ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

トリチウムとは?危険性は?海洋放出量の基準値は?

[ 2013/09/09 (月) ]
(2) 飲料水の基準値など、を訂正。2016/11/18
(上記までの追記・訂正記録は割愛)
初回公開日:2013/8/13


久しぶりの放射線エントリーです。トリチウム(tritium)の話題を耳にするので、基本的なところをまとめました。

目次 (ページ内リンクが付いています)

1.崩壊図、半減期
2.生成、存在量
 (1) 天然起源
 (2) 大気圏内核実験による生成(フォールアウトトリチウム)
 (3) 原発(原子炉の中)での生成(施設起源トリチウム)
3.人体への影響
 (1) 実効線量係数
 (2) 飲料水の基準値など 【訂正】
 (3) 自然起源のトリチウムによる内部被ばく量、摂取量
4.原発などからの海洋放出
 (1) 原発での液体トリチウム放出基準・濃度限度の例
 (2) 世界各国の原発からの海洋放出の実態
 (3) 日本の原発からの海洋放出の実態
 (4) CANDUからの放出
 (5) 再処理工場からの放出
5.主な参考文献
6.関連エントリー

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1.崩壊図、半減期

トリチウムは中性子を2つ持つ水素の同位体(質量数が3)で、本来なら水素-3 と呼べば良いが、トリチウム:T、あるいは三重水素と特別に名前が付けられている。 水素の同位体の存在率は、質量数が1の普通の水素が99.985%、2の重水素:D(デューテリウム)が0.015%で、この2つが安定元素。トリチウムは数字に表れないレベルの微量である。

トリチウム06       原子番号質量数
β崩壊についての詳細はこちら

半減期が12.3年でβ崩壊しヘリウム-3 に壊変するが、放出されるβ線のエネルギーは小さく(最大:18.6 keV、平均:5.7 keV )、セシウムCs-137,134 やカリウムK-401/100のオーダーで、空気中でも数mmしか飛ばず食品用ラップでも遮蔽できるレベル。

水H2Oの水素とトリチウムが置き換わったものをトリチウム水(記号:HTO)、水素ガスH2の水素とトリチウムが置き換わったものをトリチウムガス(記号:HT)と呼んでいる。化学的な性質は普通の水や水素ガスと変わらない。(厳密には沸点温度などが少し変わる)

福島第一原発がらみで出てくるトリチウムという言葉はトリチウム水、正確に表現すれば、“トリチウム水を含む水”のことですね。

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2.生成、存在量

(1) 天然起源

大気圏上層で、高エネルギーの一次宇宙線によって生成された二次宇宙線に含まれる中性子が、窒素(あるいは酸素)と核反応を起こしトリチウムができる。その量は7.2京(7.2×1016)Bq/年ほど。(桁数が多いので意味もなく)質量換算すると201g になる。

トリチウム02 

生成されたトリチウムは容易に酸化してトリチウム水になり、大気水蒸気・降水・地下水・河川水・湖沼水・海水・飲料水、そして生物の体内に広く分布する。半減期が12.3年なので、無限に増えることはなく全地球に存在する量は一定値になる。
その量は127.5京(1.3×1018)Bq*1(水素原子として質量3,550g)で、65%が海水(その半分弱が深海←普通の水より11%重い*2ので)、27%が地表と生物圏、7%が大気中にある(UNSCEARの報告書)。
*1 96京(0.96×1018)Bqとする資料もある。
*2 分子量の比が20/18=111%

【豆知識1】地下水の年代測定のトレーサー
降雨が地下に埋没すると自然界からのトリチウムの新規供給が遮断され、トリチウム濃度は半減期にしたがって減衰するので、地下水の年代(滞留時間)を求めることができる(溶存ヘリウム-3 を組み合わせたトリチウム+ He-3 法もある)。

【豆知識2】人体の中の自然放射能(自然放射性物質)
人体を構成している多量元素のうち、水素・炭素・カリウムの3元素が自然界に放射性同位体を持つ、すなわち人体の中にも自然放射性物質が一定量が存在する。(動植物全体に言えることであるが)

(2) 大気圏内核実験による生成 (フォールアウトトリチウム)

1963年の大気圏内核実験停止条約締結までに天然起源存在量の200倍程度のトリチウムが放出されたと推定され、その結果として環境中のトリチウムレベルは大きく増加した。1963年以降は核実験起源の大気中トリチウムは物理的崩壊および海水中への移行により、減少傾向を示している。しかし、海洋との接触が少ない大陸では核実験起源のトリチウムがまだ残っている。

トリチウム04
日本の降雨中の濃度は、1963年頃は100Bq/Lになっていた。大気圏内核実験の前は0.2~1Bq/Lで、現在はそれと同じオーダーに戻ったと推測されている。
1960年代前半は、100Bq/L程度の飲料水を飲んでいた訳ですね。(基準値などは3項に)
トリチウムのグラフ04
トリチウムのグラフ11
(3) 原発(原子炉の中)での生成 (施設起源トリチウム)

燃料棒の中のウランU-235やプルトニウムPu-239の三体核分裂(二つの大きな原子核と一つの小さな原子核が生成する現象)、および、一次冷却水中のリチウムLiのような軽い元素と中性子の反応によって生じる。
出力100万kWの軽水炉を1年間運転すると、原子炉ごとに異なるが、
  加圧水型軽水炉内には約200兆(2×1014)Bq(質量で0.6g)、
  沸騰水型軽水炉内には約20兆(2×1013)Bq(質量で0.06g)
が蓄積する。(出典はこちら

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3.人体への影響

(一般的にβ線は外部被ばくはほとんど害がないが、)1項に記載したように、トリチウムのβ線のエネルギーは小さく外部被ばくの影響は全く考慮しなくてよい。内部被ばくも、極めて小さなリスクしかない。

(1) 実効線量係数

トリチウム03
トリチウム水:HTOの線量係数は、経口と吸入摂取が同じでCs-134,137の1,000分の1のレベル、植物等の組織と結合した有機結合型トリチウム(OBT)の線量係数はHTOの約2.3倍、トリチウムガス:HTの線量係数はHTOの一万分の1で、いずれも他の核種に比べて非常に小さく人体影響は少ない(とICRPは判断している)。

実効線量係数は、体内に取り込んだ放射性物質がどのように生体内で代謝されていくのか、といったことから設定されており、生物学的半減期のファクターはその係数に反映されている訳であるが、参考までに次のとおり。(出典はこちら
 トリチウム水 HTO:約10日
 有機結合型トリチウム OBT:約30日~45日

【訂正】
(2) 飲料水の基準値など

英語版wikiから飲料水の基準値を引用します。国や機関によってバラバラで、日本では基準はない。
 WHO:10,000 Bq/L. (詳細は、「飲料水水質ガイドライン第4版」におけるトリチウムのガイダンスレベル、とのこと)
ちなみに、
10,000Bq/L×730L×(1.8×10-8mSv/ Bq)=0.13mSv/年
  730 Lは、2 L/日×365日
 カナダ:7,000 Bq/L.
 米国:740 Bq/L

【参考】
EU指令では、パラメータ値を100 Bq/Lとしている(水質基準の国際比較
パラメータ値は限界値ではなく、この値を超過した場合、加盟国は、人の消費を意図した水における放射性物質の存在が措置を必要とする危険を及ぼすか評価しなければならない値。
出典:飲料水中の放射性物質のモニタリング等に関するEU 指令について(その1)(水道技術研究センターのPDF)の4/6ページ(7)、5/6ページ(4)


(3) 自然起源のトリチウムによる内部被ばく量、摂取量

人体中には50Bqのトリチウムが存在し、自然放射線による日本人の平均被ばく量2.1mSv/年の内訳に、かろうじて現れています。
自然放射能21mSv03
0.0000082 mSv(8.2×10-9 Sv)と他の核種に比べて桁違いに低い値なので、例え、これが10倍とか100倍になったとしても、全く気にするレベルではないかと。
なお、この年間被ばく線量から1日の摂取量を逆算すると、0.7 Bq/日となる。(HTOとOBTの比率を1:1と仮定)
 (8.2×10-9Sv/年)÷365÷(1.8×10-11Sv/Bq+4.2×10-11Sv/Bq)×2=0.7


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4.原発などからの海洋放出

トリチウムは他の放射性核種に比べて多くの量が、世界各国の原発や核燃料サイクル施設から海域に計画放出されている。その理由は技術的・コスト的に濃縮や分離が困難なためと、トリチウムの人体影響が他の核種に比べて非常に小さいため、とのこと。

(1) 原発での液体トリチウム放出基準・濃度限度の例

放出量の基準:22兆(2.2×1013)Bq/年 ←福島第一原子力発電所保安規定に示された平常運転時の放出基準値、これは原発毎(正確には原子炉毎)に定められている。
なお、トリチウム以外の放射性液体廃棄物の年間放出量の基準は、合計でこの1/100の2200億(2.2×1011)Bq/年。

放出による環境影響の基準として、周辺監視区域外の水中の濃度限度:60,000Bq/L ←法規制の濃度限度(実用発電用原子炉の設置・運転等に関する規則の規定に基づく線量限度を定める告示)
なお、トリチウム以外では、Cs-137:90Bq/L 、Sr-90:30Bq/L などが定められている

【豆知識3】海洋投棄の禁止(ロンドン条約) 
ロンドン条約は、船舶等から海洋へ処分する行為等を禁じているが、原発施設からの放射性排水の海洋への放出は対象にはならない
⇒ロンドン条約は1975年に発効し、高レベル放射性廃棄物の海洋投棄が禁止された。以後この条約の下で実施されていたが、1982年の第6回の会議で、海洋投棄に関する科学技術問題を再調査し、その結論が出るまで投棄を一時停止するという提案が行われたことから海洋投棄は一時中止することになり、この年以降は実施されていない。その後、1993年の第16回会議で、放射性廃棄物の【船からの】海洋投棄は全面的に禁止となり、1996年には海洋投棄規制を強化するための議定書(1996年の議定書)が採択され、2006年3月に発効、日本は2007年10月に批准している。
参考になるのは、福島第一原子力発電所における汚染水の放出措置をめぐる国際法(西本健太郎 東大特任講師)、その他ではatomicaのロンドン条約とか、外務省資料を参照。

(2) 世界各国の原発からの海洋放出の実態

トリチウムのグラフ03
英国が多く2500兆(2.5×1015)Bq/年程度、日本は400兆(4×1014)Bq/年程度。
これには、核燃料サイクル施設(再処理工場など)からの放出量は含まれていない。

ヨーロッパの原発は川沿いにあることが多いので河川に放出しています。日本であれヨーロッパであれどこであれ、管理状態かつルールに従った放出であればリスクは小さいと理解します。現在の日本では風評を助長する言説や風説・デマが多いのが問題かと。

(3) 日本の原発からの海洋放出の実態

平成23年度 原子力施設における放射性廃棄物の管理状況(2012年8月)の38ページに、各原発からの海洋放出量の10年間のデータ表(H14年度~H23年度)があります。表の一部だけならこちら(by kazooooyaさん)
オーダーレベルでは年度毎のバラツキは少ないので年平均値でグラフを作成しました。
各原発からのトリチウム海洋放出の年平均値(2002年度~2011年度)
トリチウム排出量グラフ01
いずれも保安規定による年間放出管理目標値以内とのことですが、原発毎の傾向がわかります。
加圧水型では最大が玄海の82兆(8.2×1013)Bq/年
沸騰水型では最大が事故前の福島第一の1.5兆(1.5×1012)Bq/年←2010,2011年度は評価中でデータなし。
また、全原発の合計では年間で380兆(3.8×1014)Bq/年で、世界比較のグラフと【年代が違うのに】よく整合します。
参考までにExcelファイルです。

(4) CANDUからの放出

カナダで開発されて韓国や中国に導入されている重水型原子炉(CANDU)*では、重水(D2O)を中性子の減速材に使っているので、D+n→T (D:重水素、n:中性子、T:トリチウム)の反応でトリチウムが多量に発生する。* 天然ウランを燃料に使うことができるのでウラン濃縮が不要の原子炉。
CANDU炉を有する韓国では、除去設備が2007年から運転されているが、扱うトリチウム濃度は福島第一原発の濃度より百万倍程高く、処理速度は低い。
カナダのブルース原子力発電所、韓国の月城原子力発電所周辺では環境中トリチウム濃度の増加が観測されている。
(個別のCANDUからの海洋放出量を探してみたところ、かなりの量が放出されているようだ、との定性情報はありましたが、しっかりとした情報は見つけられませんでした。)

(5) 再処理工場からの放出

再処理工場では扱う燃料棒に生成されたトリチウムが入っているために、計画放出量は原発よりも多い。例えば、英国セラフィールド施設からは1998~2002年の年平均値で
2600兆(2.6×1015)Bq/年が海洋に放出されている。
トリチウムのグラフ06
フランスのラ・アーグ再処理工場からの放出量の実績値(2003年)は表1のとおり
トリチウム水  → 1.2京(1.2×1016)Bq/年
トリチウムガス → 67兆(1.9×1013Bq)Bq/年
表1 再処理工場運転の際の主な放射能の年間放出量 単位:兆(1012)Bq/年
再処理工場のトリチウム、C-14、クリプトン-85、I-129の放出基準
六ヶ所村の欄は実績ではなく保安規定に定められた基準値で、年間800トンの使用済核燃料を処理することを前提として以下のとおり。
トリチウム水  → 1.8京(1.8×1016)Bq/年
トリチウムガス → 1,900兆(1.9×1015Bq)Bq/年

炭素C-14 はこちらのエントリーに記載)
本題からは少し外れますが、ブログ主個人は再処理そのものには否定的な意見です。(放射性廃棄物とは別の理由で)
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5.主な参考文献

出典を記載した資料の他は以下の文献。

 トリチウム流出の影響 福島第一の地下水(安井至教授の市民のための環境学ガイド2013/8/10)
⇒一部のみ引用と紹介
『環境関連で、このところの新語はPM2.5だったが、日本という国では、新語は過大に恐れられる。しかし、トリチウムは、ある種の水素の名称なので、多少とも化学をかじれば、極めて常識的に理解できる用語ではある。』
風評被害を作り出す人々の主張への反論』があります。
齋藤眞弘名誉教授の論文、1985年の毎日の記事に関して)
齋藤先生自身、「この記事ではいささかセンセーショナルな取り扱いになっている。放射能の生物影響を云々する場合には、量的に線量を評価することが必要であり、脳に特に長く残るからといって、ただちにトリチウムを悪者扱いすることは早計である」と述べられています。
(東電の資料を批判しているブログは)この論文をちゃんと読んでいない。この手のブログにそうだそうだと頷く人は、自分達に都合の良いところしか読まないという性格なのです。普通、引用文献までしっかり読む人はいないでしょうから、いかにもしっかりした先生の論文を引用をしているのだから大丈夫だ、信用しろという程度の扱いなのでしょう。

 原子力資料情報室(CNIC) - トリチウム
 三重水素 - Wikipedia
 福島第一原子力発電所でのトリチウムについて(東京電力2013/2/28)
 トリチウムはどうなっているの? :放射線診療への疑問にお答えします(国立保健医療科学院)
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6.関連エントリー

 炭素C-14とは?危険性は?放出量の基準は?
 自然放射線による被ばく、ポロニウムPo-210 、カリウムK-40、ラドンRn-222

【注目メモ】
中井斌遺伝研究部長らの研究に関して(1974年朝日の記事)


【本エントリーを紹介頂いてているブログなど】
「農と島のありんくりん」2014/8/21 トリチウム放出は国際条約で認められた計画放出だ
Togetter 2013年9月 トリチウムの生体影響について(by @glasscatfish さん)

【メモ】
資料4 山西委員プレゼン資料 トリチウムの物性等について(多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会(第2回2016/12/16)
トリチウム研究会~トリチウムとその取り扱いを知るために~(日本原子力研究開発機構 福島技術本部オフィシャルサイト 2014/3/4)
安全情報公開 トリチウムについて(2013/8/23 核融合科学研究所)
極低濃度および高濃度トリチウム量を知る
原子炉等規制法に基づく事業者モニタリングの概要について
福島第一原子力発電所のトリチウムの状況について(東京電力2013/4/26トリチウム除去技術)

【トリチウムについては疑問な公募】
国内外から汚染水対策に関する技術提案を募集します(経産省2013/9/20)
汚染水対策に関する技術提案受付専用HP(技術研究組合国際廃炉研究開発機構(IRID)2013/9/20)
引用
[ 2013/09/09(月) ] カテゴリ: 自然放射線の勉強 | CM(0)
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