ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

ドイツの電力最大手エーオン E.ONが捨て身の戦法、その背景

[ 2014/12/09 (火) ]
【追記補足】を追記。 2015/1/4
初回公開日: 2014/12/9


エーオン E.ONが2016年に会社分割のニュースに対して、脱原発派、再エネ推進派の的外れのコメントなども見ますが、ドイツが進めてきた政策の副作用が要因で、重要な社会インフラを担っていた企業が事業性のみを追及せざるを得なくなった訳で、理解したことをまとめてみます。ドイツがどのように歩んでいくのか?益々、注目です。

背景

E.ON(エーオン)社とは

ドイツ・デュッセルドルフに本社を置き電力・ガスなどを供給するドイツの最大手、ヨーロッパ有数のエネルギー企業。ドイツを代表する大企業として、ドイツ株価指数(DAX)の30銘柄のひとつに選ばれている。ニューヨーク証券取引所、ロンドン証券取引所、フランクフルト証券取引所に上場している。

2013年の発電量は2452億kWhで、東京電力とほぼ同じ規模。電源別では火力が65%、原子力が23%、再生可能エネルギーが12%。ドイツ全体の年間電力は日本の6割なので、E.ONの存在感はかなり大きい。

ドイツの電力供給は、地域ごとに4つの大手電力会社が行っている。
E.ONとEnBWとVattenfallの再エネ電気がドイツの全発電量に占めるシェアは2%にも満たない(もう1社のRNWは石炭火力が多くを占め、再エネは少ない)。
エーオン E ON
出典:Wikipedia

かつては高い収益性を誇る優良企業であったが、近年、利益が大幅に減少し経営の建て直しを迫られていた。
従業員数は8万5千人(2009年)から6万2千人(2013年)まで削減している。国内外に持つ資産も売却を進め、12年には独国内のガスパイプライン事業をマッコーリー系ファンドに32億ユーロで売却している。

収益性の低下の原因と電力会社と政府の間の裁判

“ドイツ政府の脱原発政策”“再エネ電力推進政策に伴う化石燃料焚き発電事業の収益性の低下”のため、E.ON社の収益構造に構造的な変化が起きていることが根本にある。

●ドイツ政府の脱原発政策
福島第一原子力事故後にメルケル政権が強行した唐突な脱原発(旧式の8基停止と残りの9基については稼働年数32年で順次廃止⇒実質的に2022年に全廃)という事柄に対して、国と州を相手取って、巨額の損害賠償請求を他の電力大手と同じように起こしており、裁判での審議は今も続けられている。
メルケル政権の対応に対して訴訟しないことは、株主への背任にもなる。

●再エネ電力推進政策(FIT)に伴う化石燃料焚き発電事業の収益性の低下
高い買取り価格のせいで再エネが増えすぎたため、電気の過剰供給が起こって需給環境を悪化させ、電力市場で異常な価格低下を起している。卸市場での電気の値段は、ベースロードと呼ばれる電力の先物取引価格は、2008~2013年までに50%下落。需要が最も大きくなる時のピークロードと呼ばれる電力の先物価格は、65%も下落している。また午後1時の電力1MWhあたりのスポット価格(短期的に行われる電力取引の価格)は、2011~2013年の間に58ユーロ(約8700円)から40ユーロ(約6000円)へ約31%下落した。
EPEX電力スポット市場(ドイツ、フランス、スイス、オーストリアが共同で運営する短期電力取引市場)でも、2011年からの2年間に26%下落した。

【追記補足】電力市場価格は電気料金と別のものです。
電気料金はコスト+税など(この中にFITサーチャージ:再エネ賦課金がある)+利潤 の積み上げで設定されるもの、一方、電力市場価格は余剰電力が市場で取引される価格で、需給関係の市場原理で決まり、実際の価格はコストより低い価格(ときにはマイナス:ネガティブプライス:お金を払って電気を差し上げる)となっている。参考エントリーはこちらとかこちら
電力市場価格が下がると利潤が下がる or 電気料金は上がる方向になるかも知れない。

E.ONの原子力と火力による利益は、2020年には今の半分以下になると予想されている。
国民には高い電力料金、電力会社は経営危機、という結果である。

●火力発電所の閉鎖に対する政府の介入
(老朽化して運転コストがかさむものを含めて)儲からず合理的な発電事業ができなくなってしまった火力の縮小もできない。電力会社は、全土で50基の発電所の停止を系統規制庁に申請しているが、間歇性電源(太陽任せ、風任せ)である再エネのバックアップ役としての火力が欠かせないのでそれも認められない。市場経済の原理に反している。
(火力は、絶えず変化する再エネ電気の調整の役を引き受け、再エネ電気が増えると出力を落とし、再エネ電気がゼロになるとフル稼働するということを繰り返している。)

その他に、電力会社が納めている巨額の核燃料税は憲法違反であるという電力会社側の言い分が認められ、今まで払った50億ユーロの返還が政府に命じられている。

以上のように、電力会社と政府の間には複数の裁判が進行中で、どれも政府にとって不利な状況といわれている。政府が電力会社に支払わなければいけない額は莫大になる恐れがある。

今回のE.ONの会社分割

2016年に、新会社(名称未定)に『原子力発電・火力発電』、『石油・天然ガス資源開発』、『燃料取引』の3事業を移管する。新会社は従業員2万人規模。
E.ONは風力・太陽光発電などの新エネルギー、分散型発電の時代に適応するためのスマート・グリッド、そして顧客のニーズに対応する電力供給サービスの3つの柱に特化する。
すなわち、E.ONの中心事業であった部門をスピン・オフさせるということである。分社した新会社は、E.ONの連結対象外にする。
さらに、今回、スペインとポルトガルの全事業をオーストラリアの投資会社マッコーリー(Macquarie)に25億ユーロ(約3700億円)で売却したことを発表した。
E.ONが再エネの優良企業になるという期待が突然高まって、発表日、同社の株価は急上昇した。

以上が第一報の大まかなあらすじだが、それに対するメディアと国民の反応は、かなり混乱している。
以下、「現代ビジネス 川口マーン惠美氏 2014/12/5」電力会社は強力なカードを手にしつつある! ドイツの電力最大手E.ONが再エネ事業に乗り出す理由から引用

ドイツ人の目に映る電力会社というのは、"再エネへの転換に無駄な抵抗を続け、危険な原発や環境に悪い火力にしがみついてきた良からぬ人々の集まり"だ。しかし今回、その彼らがようやく目を覚まし、再エネに舵を切った。遅すぎたとはいえ、心を入れ替えたこと自体は、めでたい第一歩だとして、「一種の解放戦争」とか「記念すべき日」などと書いたメディアもあった。

一方で、不信感も噴出している。E.ONは会社分割という手段で、原発を切り捨てようとしている。原発の後片付けを押し付けられた新会社は、そのうち負担が大きくなって倒産するかもしれない。E.ONはどうでもいいかもしれないが、国としてはどうでもよくはない。原発の廃炉や核の廃棄物の問題があるので、救済しなければならなくなる。つまり、最終的には国民のお金だ。「さんざん儲けていたあいだは自分たちの利益で、儲からなくなると損失を国民に押し付けるのか!」といったような憤りだ。

問題の核心となっているのは原発の後始末。福島原発の事故のあとに急に早められた脱原発の期日は2022年。それから始まる原発施設の解体、除染、核廃棄物の最終処分などの費用は、各社がずっと積み立ててきた。E.ONの場合、原発7基の後始末代として、145億ユーロが貯まっているという。

ただ、それが足りるかどうかという話になると、ドイツ人は悲観的なので、メディアは「足りないかもしれない」と言い、国民は「絶対に足りない」と信じている。それもあって、今、まだできてもいない会社の倒産を巡って、議論が白熱している。

電力会社はついに反撃に出たのだ
E.ONは、だったら火力は国が支援すればよいと思ったのではないか。そうすれば、新生E.ONは、心置きなく、栄えある再エネ産業に徹することができる。国の支援とは、具体的には、いざというときのための待機に報酬が支払われるということになるだろう。病気になった時のための医療保険と同じで、考えようによれば当然の権利だ。ただ、補助金の出どころは、おそらくまた電気代となる。

E.ONの本格参入を機に、これからは電力大手の再エネ投資が進み、国民の望みに一歩ずつ近づいていくだろう。そして、さらに広範囲に補助金が必要になる。
E.ONから独立する名無しの会社が倒産して困るのは政府だ。ひょっとすると、今、電力会社は強力なカードを手にしつつあるのかもしれない。

ドイツの電力会社はタフである。



その他で参考にした情報

「IEEI 国際環境経済研究所 山本隆三氏2014/12/22」
ドイツ・エーオン社スピンオフ(分割)の本当の理由と目的
「日経テクノロジーオンライン 加藤伸一氏 2014/12/2」
独エネルギー大手のE.ON社が戦略転換、主力事業を連結から外し、再エネや配電網中心に
「スマートジャパン 石田雅也氏 2014/12/2」
電力供給サービス:ドイツの電力会社は再エネへ、最大手のエーオンが2016年に会社分割
「毎日新聞 2014/12/1」
ドイツ最大手エーオン、原発を分離 再生可能エネに特化
「日本経済新聞 2014/12/1」
独電力最大手エーオン、発電など3部門分離 南欧から撤退

【メモ】
「日経ビジネスオンライン 熊谷徹 氏 2014/12/9」
ドイツ最大のエネルギー企業はなぜ「解体」されるのか~エーオンの原子力・火力発電「撤退」を考える
「ドイツ・フライブルク市から地球環境を考える 村上敦 2014/12/3」
ドイツ、電力大手イーオンの原発・石炭発電部門の切り離しについて

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[ 2014/12/09(火) ] カテゴリ: FIT認定制度に関する事 | CM(0)
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