ポストさんてん日記

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【基礎01-2】原虫・蠕虫、2015年ノーベル生理学・医学賞

[ 2015/10/13 (火) ]
ノーベル生理学・医学賞のニュースなどを聞いていて、“寄生虫”や“原虫”についての知識がなかったことを実感したので勉強しました。あわせて、今回の受賞内容についての理解を深めました。
本エントリーの内容は、一連の勉強の最初のころに位置付ける方が良いと思い、タイトルの番号に反映しました。

0.目次

1.図で見る、ウイルス・細菌・真菌・原虫・蠕虫(ぜんちゅう)の違い
2.寄生虫の分類、感染経路
3.寄生虫感染の現状
4.2015年ノーベル生理学・医学賞
5.関連エントリー

(復習を兼ねて)
1.図で見る、ウイルス・細菌・真菌・原虫・蠕虫(ぜんちゅう)の違い

大きさでみると
ウイルスからヒト細胞まで01ウイルスからヒト細胞まで02
これらは概略を示したもので、例えば“ヒト細胞”は最も小さな精子で2.5μm、赤血球の直径が7~8μm、最も大きな卵子で200μm(0.2mm)、そのほかは10~100μmといったところ。なお、ヒトは細胞を約60兆個持っている(最近の研究では、「約37兆2000億個」という試算も出ている)。

構造は(真菌まで)
ここは【基礎01-1】からの転記

ウイルス     細菌    真菌(カビ)
ウイルス01
ウイルス細菌(核をもたない単細胞の原核生物)も、遺伝子(遺伝情報を担う実体)として核酸とよばれる高分子を使っている。なお、真菌(カビ:白癬(水虫)、カンジダ、アスペルギルスなど)は核酸が膜に包まれたの中に存在していて、ヒトと同じ真核生物の仲間。(真菌と動物(ヒト)の細胞の異なる点は、真菌が堅い細胞壁を持っていること)
ウイルスはとても単純な構造をしている。核酸の周りにカプシド(capsid)と呼ばれるタンパク質の殻で覆われているだけ。もう少し複雑になったウイルスはさらに、スパイク状のタンパク質のついたエンベロープ(envelope)と呼ばれる脂質の膜が存在することもある。しかし、複雑と言っても基本的にはたったこれだけの構造。

ここからが本題
構造は(寄生虫:原虫、蠕虫)

いずれも真核生物で、細胞の仕組みはウイルスや細菌(バクテリア)よりかなり複雑。
原虫は単純な2分裂で増殖する単細胞生物で、非常に小さく顕微鏡でないと見ることができない寄生虫。
一方、蠕虫(ぜんちゅう)は多くの細胞(多細胞)からできていて、人の眼で見ることができる寄生虫。体が細長く蠕動により移動する虫(小動物)の総称

2.寄生虫の分類、感染経路

分類 特徴 具体例
原虫根足虫類形を自由に変えて
動くアメーバ
赤痢アメーバ、多食アメーバ
鞭毛虫類運動するための
長い毛 (鞭毛)をもつ
トリパノソーマ、ランブル鞭毛虫、
膣トリコモナス
胞子虫類運動機能はなく、
分裂による無性生殖
や有性生殖で
胞子を形成する
マラリア、クリプトスポリジウム、
肉胞子虫、トキソプラズマ
有毛虫類細かい毛(繊毛)をもつ大腸バランチジウム、
ヒトブラストシスチス
蠕虫
ぜんちゅう
線虫類線状、円柱状で細長回虫目回虫(ヒト回虫)、ブタ回虫、
イヌ回虫、ネコ回虫、アニサキス
蟯虫目:蟯虫
円形線虫目ズビニ鉤虫、
アメリカ鉤虫、広東住血線虫
桿線虫目糞線虫
旋尾線虫目:有棘顎口虫、剛棘顎口虫、
ドロレス顎口虫、日本顎口虫、
東洋眼虫、旋尾線虫、
バンクロフト糸状虫、イヌ糸状虫、
オンコセルカ
(糸状虫上科に属する動物の総称がフィラリア (filaria) )
鞭虫、旋毛虫*
吸虫類体が扁平で、
2つの吸盤をもつ
プラギオルキス:肝吸虫、横川吸虫、
ウェステルマン肺吸虫、宮崎肺吸虫
棘口吸虫:浅田棘口吸虫、肝蛭、巨大肝蛭
有襞吸虫:日本住血吸虫、マンソン住血吸
虫、ビルハルツ、住血吸虫、ムクドリ住血吸虫
条虫類体が扁平で長く、
種類によって
3個から数千個の節
にわかれている
一般にはサナダ虫といわれる
擬葉目:日本海裂頭条虫、広節裂頭条虫、
大複殖門条虫、マンソン裂頭条虫
円葉目:無鉤条虫、有鉤条虫、多包条虫(エキノコックス)、
単包条虫(エキノコックス)
その他鉤頭虫類、鉄線虫類

寄生虫01

* 旋毛虫感染症(トリヒナ症)について(横浜市衛生研究所)
原因食品別旋毛虫感染症(トリヒナ症)患者数

人畜共通寄生虫症

3.寄生虫感染の現状

寄生虫感染は,世界的にかなりの罹病および死亡の原因である。
開発途上地域の住民に及ぼす影響が群を抜いて大きいが,先進国でも移民や風土病流行地域から戻った旅行者に寄生虫感染がみられ,ときに旅行経験のない住民,特にAIDSや他の免疫不全の原因を有する人にもみられる。
多くの寄生虫感染が,食品や水の糞便汚染を通して広がる。下水設備や衛生状態の悪い貧困地域で最も高頻度である。鉤虫など一部の寄生虫は,汚染された砂泥(住血吸虫の場合は汚染された淡水)との接触中に皮膚に侵入できる。他の寄生虫はマラリアのように媒介節足動物によって伝播される。ごくまれに,輸血もしくは注射針の共有による寄生虫の伝播,または母親から胎児への先天的伝播がありうる。
一部の寄生虫は,米国や他の先進国で流行している。例として,蟯虫,腟トリコモナス,トキソプラズマ,および腸管寄生虫であるランブル鞭毛虫やクリプトスポリジウムがあげられる。
【予防】
相当量の投資および研究にもかかわらず,人の寄生虫感染を予防するワクチンはまだ実用化されていない。予防は感染の回避が基本である。
糞便の衛生的処理および安全水の供給により,ほとんどの腸内寄生虫の伝播を予防できる。海外旅行者への最善のアドバイスは,「調理する,沸かす,皮をむく,さもなければ口にしない」である。
出典:寄生虫感染へのアプローチ: 感染性疾患: メルクマニュアル18版 日本語版
細菌感染の場合と同様に、細胞内寄生原虫の場合は、抗体あるは補体といった液性免疫はその防御効果を発揮できません。そのため宿主は、細胞性免疫の網を被せようとします。
一方、蠕虫に感染すると一般にTh2細胞優位なアレルギー反応が誘導されます。その結果、血中あるいは局所でIgE抗体や、好酸球・好塩基球・マスト細胞の数が増加し、蠕虫の排虫が促進されます。
出典:兵庫医科大学免疫学・医動物学講座|研究内容|IL-18と寄生虫感染

4.2015年ノーベル生理学・医学賞

屠呦呦(トゥ・ヨウヨウ Tu Youyou)氏、
『マラリアに対する新たな治療法の発見』

屠氏は近代科学の手法によって、中医学の伝統的レシピに学んでクソニンジン(キク科ヨモギ属)、(中国名は青蒿(セイコウ))からアルテミシニンという薬物を抽出・精製し、マラリアに対する薬効を検討することで、アルテミシニンをマラリアの薬にした。
ここでは、伝統・職人芸の世界でとどまっていた未熟で個別的な知識を、科学的手法を用いることによって、広く世界の人々が共有できる一般的・抽象的な知識へ転換したともいえる。
つまり、抽出されたのはアルテミシニンという物質だけではなく、物質についての一般化された科学知識である。
出典:自然にたずねるー2015年ノーベル生理学・医学賞の意味(小野昌弘)

アーテミシニンは、それまでの抗マラリア薬への耐性があるマラリア原虫にも効力を発揮し、またクロロキンキニーネに比べて副作用が低い。

【作用機序】
アルテミシニンの誘導体のアルテスネイトは分子の中に鉄イオンと反応してフリーラジカルを産生するendoperoxide bridge を持っています。マラリア原虫が感染した赤血球中では、マラリア原虫によって赤血球中のヘモグロビンが分解してフリーの鉄が蓄積し、その鉄とアルテスネイトが反応してフリーラジカルが発生してマラリア原虫を死滅させると考えられています。
出典:抗マラリア薬アルテスネイトを用いたがん治療

【メモ】中国初のノーベル医学・生理学賞が浴びる苦言(日経ビジネスオンライン 福島香織 2015/10/14)

大村智氏、ウィリアム・キャンベル氏、
『線虫寄生による感染症に対する革新的な治療法の発見』

大村氏は、天然物分離を専門とする細菌学者として、土壌に住む放線菌(ストレプトマイセス)に注目し、様々な土壌から何千もの細菌を分離培養し、その中から有望な細菌株を同定した。
放線菌(Actinomycetes)
主に土壌中に生息する原核微生物で、糸状菌(カビ)のように放射状に菌糸が生育しその先端に様々な形の胞子を形成する。生態系においては、落葉などの有機物の分解や物質循環に関わる分解者として大きな役割を果たしている。
放線菌の培養液から見つかったストレプトマイシン(抗結核薬の抗生物質)など、これまでに発見された新規微生物代謝産物の約7割が放線菌から発見されている。
放線菌は土壌中で胞子の状態で休眠しており、栄養源などの条件がそろったときだけ菌糸状の生育を行うと考えられる。また、空気中に伸長する気菌糸が分化する際に、二次代謝産物の生産が向上することが明らかとなっている。出典:NITEってなぁに? 微生物いろいろ 放線菌

寄生虫学者のキャンベルとともに、その放線菌がつくる成分が抗寄生虫薬としての薬効をもつことを発見、その菌からAvermectin:アベルメクチン(記事によってはエバーメクチン)(ウシやブタなどの家畜動物およびイヌやネコなどのペット用の薬剤)を抗生物質として分離精製した。
また、アベルメクチンの誘導体から創られたイベルメクチン(商品名:メクチザン)は、当初は家畜専用であったが後にヒト用の抗寄生虫薬となり、WHO/TDR(世界保健機関-熱帯病研究特別計画)指導の下、糞線虫症や熱帯病オンコセルカ症(河川盲目症)およびリンパ管フィラリア症(象皮病)の治療に用いられている。
オンコセルカ症は、ブユを媒介して約1800万人が感染しており、そのうち約27万人が失明(世界第2位の失明原因)し、さらに50万人が視覚障害を持っている。

メクチザンは1987年にメルク社が無償提供を開始し毎年約3億人が服用している。2013年にコロンビア、2014年にはエクアドルがオンコセルカ症の撲滅を宣言。WHOなどが、2020年までに、オンコセルカ症とリンパ系フィラリア症を含む10種のNTD(顧みられない熱帯病)の撲滅を目指す宣言を発表。
出典:二次代謝物|研究用語辞典|研究.net
2015年ノーベル生理学・医学賞発表!受賞者は感染症の薬を開発した3名! ~大村博士・キャンベル博士編 | 科学コミュニケーターブログ

【作用機序】
イベルメクチンは、無脊椎動物の神経・筋細胞に存在するグルタミン酸作動性Cl- チャンネルに選択的に結合し、Cl- に対する細胞膜の透過性が上昇して神経又は筋細胞の過分極が生じ、寄生虫が麻痺を起こし、死に至るとされてます。
哺乳類ではグルタミン酸作動性Cl- チャンネルの存在が報告されていないこと、哺乳類の脳の特異的な結合部位に対するイベルメクチンの親和性が線虫に比べ約100倍低く、さらに薬剤が血液-脳関門を容易には通過することができないという点から、人におていは安全性が確保されているようです。
寄生虫に対して絶大な効果を示しているイベルメクチンですが、副作用はあまり問題となっておりません。主な副作用としては肝機能異常や悪心、嘔吐などがありますが、頻度としてはあまり高くないようです。
出典:ノーベル賞を受賞した北里大の大村智教授が開発したエバーメクチン・イベルメクチンの効果と作用機序、副作用、製薬会社と販売状況について|ミナカラおくすり

5.関連エントリー

【基礎01-1】ウイルス、ワクチン、抗ウイルス薬
【基礎02】免疫とは~自然免疫、獲得免疫、細胞性免疫、体液性免疫など
その他の関連エントリーはカテゴリにひとまとめにしています。記事下部or左欄のカテゴリリンクから、どうぞ。

【メモ】
顧みられない熱帯病01

顧みられない熱帯病02
出典:2015/10/18 読売朝刊
[ 2015/10/13(火) ] カテゴリ: 生物・医学の基礎 | CM(0)
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