ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

食品中のトランス脂肪酸は問題か?

[ 2017/01/05 (木) ]
表題について、諸情報をメモっていましたが、基礎の部分の勉強を後回しにしていたので、理解が進みませんでした。
今回、基礎部分を含めて、勉強してみました。

目次

1.理解のための基礎知識
2.トランス脂肪酸の最大摂取量の基準
3.最近も、結構な騒ぎになったキッカケは
4.個人のマーガリン忌避は、意味がない
5.結論的なもの
6.マーガリンは食べるプラスチックというデマについて
7.おまけ

1.理解のための基礎知識

油脂、脂肪酸

油脂は、グリセリン脂肪酸という分子からできている。
常温で液体のあぶら(油)と固体のあぶら(脂)がある。
油脂グリセリン脂肪酸 油脂

グリセリンは常温常圧で無色透明の液体。保水性と保湿性を示す。浣腸液や目薬に使用される。ニトログリセリン(爆薬)の原料。
グリセリン脂肪酸カルボキシル基と結合することができる手を3本持っていて、グリセリンに脂肪酸が(エステル結合で)3個つながったものはトリグリセリドトリアシルグリセロール)と呼ばれている。私たちが普段食べている油脂の成分の多くはこのトリグリセリドトリアシルグリセロール)。
油脂や脂肪酸、グリセリン、コレステロールなどをあわせて脂質と呼ぶ。
脂肪酸は人間のからだの細胞を作るために必要、また、エネルギー源としても使われ、私たちの体内でトリグリセリドトリアシルグリセロール)として蓄えられている。

健康診断の項目にある血液中の中性脂肪とは、このトリアシルグリセロールを測定したもの。

この3つくっつく脂肪酸の種類によって油脂(中性脂肪)の性質も変化する。

脂肪酸は、炭素(C)の原子が鎖状につながった分子で、その鎖の一端に酸の性質を示すカルボキシル基(-COOH)と呼ばれる構造を持っているのが特徴。
鎖の長さや炭素の二重結合(-CH=CH-)の数と位置によってたくさんの種類があり、炭素の二重結合がない飽和脂肪酸と炭素の二重結合がある不飽和脂肪酸の2種類がある。
二重結合のない飽和脂肪酸は化学的に安定しており、溶ける温度(融点)が高く室温では固体の状態。動物性油が室温で固体なのはパルミチン酸やステアリン酸など飽和脂肪酸が多いから。
一方、二重結合がある不飽和脂肪酸は化学的に不安定で、低い温度でも溶け、10~20℃程度の室温では液体の状態。植物性油脂が室温で液体なのは不飽和脂肪酸が多いから。

シス型とトランス型03
シス型とトランス型
シス型とトランス型04
二重結合を中心に見ると、結合の向きが違う場合があり、水素原子が同じ側にある場合をシス(cis)型、反対側にある場合をトランス(trans)型という。
シス(cis)とは、“同じ側の、こちら側に”という意味、トランス(trans)とは、“横切って、かなたに”という意味。

シス型のオレイン酸と、トランス型のエライジン酸では、同じ分子量(分子を構成する各原子の数が同じ)で構造だけが異なるが、それぞれの融点はオレイン酸が約13℃、エライジン酸が約47℃と大きく異なる。
トランス型は炭素の鎖がまっすぐなため、沢山集まった時にも整然と並びやすく、分子同士の密度も狭く、分子間力でくっつきやすくなり、融点は高くなる。

【豆知識】上記のペアとは違うが、マレイン酸とフマル酸が世界で最初に発見された シス-トランス異性体の関係にある化合物。

個別に記載がない主な出典:すぐにわかるトランス脂肪酸(農林水産省)トランス脂肪酸(農林水産省)

トランス脂肪酸

上記のように、トランス脂肪酸は、トランス型二重結合という特有の構造を持つ不飽和脂肪酸の総称

【天然にできるもの】
天然の不飽和脂肪酸はふつうシス型だが、牛や羊などの反芻(はんすう)動物では、胃の中の微生物の働きによって、トランス脂肪酸が作られる。そのため、牛肉や羊肉、牛乳や乳製品の中に少量のトランス脂肪酸が含まれる。

【油脂の加工・精製でできるもの】
常温で液体の植物油や魚油から半固体又は固体の油脂を製造する加工技術の一つである水素添加によってトランス脂肪酸が生成する場合がある。
水素添加というものは不安定な不飽和脂肪酸に水素添加により飽和脂肪酸を作り出す操作。これにより酸化されにくく、常温で固まりやすい加工油を作り出すことができる。
この時に本当はいらないトランス脂肪酸もできてしまう。

水素添加によって製造されるマーガリン、ファットスプレッド、ショートニングや、それらを原材料に使ったパン、ケーキ、ドーナツなどの洋菓子、揚げ物などにトランス脂肪酸が含まれている。

また、植物から油を絞る際には、精製する工程で好ましくない臭いを取り除くために高温で処理を行うが、この際に、植物に含まれているシス型の不飽和脂肪酸からトランス脂肪酸ができるため、サラダ油などの精製した植物油にも微量のトランス脂肪酸が含まれている。
生成要因によるトランス脂肪酸の分類出典:「食品に含まれるトランス脂肪酸の食品健康影響評価」(食品安全委員会のPDF

油脂は重要な栄養素、だが、とりすぎに注意

油脂などの脂質は、三大栄養素の一つ(他二つは炭水化物(でんぷんや糖類)、たんぱく質)であり、私たちの身体を構成する細胞膜の主要な成分であり、主要なエネルギー源。
不飽和脂肪酸のリノール酸α-リノレン酸は体内合成できず、食事から摂取する必要があるため、必須脂肪酸と呼ばれる。

しかし、からだの中に吸収され、エネルギーとして使いきれなかった脂質は、中性脂肪として貯蔵される。とりすぎた場合には肥満、メタボリック・シンドローム、さらには冠動脈性心疾患のリスクを高める。

飽和脂肪酸の摂取量が過剰になると、血液中のLDLコレステロール(悪玉コレステロール)を増加させ、このことも冠動脈性心疾患のリスクを高める。 一方で、油脂が少なすぎると、食後の血糖値及び血液中の中性脂肪値が増加し、血液中のHDLコレステロール(善玉コレステロール)は減少し、このような状態が長く続いた場合にも冠動脈性心疾患のリスクを高める。
さらに、同じエネルギー(カロリー)の飽和脂肪酸とトランス脂肪酸を比較した結果、後者のほうが血液中のコレステロール値に悪影響を与えることがわかった。

トランス脂肪酸の作用としては、LDLコレステロールを増加させ、HDLコレステロールを減少させる働きがある。
トランス脂肪酸については、食品からとる必要がないと考えられており、飽和脂肪酸塩分のとりすぎ、過体重アルコールのとりすぎとともに、心血管疾患(CVD)、特に冠動脈性心疾患(CHD)のリスクを高める確実な証拠があるとされている。

トランス脂肪酸はLDL/HDL比を増加出典:トランス脂肪酸情報~リスクアナリシス(分析)講座 「食べたものはどこにいく? 」(食品安全委員会PDF

LDLHDLというのはリポたんぱく質と呼ばれるものの一つで、そのままでは水に混ざらない中性脂肪コレステロールなどの油を血液中に溶け込んで運ぶ事のできる形にしたもの。
  • LDL:低比重リポたん白質、悪玉コレステロール
    全身の必要な場所にコレステロールを運ぶ役割
  • HDL:高比重リポたん白質、善玉コレステロール
    全身から余分なコレステロールを引き抜き肝臓に戻す役割
どちらの役割も大切だが、そのバランスが崩れたときには身体にも悪い影響が現れる事が知られている。
出典:トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(データ検証編) - とらねこ日誌


この辺りの説明は、上記PDFのほか、下記も読みやすい。
油脂やトランス脂肪酸の健康に与える影響(農林水産省)

2.トランス脂肪酸の最大摂取量の基準

WHOの勧告(目標)基準

WHOの目標値
出典:トランス脂肪酸ってどれぐらい危険なの(データ検証編) - とらねこ日誌

上表のとおり、WHOの勧告(目標)基準では、
トランス脂肪酸については総エネルギー摂取量の1%
日本人が消費するエネルギーは平均で約1,900 kcal/日、その1%は約 2g/日未満が相当。(平均的な活動量の場合)

参考:トランス脂肪酸のファクトシート(食品安全委員会PDF

以上のような背景の中で
3.最近も、結構な騒ぎになったキッカケは

2016/6/16の米国FDA(米国食品医薬品庁)の文書

ポイントは2点
  • 植物油に水素を添加して固形や半固形にした部分水素添加油脂partially hydrogenated oils = PHOs(液体の油から作られるため硬化油ともいう)を一般的に安全な物質(GRAS:generally recognized as safe)のリストから除外する。
  • 準備期間を経て3年後には、PHOsは禁止
トランス脂肪酸自体を禁止したわけではなく、肉や乳製品等に含まれるトランス脂肪酸、植物油を脱臭精製する時に意図せずできるトランス脂肪酸は、今回の措置の対象外。

アメリカでは“危険”でも、日本の状況は異なります。

以下、米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない(松永和紀氏 WEDGE Infinity 2016/6/24)から、部分的に引用させていただきます。

アメリカはなぜ、PHOs禁止を決めたのでしょうか。それは、アメリカ人の心臓疾患が深刻だからです。

トランス脂肪酸トータルPHOs
部分水素添加油脂
エネルギー摂取量
に占める割合
摂取量エネルギー摂取量
に占める割合
摂取量


2003年2.6%5.8g/日2.0%4.6g/日
2010年0.6%1.3g/日
2010年
95パーセンタイル値
1.2%2.6g/日


2007年0.31%0.12%
2007年
95パーセンタイル値
0.73%0.43%
  95パーセンタイル値:多い順に並べて上位から5%の位置の人の数値

アメリカ人のトランス脂肪酸摂取量が、2003年の時点で非常に多かったことがわかります。PHOs禁止後の代替法、つまり水素添加によって植物油を固形、または半固形にするのではなく、ほかの方法で油を固形化する技術はもう開発されています。
一方、日本人の摂取量は、アメリカ人よりうんと少ない上に、今では多くの製品がPHOs低減に成功していますので、現在の摂取量はさらに下がっているだろう、とみられています。食品安全委員会は「通常の食生活では、健康への影響は小さい」と説明しています。

飽和脂肪酸の摂取量増加は軽視できない
加えて、飽和脂肪酸問題があります。国内で、トランス脂肪酸を低減した製品で飽和脂肪酸含有量が増加するという「トレードオフ現象」が起きています。
日本人はもともと、飽和脂肪酸の摂取量が多いのです。女性では半数以上が、食事摂取基準の7%を超えてしまっています。
栄養学の専門家は、日本人にとっては飽和脂肪酸の方が大きな問題である、と判断しているのです。
飽和脂肪酸
エネルギー摂取量に占める割合
WHO基準10%未満
厚労省基準7%以下
日本人の食事摂取2015年版
男の中央値
6.6%
同上
女の中央値
7.6%
  中央値:多い順に並べてちょうど中央に位置する人の摂取量

公衆政策は、コストとベネフィットの検討が必要
つまり、トランス脂肪酸にリスクはあるにせよ、日本人の摂取量は少なく、公衆政策の優先順位としては現状、高くない、という判断が大勢なのです。

結局、トランス脂肪酸対策に多額の国家予算を割くより、禁煙や高血圧、糖尿病などを防ぐ対策の方が、効果が高い。飽和脂肪酸が増えるのも心配。そこまで考えると、軽々しく「アメリカが禁止したのだから、日本も禁止」とは言えないし、その単純思考が国民にとって得策ではないことも、理解していただけることでしょう。

では、「トランス脂肪酸も飽和脂肪酸も怖い。だから、脂質抜きの生活に」と走る?それはまずい。脂質のなかには、人が摂取しなければいけない必須脂肪酸も多く含まれています。それに、脂質は重要なエネルギー源でもあります。日本人は、肥満の人がいる一方、栄養摂取が少なすぎる痩せ問題も深刻です。


なお、今のところ、アメリカ以外に「トランス脂肪酸を全廃する」とした国はない。
忘れてはいけないのが「どのような食品成分も有害になりうる」という考え方。

以上を1枚のシートにまとめたもの

日本人のトランス脂肪酸の摂取量実態と健康影響結局、『脂質は重要な栄養素、バランスの良い食事を心がけることが必要』
出典:「食品に含まれるトランス脂肪酸」評価書の概要(食品安全委員会PDF

4.個人のマーガリン忌避は、意味がない

前と同じ、米国のトランス脂肪酸“禁止” 日本が振り回される必要はない(松永和紀氏 WEDGE Infinity 2016/6/24)から、部分的に引用させていただきます。

では、個人の対策は?「平均値なんてどうでもいい。とにかく、私は子どもに有害な物質を食べさせたくない」と仰る方もいることでしょう。

マーガリンや揚げ物、ケーキ等、目の敵にするのは個人の自由。でも、日本のマーガリン類は、トランス脂肪酸の含有量が大きく低減されています。

  • 雪印のネオソフト10gのトランス脂肪酸
    含有量は0.08g。熱量で0.72kcal
    1日に2000kcal摂取する人で、ネオソフト10gを食べたときの総エネルギー摂取量における割合は、0.04%
  • 日本生協連のコーンマーガリン10gのトランス脂肪酸
    含有量は0.04g
    ネオソフトと同じように計算すると、総エネルギー摂取量における割合は、0.02%

こんなものを目の敵にしても、なんの意味もないことは、お分かりですね。トランス脂肪酸が多いとして以前に問題視された食品は、マーガリンに限らずパンや菓子等も、低減が大きく進んでいます。これからも、進むでしょう。これは、企業の自主的な努力。なにせ、日本の企業は、消費者の批判にはめっぽう弱い。努力しています。


食品に含まれるトランス脂肪酸に係る食品健康影響評価情報に関する調査報告書PDF(食品安全委員会2010年12月)の32ページにデータがあります。
トランス脂肪酸の含有量
マーガリンは食用油脂含有率が80%以上、ファットスプレッドは80%未満のもの。
2006年⇒2010年で減少傾向にあるが、メーカー・品種によるバラツキは大きい。

バターは、飽和脂肪酸を多く含むだけでなく、トランス脂肪酸も含まれている。
トランス脂肪酸の含有量(バター)
出典:食品に含まれる総脂肪酸とトランス脂肪酸の含有量(農水省 2011/3/9)

5.結論的なもの

COOP(日本生活協同組合連合会)のコメント『トランス脂肪酸の概略と日本生協連の考え』がすごく的を得ていると思う。
トランス脂肪酸問題についてのQ&A

大切なことは、動物、植物、魚由来の脂肪をバランスよくとることですね。

6.マーガリンは食べるプラスチックというデマについて

マーガリンやホイップクリームは食べるプラスチックって本当?(成田崇信 Yahoo!個人 2015/12/13)

  • プラスチックだから危険という話はどこから来たの?
  • 本当に似ているの?
  • 油脂はもともと腐らない
  • プラスチックの意味
  • 今回のまとめ
    ・トランス脂肪酸とプラスチックは特に似ていない
    ・トランス脂肪酸を多く含む食品が問題なのは血中のLDL濃度を高くしやすいから
    ・腐らない食べものは危険というのは誤解
    ・plasticという単語は可塑性のあるという形容詞でもあり名詞では合成樹脂も意味する
    ・プラスチックだから危険、というような極端な話にはご用心


7.おまけ

米国で、「なぜトランス脂肪酸が真っ先に!?」に関して、
村中璃子氏がWEDGE Infinity(2015/7/2~17)で解説されています。
トランス脂肪酸撲滅に見え隠れする業界団体のロビー力 米国トランス脂肪酸騒動の裏側(前篇)
トランス脂肪酸を撲滅しても心筋梗塞は減らない 米国トランス脂肪酸騒動の裏側(中篇)
「トランス脂肪酸は気にしなくていい」は本当か それでも、私はマーガリンを食べたくない 米国トランス脂肪酸騒動の裏側(後篇)

背景にあるのは、アメリカ食品医薬品局(FDA)と業界団体、および市民団体との力関係です。バターに関係しているのは、全米酪農協会という強力な業界団体。最近では、バターの飽和脂肪酸だけではなく、牛乳とがんとの関係もしばしば指摘されていますが、この協会がある限り、バターや牛乳が市場からなくなることは決してないと言われています。

[ 2017/01/05(木) ] カテゴリ: 食品中の化学物質,リスク | CM(0)
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