ポストさんてん日記

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日弁連 福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書

[ 2011/06/30 (木) ]
日弁連が6月20日に「福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書」を内閣総理大臣及び経済産業大臣に対し提出している。

【つぶやき】
 今までに本ブログで紹介してきた東電の破綻処理・賠償スキームの意見・情報とほとんど同じ論調であり、全文もっともだ。
 この事がほとんど報道されていないのは、何故なんだろう? “原子力ムラ”の呪縛か?(産経の原発事故損賠、日弁連が意見書「送配電網の国有化を」 だけの様である)


【全文引用】
福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについての意見書
2011年(平成23年)6月17日
日本弁護士連合会
第1 意見の趣旨
福島第一原子力発電所事故による損害賠償の枠組みについては,以下の3つの原則が確立されるべきである。
(1) 東京電力の現有資産による賠償がまずなされること。
(2) 不足する部分については国が上限を定めず援助する法律上の義務があること。
(3) 原子力発電所災害を完全に防止するため,損害賠償についての枠組みは,持続可能なエネルギー供給・需要体制の構築と調和するものでなければならないこと。

上記原則に基づき,東京電力による賠償を実施するための国の援助策は,以下のようにすべきである。
(1) 東京電力による損害賠償に対する援助としては,現在計画されているような「資本注入・資金援助」ではなく,国が東京電力の送配電事業(関連知的財産権を含む。以下同じ。)の譲渡を受け,その対価として被災者への損害賠償債務を引き受けることによって行う。また,東京電力が有する保養所等その他の資産を民間等に売却し,それによって生じた資金も損害賠償の原資とする。
(2) プルサーマル計画を中止し,再処理等積立金を損害賠償原資として活用する。
(3) 損害賠償額が(1)(2)を超えるときは,東京電力が継続して営む原子力発電以外のその他発電事業(以下「その他発電事業」という。)の収益及び国が買い取った「送配電事業」の収益をもって損害賠償の原資とする。
(4) 以上の過程を通じて,東京電力による資産散逸・資産の浪費を防ぎ,資産譲渡によって得られた原資を損害賠償債務の弁済に充てることを確保するため,東京電力の法的整理を検討するべきである。
(5) 送配電事業は,その公共性に配慮し,リスクに強い,分散型の,スマート・グリッドを整備すべきである。送配電事業については,損害賠償が終了するまで国又は公的機関が管理する。

第2 意見の理由
東京電力の賠償額に事前の上限を設けない政府方針は適切である
 福島第一原子力発電所事故による被害は,被害者数(避難対象だけで8万人,比較的高い放射線レベルで100万人規模),被害面積(避難対象だけで800㎢-東京23区と八王子市を合わせた面積,比較的高い放射能レベルでさらに500㎢,汚染が及ぶ区域は関東全域から岩手・山形まで200km 圏内まで),被害の内容のいずれをとっても深刻かつ重大な,類例のない大規模被害であり,原状回復・損害賠償のいずれの点でも徹底した回復が必要である。
 その点,政府が5月13日,東京電力の賠償額に事前の上限を設けないとしている点は極めて適切である。

東京電力の現有資産の売却による賠償が大原則である
 その一方で,政府は東京電力による損害賠償を支援する仕組みとして,同日,新設する支援機構を通じた東京電力への資本注入や資金援助を,上限を定めず何度でも行うとし,支援機構への拠出金は各電力会社に事業コストから負担金として出させるとした(平成23年5月13日 原子力発電所事故経済被害対応チーム関係閣僚会合決定「東京電力福島原子力発電所事故に係る原子力損害の賠償に関する政府の支援の枠組みについて」。その後6月14日閣議決定。)。
 そもそも,原子力損害の賠償に関する法律第16条は,事業者が損害賠償責任を果たしえない場合に国が援助する義務を負うことを定めているものであって,損害賠償責任を負う東京電力の資産を最大限に活用し「東京電力の現有資産による賠償が大原則」との原則がまず貫かれるべきである。
 ところが,5月13日に発表された「枠組み」は,東京電力の賠償債務を,東京電力の現有資産によってではなく,長期的な事業コストで賄わせる仕組みと理解される点で,大きな問題がある。
 この手法は結局のところ,中長期的に国民の電力料金負担によって賠償債務を負担するスキームにほかならない。
 すなわち,電力料金は,事業コストに一定の収益を上乗せした料金に設定することが認められている(総括原価方式)ため,費用を原則全て価格に転嫁することが認められる。この特殊な産業構造を持つ電力会社の損害賠償“債務”を,中長期的な事業費用で負担することになれば,国民が電気料金で賠償しているのと本質的に全く変わらなくなってしまい,東京電力の責任の所在があいまいとなる。
 また,資産を売却しないために,賠償に必要な資金が早期に調達できない。したがって,賠償原資の捻出にあたっては,あくまで東京電力が保有する資産を早期に売却し,賠償原資を捻出する必要がある。
 東京電力の最大のまとまった,譲渡価値のある資産は送配電事業であり,その資産価値は,簿価で約5兆円である。これにその他の東京電力が有する保養所等資産の民間等への売却によって得られる6000億円と合わせると,これらの原資が東京電力の損害賠償に充てられることを確保する法的工夫が整う限りにおいて,当面の賠償原資としては十分な額である,約5兆6000億円が確保できる。
 このように,約5兆円の原資をただちに用意でき(しかも,その約半分は次項の再処理等積立金を取り崩すことで負担なく用意でき),かつ,今後の国の援助資金の捻出に送配電事業の事業収益を充てる必要があり,また,送配電事業という公共性の強い事業の公正なる管理運営をするべきことを考えると,この事業は,国が買い取ることが相当である。

再処理等積立金弁済原資とすべきである
 原子力発電における使用済み燃料の再処理等のための積立金の積立て及び管理に関する法律(平成17年5月20日法律第48号)に基づき,核燃料サイクルのための再処理事業を適正に実施するために必要な資金を確保するため,再処理等積立金2兆4416億円(2010年度末)が積み立てられている。
 再処理等積立金は,経済産業省と密接に関連する公益財団法人である「原子力環境整備促進・資金管理センター」にストックされている。本法人が持つストックには,最終処分積立金再処理等積立金の2種類があり,両者の預り金の合計は3兆円前後あるところ,このうち再処理については,プルサーマル(プルトニウムとウランを混合したMOX燃料を現行の軽水炉に装荷して発電する方式)計画を中止することによって今後発生しなくなる。
 当連合会は,1998年5月の定期総会での「日本のプルトニウム政策及びエネルギー政策に関する決議」で,1995年12月の高速増殖炉「もんじゅ」のナトリウム漏れ事故及び1997年3月の動燃東海再処理工場の火災・爆発事故を受け,プルトニウム利用の危険性と再処理技術が未確立であることを指摘し,使用済燃料の再処理を止め,高速増殖炉・プルサーマルなどプルトニウムをエネルギー源とする政策を放棄すべきとした。
 また,プルサーマル計画を中核とする使用済み核燃料の再処理の仕組みは,原子力発電の燃料となるウラン燃料を1割程度しか削減できない上,再処理等のバックエンド(使用済み核燃料の再処理の他,廃棄物の輸送,管理,処分等発電の後処理)にかかる費用の合計が18兆8000億円(再処理費用合計とMOX燃料加工費だけでも12兆1900億円)かかる一方で,得られるMOX燃料(ウラン・プルトニウム混合酸化物燃料)の価値は9000億円程度であり,経済合理性が全く認められない。
 浜岡原子力発電所の停止や今後の老朽化原発の廃炉によって,ウラン燃料の消費量は減少していくことが確実であるから,使用済み核燃料の再処理を行う必要性もない。
 以上により,再処理等積立金は不要であるから,この2兆4416億円損害賠償原資に充てる資産の買収資金の一部として取り崩すべきである。

国の財政の健全性を損なわない提案
 上記資産譲渡によって,東京電力は,短期的に5兆6000億円損害賠償原資を確保できる。優先権を持つ社債との関係が問題となるため,この点は次項においてみたような,資産流出を防ぎ東京電力の損害賠償原資を確保する法的工夫が必要となるが,それが整う限りにおいて,当面の賠償原資としては十分な額である。
 国は,このうち,資産譲渡の対価となる,5兆円の資金を調達する必要があるが,その約半分に相当する資金として,再処理等積立金の取り崩しを充てることによって,調達すべき資金は縮小できる。
 しかも,これらの資金は,あくまでも資産のある価値の対価として支払うものであるので,現状の政府案のように,当面の見返りなく国が資金援助をする仕組みとは大きく異なり,国の財政の健全性が損なわれることはなく,国の財政に対する世界的信頼性が大きく毀損する心配はない。
 また,送配電事業については,損害賠償が終了した時点で一定割合を民間に売却することによって,国が一定程度の資金回収をすることも可能である。

資産を保全し損害賠償債務の弁済に充て,株主や債権者の責任を明確にするために法的整理が検討されるべきである
 さらに,以上によって,東京電力にはある程度の賠償原資が生じるが,資産の散逸・浪費を防ぎ,資産を保全するとともに,資産譲渡によって得られた弁済原資損害賠償債務の弁済に充てることを確保することが重要である。
 また,今日,社会的に責任ある融資・投資活動が強く求められており,リスクある事業に融資や投資をした債権者や株主が,その責任を引き受けることなく税金や電力料金の値上げで救済を受けることはモラルハザードに当たる。
 その視点からみても,5月13日に発表された「枠組み」は,送配電発電の両事業を東京電力が継続して行うとし,結果的に,東京電力が費用負担や債務弁済も自由にできるものであり,また,無担保債権者への弁済や役員・従業員の給料,退職者の一時金や年金その他の支払は自由というもので,株主や金融債権者の責任も問われないものである。
 そうなると,東京電力の事業継続の過程で,4兆4000億円に上る社債の返済を含む債務弁済や費用支出という形で,資産の散逸・浪費がなされ,上記の資産譲渡によって得られた原資を損害賠償債務の弁済に充てられないおそれがある。
 そのような事態を防ぐためには,第一に,東京電力の送配電事業を切り離して,国に委ねることが必要である。
 また,第二に,その経営を厳密に監視し,管理するとともに,資産譲渡によって得られた弁済原資損害賠償債務の弁済に充てることを確保する仕組みが必要である。
 そのために,東京電力の法的整理を真剣に検討するべきであり,この法的整理手続においては,資産譲渡の対価として被災者への損害賠償債務を国が引き受けるなど,資産賠償の対価が損害賠償債務に全額確実に充てられるような方策を,必要な立法措置も含め,検討するべきである。

国民負担の最小化損害賠償についての枠組みの基本とすべきである
 以上のようにしても,損害賠償債務の総額は,東京電力の資産を超えると思われることから,第1の2(1)の資産売却で賠償しえない部分については,第一に,東京電力に残される「その他発電事業」(原発以外の発電事業)の今後の収益により,それで賄えない部分について,第二に,国費による賠償を投入する必要がある。
 東京電力が営む「その他発電事業」も,国営となる送配電事業も,徹底した経費削減等によって,最大化された利益から損害賠償原資を創出することによって,国民負担を最小化すべきである。また,送配電事業という公共性の強い事業を国営化し,「その他発電事業」から切り離すことにより,発電事業に適切な競争が生じ,東京電力の損害賠償の負担がただちに,電力料金に転嫁されないこととなる。
 その点,5月13日に発表された「枠組み」では,東京電力がそのまま送配電事業を行うために,損害賠償の負担が容易に電力料金に転嫁されるとともに,「その他発電事業」と分離されないために,経費削減が著しく不十分なままに推移している。徹底した経費削減経営の効率化のために,送配電部門と発電部門の分離及び新会社への資産譲渡方式による分割が不可欠である。
 現在でも,東京電力の事業利益は,年間3000億円から4000億円ほどであり,今後長期間にわたる損害賠償の相当部分を賄えるものの,不足が生じることは十分予測できる。しかし,当初に得られた売却代金等や再処理等積立金の残額を活用するとともに,徹底した経費削減等によって,利益を最大化し,国民負担を最小化することが可能である。
 前述したとおり,5月13日に発表された「枠組み」は,東京電力の資産を最大限に活用するものではなく,中長期的に国民の電力料金負担によって賠償債務を負担させるものであるうえ,経費削減や経営管理の点でも不十分なので,税金・電力料金値上げという形での国民負担を増加させるものである。
 その点,上記のスキームは,当面の賠償は,資産売却代金と再処理等積立金で相当部分賄うことが可能と考えられるだけでなく,その後の賠償も,競争的環境による徹底した経費削減によって,利益を生み出し,電力料金の値上げや増税による国民負担を最小限にとどめることが可能となるのである。

持続可能なエネルギー供給・需要体制の構築と調和する損害賠償についての枠組みを
 今回の事故の被害の深刻さ重大さを踏まえると,二度と原発災害の再発をさせないということが最重要の目的とならなければならない。そのためには,当連合会が繰り返し求めてきたように,原子力発電所の新増設を停止し,既存の原子力発電所は段階的に廃止すること,危険性の高い原発は速やかに停止する ことが求められる。
 さらに,地球温暖化防止・省資源化のために,再生可能エネルギー推進を進める必要性をあわせ考えると,持続可能なエネルギー供給・需要体制の構築が必要不可欠である。
 そのためにも,送配電部門発電部門を分離し,再生可能エネルギーの拡大を可能とし,かつ,リスクに強い,分散型の,スマート・グリッド(供給者と消費者の間を双方向的な情報通信システムで結び,刻一刻変化するエネルギーの供給量に見合った消費者側の行動を引き出し,エネルギー消費をコントロールしていくシステム)を整備することが不可欠である。
 この点については,当連合会の本年5月6日付け意見書「エネルギー政策の抜本的な転換に向けた意見書」において提言したとおりである。
 前述の,5月13日に発表された「枠組み」が,仮に送配電部門発電部門の分離をせず,両者を今後も東京電力が営むことを前提とするならば,原子力発電のコストの公正なる評価もできず,また,今後の我が国における再生可能エネルギー産業の成長をも阻害するものであって,原発災害の再発防止につながらないものとなり,持続可能なエネルギー供給・需要体制の構築と調和しない。
 この点からも,送配電事業については,国が買い受け発電事業から切り離し,福島第一原子力発電所事故の損害賠償が完了するまでは国又は公的機関が管理するような,損害賠償の枠組みが必要不可欠である。

結論
 福島第一原子力発電所の事故は,我が国が経験したことのない深刻な災害であり,被災者の苦難は長く続くことが想定される。被災者に対する賠償の根本が生活環境そのものの原状回復でなければならないことは繰り返し指摘してきた。
 このような損害賠償が確実に実施され,被災者の生活再建を確実に実行していくことは震災対策の最も重要な課題である。福島第一原子力発電所事故による損害賠償についての枠組みは被害回復措置 の確実な実行と持続可能なエネルギーの供給・需要体制の確立と両立するようなものでなければならない。
 よって,意見の趣旨記載のとおりの意見を述べるものである。
以上

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●【オピニオン】東京電力 予想外の破綻?
[ 2011/06/30(木) ] カテゴリ: 東電問題,原子力ムラに関す | CM(0)
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