ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

【8】発がんリスクの比較~暴露マージン:MoE

[ 2013/01/22 (火) ]
前号の【7】 “リスク認知” および “おわりに”リスク比較の、『死亡の機会が100万に1人(10-6)の割合で増えると推定したリスクの比較』に実感が持てなかったこともあり、別のリスク比較手法を勉強しました。

暴露マージン(MoE:Margin of Exposure)とは

 暴露マージン(MoE)についての、おおまかな説明
悪影響が観察されない量人の推定摂取量との間に何倍の差があるかを示す指標で、つまり、遺伝毒性(発がん性)影響までどれくらい余裕があるか、を示す安全係数。

上記の概略理解だけでも良いと思いますが、式では。
  MoE=(BMDL10:10%発がん率の信頼下限値)/(ヒトでの推定摂取量)
  または、
  MoE=(NOAEL)/(ヒトでの推定摂取量)
また、判らない言葉が出て来ました。

BMDL(ベンチマーク用量信頼下限値)
 用量-反応曲線の95%信頼限界の上限、下限曲線を描きます。用量-反応曲線で対照群に比べてある一定の割合だけ発がんが増加する投与量(これをベンチマーク用量(BMD)と言います。)の安全側(95%信頼下限)の信頼限界値をBMDLといいます。この方法では少ない動物数の試験でも検出感度の補正ができ、より安全側からの推定ができます。増分の取り方は10%、5%、1%などが用いられます。少ないほど安全側にたった推定値となります。FAO/WHO合同食品添加物専門家会議(JECFA)では発がんが10%増加する用量(BMDL10)を採用しています。
BMDとBMDL
例えば、アクリルアミドの発がんに対するBMDL(0.3 mg/kg体重/日)と平均摂取量(0.001 mg/kg体重/日)では、MoE=0.3(BMDL)÷0.001(摂取量)=300 と算出されます。

 出典:農水省の用語説明

欧州食品安全機関(EFSA)では、MoEが10,000以上であれば、“国民の健康への懸念が低くリスク管理の優先度が低い”としています。しかし、10,000という数字を、健康への懸念を引き起こす閾値、又はリスク管理措置を取るべき基準とみなすべきではないとしています。
MOEの目途
出典:遺伝毒性発がん物質のリスク評価について(畝山智香子氏)

暴露マージン(MoE)による発がん物質のリスク比較の具体例
 比較表などをいくつか引用します。

資料A 食品や食品添加物、残留農薬におけるMoE
MOEの図02
出典:花王資料、こちらのヘルスケアレポート別冊、エコナと食の安全・コミュニケーションにも同じ図があります

資料B MoE(LTD10/ヒト暴露量)(米国)抜粋
MOE米国 

資料C 遺伝毒性発がん物質のMoE値
MOE発がん物質
出典:食品中の遺伝毒性発がん物質のリスク評価(畝山智香子氏)

資料D 各種発がん物質のMoE
MOE発がん物質02
出典:遺伝毒性発がん物質のリスク評価について(畝山智香子氏)

資料E 「FOOCOM.NET 松永和紀氏」2011/11/16 放射線と食品中の発がん物質、どちらが危ない?〜畝山智香子さんの本で考えるから引用

 MoEなどによる比較手法も紹介している。つまりは、さまざまな「物差し」を用いてリスクを比べ、規制の優先順位付けをすることと、リスクコミュニケーションを行うことの重要性を示しているのだ。
 これはまさに、私が待っていたものである。思い切った仮定があり、無理もある。だから、食品の研究者はこれまで示してくれなかった。細部の科学的正しさに固執してきた科学者は、これができない。だから、食品安全委員会のリスク評価書のように、細部に間違いはないがなんの役にも立たない、ということになる。
 「リスク管理」に役立てるための「リスク評価」であるべき、という視点から、畝山さんは、細かな批判は覚悟のうえで大きな1歩を踏み出し、リスクの比較をしてくれた。


資料F 食品中の遺伝毒性発がん物質に対する暴露マージン(Margin of Exposure:MOE)アプローチの適用から引用

MOEの大きさは懸念レベルの指標を提供するが、リスクの正確な定量化でない。MOEが大きくなればなるほど、対象物質の暴露によって引き起こされる潜在リスクは小さくなる。例えば、MOEが1,000の発がん性物質はMOEが10,000の異なる発がん性物質の10倍のがんリスクを表しているとは言えない。EFSA/WHO/ILSI会議は、MOEアプローチは遺伝毒性発がん物質のリスク評価に有用かつ現実的選択肢であると結論付けた。なぜならリスク管理作業の優先順位付けを支援すべく物質間の比較を可能にするからである。

以下、少し細部のお話のようですのでスルーして頂くのも。

食品中に存在しうる12 の遺伝毒性かつ発がん性を示す化学物質が、動物試験における経口による発がん性の用量反応の出発点(PoD)とヒトの食事由来の推定暴露量との暴露マージン(MOE)を計算するために選択された。
(中略)
JECFA(食品添加物合同FAO/WHO 専門家会議)はALARAアプローチに対して3 つの主要な代替案に言及した。(中略)これらの3 つのアプローチの中から、JECFAはMOEが好ましいと結論付けた。同様に、EFSA(ヨーロッパ食品安全機構)はMOEに関し暴露をALARA まで低減するべきとの助言より有益であると結論付けた。
(中略)
MOE は無毒性量(NOAEL)あるいは重要な毒性に対するベンチマークドーズ信頼下限値(BMDL)と、理論上のあるいは予測、推定された暴露量・濃度との比率と定義された。DNA 反応作用機作(MOA)を介して引き起こされる発がん過程では、用量反応関係においておそらく閾値が存在しないと考えられている。よって潜在的作用のない用量は存在しないと考えられている。したがって、遺伝毒性発がん物質についてNOAELを特定することは科学的に妥当ではないと考えられている。ゆえに、MOE は実験的にあるいは疫学的調査から得られた用量反応関係に基づいたPoD(参照点としても知られている)から算出される。



比較表の中身をチョット深堀りしてみました

■ 先頭にあるコンフリーは、知りませんでした。
(農業・食品産業技術総合研究機構)コンフリーの毒性

■ アルコールMoE一桁台について
 アルコールが発がん物質で、しかも、リスク管理の優先度が高いのですね。検索などしてみると
  アルコールは食道がんのプロモーターと考えられている
  アルコール代謝産物のアルデヒドは発がん物質
などの情報があります。“なるほど”なのですが、MoEにはリスク・ベネフィットのファクターが考慮されていませんし、また、左党のブログ主からみると、胃がんのプロモーターである食塩や大腸がんのプロモーターである脂肪が載っていないのは不公平じゃないか、との感じがします。(こじつけ
 
■ その他、リスク管理の優先度が高いもの
ヒ素
日本人は水産物とコメの消費量が多いため無機ヒ素の暴露量が多いだろうと予想されているとのことで、リスク回避対策の優先順位の高い発がん物質になります。
【関連エントリー】『ひじきにはヒ素が多い』という話
アクリルアミド
製造・加工段階に高温で焼いたり揚げたりする食品に含まれていることがわかっています。例えば、じゃがいもから作られるフライドポテトやポテトチップス、小麦や米から作られるビスケット、かりんとう、せんべいなどの菓子類、また、コーヒーや茶葉などです。家庭で食品を焼く、揚げるなど高温で調理した料理にも含まれている可能性があります。詳細は次の資料で。
「食品安全委員会」アクリルアミドに関するファクトシートの概要について
「食品安全委員会」加工食品中のアクリルアミドについて
【関連エントリー】アクリルアミドについて(きっかけは変な書評)
カフェ酸(コーヒー酸)
コーヒーなどに含まれている香り成分で、ポリフェノールの一種です。発ガン性とともにガンを抑制する効果も認められています。
【含有の可能性がある食品】コーヒー、レタス、リンゴ、ジャガイモ、セロリ、ニンジン、プラム、ナシなど多くの食品に含まれています。
【半数発がん用量:TD50】297 mg/体重kg/日(ラット)
【IARC 発ガン性評価ランク】2B(ヒトに対して発ガン性がある可能性がある)
出典:(日本冷凍食品協会)食品安全ハンドブック
アフラトキシン
本シリーズの下記に情報をまとめています。
【5】実質安全量:VSD (閾値がない化学物質)
【6】耐容一日摂取量:TDI (閾値がない化学物質)
フラン
焙煎コーヒー、ベビーフードを含む缶詰・瓶詰食品、肉や野菜等を加熱加工した食品中に広範囲に含まれることが確認されています。詳細は次の資料で。
「食品安全委員会」フランのファクトシートを公表しました

【つぶやき】リスク比較としては“ふむふむ”ですが、注意のしようのないものもありますね。

■ 資料C放射線MoE=10について
 MoE計算式の分子の値を100 mSvとしていますが、経口摂取による内部被ばくで、発がん性が観察されない量とは次のいずれかでしょうか?良く判りません。
●これ以下は確率的影響がふえる証拠は疫学的・統計的に得られていないとする値
●食品安全委員会が生涯における追加の累積の実効線量で現在の知見では健康影響の言及は困難であるとする値
 分母は摂取量(実際の被ばく線量)で、その値としている10 mSvは高め感があります。
 福島でもMoEの実情は100~1000のオーダーで、10000という数字に比べると低く、対策が必要ですがアクリルアミドアフラトキシンなどと同程度で、これらに比べて対策の優先順位が際立って高いとは言えないとのこと(出典)です。
【つぶやき】自然放射線による被ばくは、バックグラウンドとして除外して考えるのがセオリーのようですが、MoEで他のリスクと比較する場合は含めた方が良い気がします。(その場合は分子の値も改めて考える必要があるでしょうが。)

【個人的メモ】
★「日本原子力文化振興財団」専門家インタビュー:畝山智香子氏 食品の安全の考え方と放射能
★「GEPR 畝山智香子氏」2012/5/31 食品中の発がん物質と放射性物質のリスク評価-福島原発事故の影響を考える
★「安井至教授 市民のための環境学ガイド」2010/1/10 食品の安全とゼロリスク
★「とらねこ日誌」2012/1/10 「安全な食べもの」ってなんだろう?放射線と食品のリスクを考える】本を読んでおもつたこと編
★「FOOCOM.NET 松永和紀氏」2012/11/8 放射線リスクに対処するには、総合的な情報提供と共有、意見交換が必要(下)
★「農林水産省」2012/10/31 有害化学物質の含有実態調査の結果をまとめたデータ集(平成15~22年度)について
★ 「タンボとハタケと」2013/11/3 インターネットで公開されている uneyama氏のプレゼン資料
http://jrafi.ac.affrc.go.jp/kyoiku(1).pdf
★「環境儀 No.56 国立環境研究所 2015/3/31」 コラム4動物実験データに基づく発がんリスク評価

つぶやき

 多くの資料を引用させて戴いた畝山智香子さんには、お礼を申し上げます。
 実は、一連の【食品中の化学物質の安全性】のシリーズの勉強のキッカケは、MoEについて調べ始めたことでした。基礎的なことが判らないと理解が進まないということでの勉強でした。
 今回の勉強で、毎日食べている野菜や果物などには多くの天然の発がん物質が含まれていてゼロリスクはありえないことや、DDTPCBといったよく聞く物質より、発がんリスクが大きいものもあることを理解しました。じゃあ、どするの?という部分では定量的に捉えることと、ベネフィットも踏まえて、結局、バランス良く食べることが大切と、畝山智香子さんが書かれていることが良く理解できました。
 次号は本シリーズの最後として食品添加物についての勉強を予定しています。


次号:【9】食品添加物、なぜ使われている?、どのようなルールがある?、どのくらい食べている?

おまけ的情報として

(参考)植物性食品に含まれる天然の発がん性物質

以下、長くなりましたので、単独エントリーに切り出しました。

(参考)半数致死量(LD50:50% Lethal Dose)

以下、長くなりましたので、単独エントリーに切り出しました。
[ 2013/01/22(火) ] カテゴリ: 栄養学?や基礎的な事 | CM(6)
Re: タイトルなし
ありがとうございました。勉強になりました。
なお、このエントリーの主題は発がん性のリスク比較の勉強でしたが、読み返すと、表題などにそれが明確に表現されていない部分があるので修正する予定です。
[ 2013/01/24 11:57 ] [ 編集 ]
もっと基本的な毒とは。急性毒性は一時的に暴露の量と毒性できまる、慢性毒性は毒性と蓄積時間(循環的暴露も加わる)と量で変わる。 

DDTは急性も慢性もどちらも低い。PCBとひとくくりに出来ない、であるので、コプラナ-PCB:3,4,5,3',4'-ペンタクロロビフェニル、3,4,5,3',4',5'-ヘキサクロロビフェニルと表記している。で、急性毒性はかなり低いが、蓄積慢性毒性がグレーである。ここが、他のダイオキシン類と違うところ、他は代謝排泄時間が早い。
[ 2013/01/24 08:02 ] [ 編集 ]
Re: タイトルなし
基礎的な質問で恐縮ですが、DDTとPCBのコメントは急性毒性に関することでしょうか?
[ 2013/01/24 02:07 ] [ 編集 ]
http://www.jaam.jp/doc/ricin.pdf
自然由来の最強の生物兵器。 

DDTとコプラナ-PCB:3,4,5,3',4'-ペンタクロロビフェニル、3,4,5,3',4',5'-ヘキサクロロビフェニルと同等に扱うはもんだいがある、分解代謝時間が全く違いすぎる。 今回の津波で、保管されているPCBのコンデンサーが流失した件は不幸中の幸い。
[ 2013/01/23 22:11 ] [ 編集 ]
Re: タイトルなし
なるほど!
マイトトキシン(有毒渦鞭毛藻→シガテラ食中毒、死亡例なし)はテトロドトキシンの200倍
パリトキシン(有毒渦鞭毛藻→スナギンチャク類→アオブダイ等による食中毒、死亡例あり)は同40倍
ですね。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%87%B4%E6%AD%BB%E9%87%8F
[ 2013/01/23 11:58 ] [ 編集 ]
マイトトキシン次にパリトキシン てのがありますがね。渦鞭毛藻類は毒素のデパートですから。マイトトキシンで死者が出ないのは、その含有量が魚貝類に少ないからですが。

破傷風は、多くはワクチンの5年毎接種で抗体持続できますが。 
[ 2013/01/22 22:28 ] [ 編集 ]
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