ポストさんてん日記

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PKA(@PKAnzug)先生の甲状腺がん過剰診断に関する解説

[ 2017/04/10 (月) ]
PKA(@PKAnzug)先生が甲状腺がんの過剰診断に関するtweetをまとめて発信されていますので、アーカイブさせていただきます。

PKA(@PKAnzug)先生の甲状腺がんの過剰診断に関する連続tweet
2017/4/1 13時頃

福島での甲状腺スクリーニングの過剰診断の話、主流になってる「過剰診断が問題だからやめよう」という話に私も概ね同意ながら、若干違った意見を持ってもいるので敢えて口をはさまずにいましたが、やはり議論としてちょっと雑な印象があるので、少しだけ書きますね。

最初に結論を書くと、私も一斉検査は中止して、検査をやってること自体もあまり触れないようにしつつ、希望者は容易に無料で検査を受けられるようにし、受診者には甲状腺癌の「癌らしからぬ特徴」をきっちり説明し、甲状腺病変があった場合の治療やフォローも自費負担0にするのがいいと思っています。

で、「甲状腺癌が心配だから続けよう」論だけでなく「過剰診断が問題だからやめよう」論も雑だと言うのは、受診者を一塊に捉えてるからです。受診前は分からなくても、受診者の状態は様々で、その条件によってメリットもデメリットも大きく異なります。条件によって受益者にも被害者にもなるんですよ。

受診時点の受診者の状態は以下のものがありえます。
・甲状腺癌がある
・癌ではない甲状腺病変がある
・病変は何もない
さらに書くと、受診してもわかりませんが、「甲状腺癌がある」には「放置すると問題を起こす癌がある」と「放置しても一生問題にならない癌がある」の2種類がある。

で、受診者で一番多くの割合を占めるのは「何も病気がない」です。この人たちに関しては、検査をやってもやらなくても大差ない。ただ、散々「甲状腺癌になるぞ」と脅かした人たちがいた一方、「あんなんで甲状腺癌増えねぇよ」って声はあまり届いてないので、不安感を払拭できるというメリットはある。

次に、最多ではなくても相当いるのが「癌ではない甲状腺病変がある」です。この人たちに関しては医者の能力に依存する要素が大きく、心配ないものはちゃんと心配ないと伝えて、フォロー不要な病気をフォローしたりしなければいいですが、癌はなかったと安心する人も、不安や不利益を被る人も出うる。

ただ、ここまでの人に関しては、多少の利益不利益はあれど、ぶっちゃけ「検査をしてもしなくても大差のない人たち」です。受診者のほとんどがこのどちらかで、人数が非常に多いので無視はできませんが、個別には些細な話。
割合は非常に低いけど個別の問題が大きいのは、甲状腺癌がある人たちです。

まず「将来的に問題を起こす甲状腺癌がある人たち」に関してですが、この層に関しては明確なメリットがあります。早期発見で問題を起こす前に治療でき、また大きくなってないから治療の侵襲も比較的小さい。すぐに治療が必要ない事例も、事前に警戒してマズくなりそうなら治療する流れに乗せられる。

一方の「一生問題を起こさない甲状腺癌がある人たち」、要するに過剰診断の層には大きな不利益が待ってます。本来なら何もせずとも何の問題もなかったのに、確定診断までの検査の侵襲、治療するなら治療の侵襲や後遺症、治療しなくても「癌がある」という事実への心理的負担は非常に大きいです。

問題は、この同じ「甲状腺癌がある」でも意味の異なる集団は、事前には全く見分けがつかず、また比率も分からんということです。比率に関してはヒントはあって、韓国で甲状腺を調べるようにしたらガバッと有病率が増えて、その後20年くらい経過しても甲状腺癌による死亡率の減少は見られていません。

これは過剰診断が大半であることを示唆するデータですが、それでも答えではないです。韓国のは未成年を検査したものではないし、進行甲状腺癌で後遺症モリモリだけど死んでない事例は数に入らないし、甲状腺癌が副次的な死因である事例も入ってないし、そもそも20年くらいしか経ってない。

結局のところ「未成年で甲状腺癌が見つかった人たち」のうち、どれくらいが過剰診断で、どれくらいが早期発見がメリットになる症例なのかは分からんわけですよ。過剰診断は1人もいないかもしれないし、今見つかってるのが全員過剰診断かもしれない。

なので、受診者にとっての医学的なメリット・デメリットという観点からは、甲状腺スクリーニングが有益か有害かは正直わかりません。見つかった甲状腺癌のエコー画像でも見れば、「ああ、これは切った方がいいね」とか多少は見えるかもしれませんが、数字だけだと私にも全く見当がつきません。

私は甲状腺癌の治療にしばらく携わってて、こじれた結果として苦労してる(ただし死ぬことは滅多にない)患者さんも数多く見てるので、甲状腺癌に関しては偏ってる自覚があります。正直な所、個人的には「どっちか分からないなら、こじれる前に切った方がまだマシなんじゃないか」くらいは思ってます。

私があまり口を挟まなかったのは、その辺の偏りを自覚していたから、というのもあります。元々、「あの原発事故で甲状腺癌増加なんて起こらん。チェルノブイリとは違う」と思ってるので、一斉検査をやめるのには同意ながら、「過剰診断が問題だからやめよう」に全面的に同意はできなかったんですね。

で、メリット・デメリット論では私には結論が出せませんが、結論が出せるものもあります。まずはコスト論。「本来必要のない一斉検査に、資金と医療リソースが湯水のように注がれてる」という状況は明らかにおかしい。これは現状でも断言できます。

次に、心理的な問題。一斉検査を行うということは、既に心配してる人には安心感を与えうる一方、特に気にしてない人にいつまでも甲状腺癌のリスクを意識させ続けることにもなります。煽り屋に「検査をしてるってことは危険があるということだ」という主張を許すことで、不安を煽る要因にもなる。

「甲状腺癌のリスク」は既に散々煽られてる話で、そういう煽り屋のせいで不安に思ってる人も多いでしょうから、希望者には検査を受ける道をちゃんと用意しておく必要がある。その上で一斉検査はやめて、甲状腺癌への不安をフェードアウトさせていくのが、現状では一番いい方法ではないですかね。

ということで、久しぶりの長文連投でした。楽しいエイプリルフールに突然済まんです。

がん検診の類いって、特に対策型がん検診は「早期発見を促進する」という目的が主ですが、任意型がん検診(全額自費で行うがん検診)には「安心を買ってる」という側面が大きいと思うんですよね。実際のところ、検診で異常が見つかったのに精査になかなか来ないという人も案外います。

菊池誠
疫学調査が目的なら甲状腺悉皆検査は正当化されないと考えるわけです
これは本当にその通りで、検査をやるなら受診者のためでなくてはいけない。
あと、疫学調査的にも既に十分なデータが出てるように思います。

ということで、さっきの連ツイ&きくまこ先生コメントをまとめていただきました。もう片方の題名が変なまとめは無視して下さい。
Togetter 甲状腺癌検診に潜むデメリットとは、


上記 Togetterのコメント欄での発信

まとめのツイートでもちょっと触れてますが、1つ補足しておくと、韓国でのスクリーニング発見は「がん検診の追加検査」で起こってるんですよね。つまり、がん検診を受けるような年齢の人たちが対象なので、未成年に対して行ってる福島の事例とはだいぶ層が異なるんです。未成年で発見された甲状腺癌の場合、早くに出てきた癌であり、その後の人生も長いわけで、問題になってくる可能性もそれなりにあるんじゃないかな、というのが私の見立てです。


その後のtweet

昨日の呟きに関連して「福島以外の地域でも甲状腺調査をして比較すればいいのに、しない理由がわからない」というのが飛んできましたが、しないのは「倫理・有用性・コストの全てにおいて論外だから」ですよ。本当にわからないなら考察のスタートラインにも立ってないので、口を挿まない方がいいです。

あ、ちょっと言葉が足りなかったです。散発的な調査は知ってますが、「福島と同じように大規模一斉調査をやれ」って主張してる人たちがいるんですよ。(しばらく本件は離れてたので、もしそれも実施してるんだったら、「それはいかんだろう」的意味で真顔になります)

嫌でも分かるように書くと、「他地域も巻き込んだ広域の甲状腺癌調査」ってのはある種の人体実験なんですよ。これ以上の説明は不要と思いますし、もし「無関係な人を人体実験に使う」が安心の名の下で許されるとあなたが思ってるなら、これ以上話す意味はないです。

甲状腺癌の一斉調査に関して呟いたら「他地域での一斉調査」という人体実験が「安心」という免罪符で許されると思ってる連中がワラワラと湧いてきて、医学研究を倫理規定でガチガチに縛ることの重要性が嫌ってほど分かりますな。

建前「心配の解消のために広域で甲状腺癌の調査を」
本音「全国各地で調査して潜在してる甲状腺癌患者を掘り起こせば、『原発事故の影響が日本全国に!』って煽れるし、子供に病気が見つかってショックを受けた人をオルグして仲間に引き入れられるから、ぜひとも国と東電の金でやらせたい」


以下、別の情報ですが勉強になりましたので。
がん検診に害は無いのか
Interdisciplinary 2017/3/27

【ごく一部の“まとめ部分”のみ引用】
このように、検診を研究したり推進したりする組織のWEBサイトや、検診の基盤である学問の教科書では、検診に伴う害あるいはデメリットが説明してあります。検診は、これらデメリットと、得られるメリット(死亡する人を減らせるか、など)とを勘案して、どのような人々におこなうかや、推奨の程度が決められます。科学的根拠に基づくがん検診推進のページ では、各種検診のメリットデメリットを定量的に評価し、推奨のグレードが決められて、ガイドラインが作成されていますので、参照を勧めます。
検診について議論をおこなうならば、最低でも、これらのデメリットがある事、専門家もそれを認識している事、をまず押さえておくべきであると言えます。その上で、メリットデメリットがどの程度だと評価されているか、などを検討していく事が肝要です。
その意味で、検診自体には害はあるはずはないなどと主張してしまうのは、議論のスタートラインに立ててすらいない、と言えるでしょう。


メモ

福島における甲状腺がんをめぐる議論を考える―福島の子どもをほんとうに守るために(服部美咲 SYNODOS 2017/5/10)
福島で子供の甲状腺がんが急増している、との記事への素朴な疑問(五本木クリニック | 院長ブログ 2017/4/21) 2017年4月19日に鎌田實さんの署名入り記事でこのようなものがJapan Business Pressに掲載されていました。
現役医師が語る、福島と韓国で甲状腺がん患者が急増した真の理由( ドクター徳田安春 まぐまぐニュース 2017/2/1)
多段階発癌説で見た福島県民健康調査と微小癌の経過観察(ふぁっつ・にゅう 大阪大学大学院医学系研究科甲状腺腫瘍研究チーム)
韓国では無駄な検査で甲状腺がんが6倍に?((大脇 幸志郎 MEDLEY 2016/12/15)
甲状腺検査どうあるべきか 武部氏、「無実のがん」見つけている (2016年9月14日 福島民友)(武部晃司 Yahoo!ブログ 2016/9/14)
少量の放射線はそれほど悪いのか 「発がんリスク仮説」見直しの動き( WSJ 2016/ 8/ 15 )

関連エントリー

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[ 2017/04/10(月) ] カテゴリ: 甲状腺がんなどに関する | CM(0)
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