麦空)

米・小麦など穀類のほとんどが、栄養たっぷりな胚芽の部分はまずいので取り除き、胚乳部だけを食べるのに対し、そばは胚芽に相当する子葉が 中心部に位置しているため、製粉の過程で胚乳部と一緒に製粉される。タンパク質や食物繊維に富む甘皮(種皮)も食用にできる。

2.そば粉の種類

丸抜き玄そばから殻を取り除いたもの)を製粉すると、外側からではなく中心部のほうから砕けて粉になっていく。(中心部分が一番脆いので。)
最初に挽き出されるのは、胚乳の中心部が砕けて粉になったもの。これが、でんぷん質が主体の色の白い粉で一番粉
篩でふるって一番粉を取った残りをまた挽く。次に、胚乳の残りや胚芽の部分が砕けて粉になる。蕎麦らしい色や香りがあり、タンパク質も多く含まれる。これが二番粉
さらに三番粉になると種皮(甘皮)の一部も挽き出されるので色も香りも濃く栄養価も高くなる。しかし繊維質が多くなるので、食感に特徴が出てきて好き嫌いが分かれる。
一番粉、二番粉、三番粉を合わせたものが全層粉ブログ主はこれでそば打ちしました。

可食部100g当たりに含まれる成分
可食部100g当たりに含まれる成分
炭水化物は、いわゆる「差し引き法による炭水化物」すなわち、水分、タンパク質、脂質及び灰分の合計(g)を100 gから差し引いた値
データ出典:食品成分データベース(日本食品標準成分表2015年版)

ロール製粉は、一番粉/二番粉/三番粉と取り分けることが容易にできる。
水車を利用して、杵(きね)などで搗(つ)いた胴搗き製粉は、粉を取り分けることができないので、挽きぐるみ(=全粒粉)になる。
最近は、自家製粉(石臼挽き)をしているお蕎麦屋でも、製粉所の石臼挽きでも、「一回挽き」と言って、一回の丸抜きの投入で7~9割の収率で蕎麦粉が取れるやり方をしている。

【豆知識01】更科蕎麦(さらしなそば)
一番粉は白く上品な香りを持つ。一番粉を使用した蕎麦が「更科蕎麦」。粘りがなく、お湯を使用(湯捏ね(ゆごね)、湯練り)するか、つなぎを使って作るのが大半。

【豆知識02】打ち粉
『延し』や『切り』でくっつかない為に使うのが打ち粉。そばを打つ粉と区別して、これを『端粉(はなこ)』『花粉(はなこ)』と呼ぶ所もある。
一番粉にはタンパク質があまり含まれず、粘りが少ないため、打ち粉に適している。
一方で、一番粉は高価なために、二番粉以下のそば打ちに使うソバ粉と同じものを使うお店や、麺に使うには古くなってしまったソバ粉を使うお店もある。うまく使えば打ち粉は、ほとんど、そばに入らない。

3.小麦粉は繋がり易く、そば粉は繋がり難い

小麦の場合、グルテリンタンパク質*1グルテニンプロラインタンパク質*1グリアジンの割合が絶妙(両者がほぼ同量)で、それらが水を吸収して網目状に絡みあったものがグルテンで、パン生地などに最適な弾力をもたらす。
そばの単純タンパク質
原典:食品学、東京化学同人より
データ出典:「そば粉製品≒めんのそば」なのはなぜか?(夜食日記 2012/6/7)
*1グルテリンプロラインも単純タンパク質(アミノ酸のみで構成されるタンパク質)の分類名で、それぞれ特徴が異なる。詳細はこちらのエントリーにあります。
キャプチャ
しかし、そば粉の場合、そのタンパク質の組成から、グルテンのような構造ができにくいため粘性が低くなる。

【メモ】小麦粉は含まれているタンパク質が多い順に『強力粉』『中力粉』『薄力粉』に分類される。

4.10割そばが打てる(繋がる)理由の候補
実は、ここが本エントリーに取り掛かった動機でした。調べた範囲では情報は意外に少なかったです。

(1) 10割そばの電子顕微鏡像
『さらしな生一本』という、さらしな粉100%の手打ち麺を電子顕微鏡で組織観察した文献がありました。

出典:PDF 電子顕微鏡によるそば麺の組織観察(大日方洋 金子昌二 長野県工技センター研報 No.3, p.F25-F30(2008) )

【関連写真および説明のごく一部のみ引用】
電子顕微鏡によるそば麺の組織観察
「さらしな粉」だけを用いてそばをつくる場合は,一般的には湯捏ね(ゆごね)法により製麺されている。この方法は,そば粉の一部を熱湯により糊化させ,その糊の粘着力によってそば粉の粒子同士を繋げて成形する方法である。図2の1500倍断面映像では,でんぷんが糊化され接着剤の役割を果している様子が観察された(D)

でんぷんの粒子が何らかのバインダー(写真ではD:でんぷんの糊化)に覆われて麺を形成している事が確認できました。

『でんぷんの糊化』というお話がでてきたので勉強です。

(2) でんぷんの糊化

【そば粉のでんぷん】
可食部100g当たりに含まれる利用可能炭水化物成分
可食部100g当たりに含まれる利用可能炭水化物成分
データ出典:食品成分データベース(日本食品標準成分表2015年版)

【でんぷんの糊化】
でんぷんは水には溶けない。水中で加熱し糊化温度(でんぷんの種類によって異なる)を超えると糊化する。糊化温度が低いのはトウモロコシのでんぷんで64~71℃、高いのはサツマイモのでんぷんで82~83℃。(出典はこちら

【湯捏ね(ゆごね)、湯練り】
そば粉の一部に熱湯を加水して糊化させたものを全体に混ぜ合わせていく。
参考までに、ユーチューブを2つ。会津で一般的な十割蕎麦の打ち方会津扶ち蕎麦(会津手打ち蕎麦)

さて、困りました。調べているのは『水ごねの10割そばが繋がる理由』なので。ヒントがありました。
(3) そば粉をつなげる力として、でんぷんを利用するか、タンパク質を利用するか、に違いがある
「水ごね」と「湯ごね」の違いは簡単に言えば そば粉をつなげる力としてたんぱく成分を利用するか でんぷんを利用するかという事にある。
そば粉にはグルテンはないが、わずかな水溶性のたんぱく成分がある。これは水に溶けると粘りを生じるから、この力だけでそば粉をつなげることも可能であるが、強い麺帯形成力にはならない。これに対して「湯ごね」では熱湯を加えることによって そば粉のでんぷんを糊化(α化)して粘性を引き出す。(出典はこちら

(4) 水溶性タンパク質説だけで良いのか?
調べていくと、水溶性タンパク質説をとる説明が比較的多いようです。
しかし、3項の表をもう一度みてみます。

そばの単純タンパク質
原典:食品学、東京化学同人より
データ出典:「そば粉製品≒めんのそば」なのはなぜか?(夜食日記 2012/6/7)
唯一の水溶性タンパク質であるアルブミンの含量は5%、可食部100gに対してタンパク質が12gなので、アルブミンは0.6gしかありません。
(なお、グロブリンを水溶性タンパク質とする言説も結構ありました。)


(5) ショ糖もある
(2) でんぷんの糊化、で掲載した成分表をみるとショ糖が1.1gある。ショ糖(スクロース)とは砂糖のことでグルコースとフルクトースが1対1で結合したもの。
0.6gの水溶性タンパク質がつなぎになるなら、このショ糖も十分なつなぎ効果を持つと考えられる。

ブログ主の仮説
(6) 酵素の作用も考えてよいのでは?
前述のように、全層粉には胚芽の部分が入っているので、種子が発芽するためには必要なアミラーゼマルターゼなどのでんぷん分解酵素や、プロテアーゼなどのタンパク質分解酵素も存在する。ゆえに変質しやすいく貯蔵性に劣る。
捏ね(こね)の段階でそれらが働いて、(100g中に62.7gある)でんぷんから糖類、(100g中に12gある)タンパク質からアミノ酸が生成すると考えられる。糖類は水溶性であるし、そば粉のアミノ酸には親水性のものが多くある。例えば、下表の上位3種:グルタミン酸アスパラギン酸アルギニン、は親水性である。
可食部100g当たりに含まれるアミノ酸成分
可食部100g当たりに含まれるアミノ酸成分
データ出典:食品成分データベース(日本食品標準成分表2015年版)

(7) 粒径(製粉の方法)も影響している
ロール挽きの粉は粒形が比較的単純であるのに対し、石臼挽きの粉は表面が複雑で且つ細かい粉も多数存在している。このことは蕎麦を打つときの繋がり方に影響を与える。
全粒粉の蕎麦粉でも、粗挽きにするなど、特殊な製粉を行った場合は、つながりにくくなることがある。(出典はこちら
ロール 石臼 顕微鏡写真
だいぶ長くなりましたがブログ主なりの結論です。
5.まとめ:全層粉の水ごねによる10割そばが繋がる理由

そばのでんぷん粒子がバインダーとしての糊状の物質に覆われることで繋がる。バインダーとなるのは
 ・水溶性たんぱく質、
 ・糖類、
 ・酵素の作用を受けて生成した糖類や親水性アミノ酸など
であるが、いずれも少量で、そば粉の産地などによる成分の違いもあり一概には言えない。なお、粒径(製粉の方法)も影響している。
[ 2018/07/09(月) ] カテゴリ: そば(蕎麦)の科学 | CM(0)
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