ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

(メモ)「奇跡のリンゴ」から考える日本農業論〜農家、商店主が本音で語る食の未来

[ 2013/08/30 (金) ]
FOOCOM.NETに4回に渡り連載された表記の記事が面白かったので、メモします。
松永和紀氏、久松達央氏、水木たける氏、安井浩和氏、の4名による本音の座談会、とのこと。
ご注意:“なるほど”と思ったセンテンスをつまみ食い的に引用しただけで、太字にした部分もブログ主の主観です。


周囲のリンゴ農家が農薬を使うからこそ、無農薬が可能になる

彼の園地のみで成立していることで、だからほかの園地や青森県全域で無農薬へと転換できるか、というとそれは不可能だと思っています。

今から40年近く前に奥さんが農薬の被害を受けたのが無農薬を志したきっかけだといいます。でも、その後、農薬は進化して、そのような害に見舞われて苦労することはほぼなくなりました。それがリンゴ農家の実感です。一日摂取許容量(ADI)の設定など十分に安全に配慮されており、むしろ消費者は農薬利用によってメリットを享受している。メリットというのは、生産安定や低コスト化などです。40年以上前の基準をベースに「農薬=害」とするステレオタイプの古い発想から脱却すべきです。

無農薬栽培によってリンゴ自身が害虫・病害に対する危機を感じて、農薬と同じような成分を自ら作って身を守ろうとし、それが、人のアレルギーの原因となる場合もあることなど、研究でわかってきています。そのような化学変化が、「奇跡のリンゴは腐らない」という現象になっているのかもしれない。防腐剤に相当する成分が含有されているから腐らないだけなのに、それがなにか、生命力が強い、素晴らしいというイメージとなって振りまかれる。農薬を使ったリンゴよりも安全だという保証はないのに「安全」と説明して高く売る。そして、購入する側も安全と思い込み、喜んで高値で買う。売りたい側にとっては好都合ですが、消費者にはメリットがないでしょう。

木村氏の園地の周囲はみんな、農薬をしっかり使ってリンゴを栽培しています。周囲が使っているから、木村氏は使わなくて済むんだよ、という見方は強い。つまり、木村氏の園地で病気や虫を培養しているんだけど、周囲で農薬を使うから、爆発的に増えない、被害が広がらない、という見方です。周辺の農園では、農薬使用量は増えているんじゃないかなあ。

県や大学などが木村農法のメカニズムや味の解明を研究している、という話をずいぶん前から聞く。でも、その成果が公表されない。都合の悪い研究結果は発表しない、というパブリケーションバイアスが確実にあるのだろうなあ、と思わざるを得ないです。

心から善意で無農薬とか有機農業を信じている人たちがいる。善意は、たちが悪い。勉強熱心で努力家の有機農家が、エセ科学にころっとやられる姿をぼくはずっと見てきたんで、やばいな、と思います。科学的背景が全然ない、裏付けがないのが80年代までの有機農業だったんだよね。

今、出回っている農薬は、危険ではなくなってきている。だったら、「自分たちは有機的なアプローチをしている」で済ませればいいのに、有機が優れていると思いたい、という心理が人間にはあるんですよね。そこに、エセ科学がうまくはまっちゃう。

一般の認識の根底、ベースに「農薬=ダメ。農薬=毒」というのが、すごく大きく流れている。不安感が、国民的共有になっている。


奇跡のリンゴが映画になるほどで、みんなが飛びついているのを見て、結局、マスの「農薬は悪だ」はなにも変わっていないのかも、と思った。

消費者は本当にとことん、知らないんです。たとえば、農産物の収率の話。100個作って商品価値があるのが9割か5割か1割かで、農家は全然違う。奇跡のリンゴは、どれくらい捨ててるんだろう。そういうことが、消費者にはわからないので、「なんだ、奇跡できるじゃないか」と思ってしまう。

八百屋さんにも関係ない。有機なのにこんなに立派。それは、残りのものを捨てているだけですよ、ということがわからないのかもね。

取材するメディアの記者が、勉強していないという話なんだよね。記者が、メタな立場にいない。客観的に見る立場ではなく、乗っかって商売する立場。ほめるのも批判するのも、不安を煽ることがそのままマーケティングになる世界でしょう。

なんで新聞が売れているかというと、情報を出して、話を煽っているからじゃないか。バカじゃないの。

傍観者で中立公正に取材して報道していると信じているけれど、必ず取材にはバイアスがあり書く時にもバイアスが産まれて、自分たちが話を動かして行く当事者、プレイヤーになっている。その自覚があまりにもないじゃないか、ということですよね。

度が過ぎるんだよ、あんたは、という感じですよ。情報をそのまますっと受け止めて、それを食べる。そういう人が未だにいます。スーパーをやっていたころは、本部から「来週火曜日に、○○がテレビで取り上げられますから、水曜日の店頭、作ってください」みたいな情報が流れてきていました。で、実際に売れる。


弘前市のリンゴ産地は岩木山の斜面に広がっていて、世界有数のリンゴ栽培の適地です。なのに、道具、インフラの使い方を間違っている。刀でゴルフをしているようなものなっている。研究体制はしっかり、出荷体制はしっかり、インフラしっかり。なのに、顧客離れするようなリンゴを作っている

青森の生産者にとっては、保存性とか、通年で量をコンスタントに出すというのが重要です。リンゴを通年売ることを考えている。でも、旬のおいしいリンゴは、通年は持たないんです。そこを通年持つようにするにはどうするか? 最初から、味を作り込まない。徹底的にまずく作る。葉を思いっきり取っちゃう。味がのる時期に葉をとって日に当てる。保存性を上げるには酸味が必要なんです。酸味を強くして、熟さない、なおかつ赤いリンゴにします。それを、酸素を抜いた中で冷蔵すると、5〜7月まで持って、出荷できます。

青森のリンゴは、そうやって通年売ることで、今の生産量が回っている。それを否定することは難しいけど、青森県の戦略として回してしまっている。困ったもんだよね。

世界のコモディティは、本当にまずいよ。でも、あれが普通。それを世界の人たちが疑問なしで、買っている。今のところ、日本のものと比較してこれだけ違うよ、と見せる機会がないでしょう。われわれも、わかってもらう努力をしていない。やり方次第で、コストをぐっと下げて、コモディティでびっくりするような差を作れる。だから、やればいいと思うよ。それが、われわれが生き残って行くコアの部分だと思う。それがなかったら、韓国とかで作った方が、安くていい。日本でやる理由はまったくない。それがやれないと、誇りを持てないし、継ぎたいとも思わないでしょう。

有機農家は、どちらにしても農薬を振らないから、虫とか病気とか勉強しない人が多いのは事実なんですよ。自然はそうやわじゃないから、いきなり有機農家から病虫害が広がる、ということはそうはないにしても、工場の衛生管理に比べれば、農業現場はずさんだから。有機農家が、その人のセルフストーリーの中で生きていることを否定される筋合いはないけど、でも、地域全体の中ではどうかということは、冷静に議論しないといけない。

これまでのダイエットブームや海外の健康食品、石けんでアレルギー症状が出た「茶のしずく」問題…。得体の知れない、安全と確認されていないものを「自然だから」と無思慮に手を出すのは危険でしょ。そこは、同じ図式だと思うけど。


有機栽培は、ある種の合理性ありと思うけれど、栽培過程なんて、お客さんには関係ないでしょう。トヨタが車を売る時に「この溶接機械が…」と売り込みますか? 言わないですよ。生産上必要であれば、その技術を使うし、必要でなければ使わない。そういうことでしょう。

プロに売り込む時には有機なんてうたわない。有機は、フックにならないんです。それより、久松達央でなきゃダメ、というものがないと、生き残れない。世間にある有機JASマークを付けて売られる有機農産物の中には、棚持ちのよい品種が多いんです。見た目は長く持つ。なかなか売れない自然食品店には都合がいいけど、それじゃあ、おいしいわけがない。そんなものとは違う土俵のものを、プロには提示しなきゃね。

だけど、高付加価値路線で生き残る、というのがとりあえずのやり方。農水省が旗を振っている「6次産業化」もそうでしょう。今、特徴もなく共選などで売っているコモディティは、海外の製品が置き換わって行かざるを得ないんじゃないの。加工をやっている立場から言うと、今は高付加価値路線でギフトとして高く売っているものも、投資をしっかりして生産すれば、デイリーなパッケージにできる。今の農家の6次化の規模じゃだめだけどね。相当な投資が必要。

多様性が産まれるためには、ビジネスでいうと、適正な競争環境が必要です。参入が増えて、だれでも入って、だれでも淘汰される。それがもっともいろいろなニーズを満たすでしょう。

だから、徹底した規制緩和が必要。まずは、農地法を撤廃しなきゃ。今の仕組みが決定的に弱いのは、新規参入が制限されているために、奇抜な新しい人が入ってこない。結果的に農業者は過去の成功者が認めた人に限られてしまう、ということ。そんなの、最低の業界だよ。

食でない普通の業態は、切磋琢磨して生き残ってるんだから。食だから特別なんて意識はいらないよ。食は特別、守らないと、ということで規制をかけて保護して、その結果、甘やかされてイノベーションの機会を失って、衰退しているんだよ、日本の農業は。雑草を伸ばす仕組みがないとね。

農水省は「青年就農給付金」というのをやってるの。農業を始めてから経営が安定するまで最長5年間、年間150万円をもらえる。だから、なにも計画ないのに、150万円はとりあえずもらう、という人がいっぱい来るんだよ。

5年でマックス750万円。給付金を除いた前年の所得が250万円を超えたら打ち切りになる。稼げないバカだけがもらえる。すごくすてきな制度でしょ。

マーケットインとプロダクトアウトがあって、農業は今、みんなでマーケットインをやりましょうか、と言っている段階。だけど、本当はマーケットインの次の段階に行かなきゃいけないんだ。クロネコヤマトの宅急便だって、最初のマーケットリサーチでは全然要らないと言われたわけでしょう。だけど、小倉昌男さんが「ないものはだれもわからないから、欲しがるわけがない。とりあえずやってみよう」と始めた。だから、プロが「これはマーケットで絶対に行けるぞ」と考えるプロダクトアウトにしないと。ぼくが考えるのはそこです。旬のリンゴの美味さをみんな知らない。ぼくは、毎日喰ってるからわかる。だったら、だれも知らないこの美味さをどうやって喰わしてやるか、と考えたい。

こういう農業者がいますよ、ということを消費者が知りようがないのが、今の大きな問題かもしれない。水木さんのような考え方が伝わる機会がないでしょう。少なくとも、マスメディアに出てくる農業者は、TPP反対とか図式化している。

面白いことを増やすしか、日本の農業、変えようがない。死ぬ寸前に、電気ショックで生き返らせても、続かないよ。それより、生きる可能性のある人たちにどんどん入ってもらって、一緒に変えて行きたいね。

【追記】

「奇跡のリンゴ」の是非を論じるのではなく、それが歓迎されている社会現象と農業の将来について考える読み応えのある座談会となったと思う。ただ、座談会では、農薬にかんする科学的な説明はどうしても不十分になってしまっているので、補足の意味で情報提供しておきたい。


座談会の久松達央氏の著書紹介

メモ

「バッタもん日記」2013/9/6 「奇跡のリンゴ」という幻想 -うわっ…私の収穫、低すぎ…?
「バッタもん日記」2013/7/26 「奇跡のリンゴ」という幻想 -無肥料農法は長続きしない-
「バッタもん日記」2013/7/6 「奇跡のリンゴ」という幻想 -無農薬のジレンマ-
「バッタもん日記」2013/6/25 「奇跡のリンゴ」という幻想 -印象操作(補足)-
「バッタもん日記」2013/6/19 「奇跡のリンゴ」という幻想 -印象操作-
「バッタもん日記」2013/6/12 「奇跡のリンゴ」という幻想 -感動ではなく数字を-
「バッタもん日記」2013/6/9 「奇跡のリンゴ」という幻想 -安物の感動はいらない-
[ 2013/08/30(金) ] カテゴリ: 食品中の化学物質,リスク | CM(0)
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