ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

放射線防護の国際的枠組み

[ 2012/09/01 (土) ]
佐々木康人氏の説明を追記。2014/6/1
(上記までの追記記録は割愛)


 表記に関連する資料をいくつか、アーカイブします。
 今更ながらの感がありますが、エントリーの整理で単独化したものです。

放射線防護における国際的な動き
 出典:放射線科学2007.04 Vol.50
国際的な放射線防護の仕組み
ICRP

 我が国を含め多くの国において、放射線防護の安全基準の拠りどころとしているのは、ICRP の勧告である。
専門家で構成される所謂NGO 組織であるが、放射線防護の基本的な理念や基準を示したICRP 勧告は、国際的に権威として考えられている。

【メモ】【追記】

ICRP放射線防護体系の進化―倫理規範の歴史的変遷―(2014/3/31 佐々木康人)
2007年勧告以後は、「組織反応(tissue reaction)」という言葉が採用され始め、徐々に「確定的影響」にとって代わりつつあります。
また補足ですが、近年の分子生物学的手法も取り入れた実験から、放射線が当たらない細胞にも放射線の影響が及ぶこと(標的外への影響)が明らかにされていますが、2007年勧告の段階では、その新たな知見に言及しつつも、「まだ人の防護体系に取り込むまでには成熟していない」という立場を表明しています。


UNSCEAR

 放射線影響に関する科学的知見を国際的にまとめているのは、原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR:United Nations Scientific Committee on the Effects of Atomic Radiation)である。
1955年の第10回国際連合総会において、大気圏核実験による地球規模的環境放射能汚染の広がりを防止するため、人体と環境への原子放射線の影響に関する情報の収集と知識の普及を目的として設立された。
加盟国や専門機関から提供される資料を収集し、これらを分析整理して、1958年に最初の報告書を刊行し、その後多くの報告書が刊行された。特に1977年1982年1988年1993年2000年には、放射線・放射能の環境中の分布から人体影響までを包括的にまとめた報告書を刊行している。

2001年には遺伝性影響に関する報告書を発行している。その後,委員会で検討されてきた課題について,2006年と2008年報告書としてまとめられたが,事務局の人材の不足,予算や国連内での手続などの問題が原因で発行が大幅に遅れ,2006年報告書は2009年に,2008年報告書は,第1巻が2010年に,第2巻は2011年に発行された。
2011年には,低線量放射線の健康影響の要約についての科学的報告書を含む2010年報告書も発行したが,この報告書は2006年報告書までに低線量被ばくの健康影響について検討された結果のうち,委員会で合意が得られた知見を10ページ程度で簡潔にまとめたものである。その後2012年に「低線量での放射線の作用の生物学的メカニズム」を発行している。
出典:「Isotope News 2013年11月号」UNSCEAR 2006年、2008年、2010年報告書 米原英典

NEA

 経済協力開発機構(OECD)の原子力機関(NEA:Nuclear Energy Agency)には、1957年に設置されたCRPPH(放射線防護公衆衛生委員会)という委員会がある。
 放射線防護に関する様々な活動を行ってきたが、最近の活動でICRP 新勧告案について、規制者や利用者、環境保護団体などステークホルダーの意見を積極的に取り入れるための会合を、アジア、米国、欧州で開き、地域特有の問題点を検討するために、重要な役割を果した。

IAEA

 国際原子力機関(IAEA)は、原子力に関する様々な国際的な役割を果たしているが、放射線の利用に関する基準や放射線防護の基本原則については放射線安全基準委員会(RASSC:RAdiation Safety Standard Committee)が担当している。
ICRP 勧告に示された考え方や防護基準を法令に取り入れる検討を行う体制がない国でもしっかりとした放射線防護基準を取り入れられるように、多くの具体的な安全要件や安全指針などの文書を策定している。
それらの基本となる安全基準をOECD/NEA や世界保健機構(WHO)などと協同でまとめたものが、国際基本安全基準(International Basic Safety Standards、BSSと呼ばれる)であり、多くの国で法令などに取り入れられている。

国際的な放射線防護の枠組み
 出典:放射能汚染と食品安全・風評被害防止 (独)農業・食品産業技術総合研究機構 林清 所長
放射線防護の国際的枠組み
UNSCEAR

 放射線による被ばくの程度と影響を評価・報告するために国連によって設置された委員会として「原子放射線の影響に関する国連科学委員会」(UNSCEAR)がある。本委員会は純粋に科学的所見から調査報告書をまとめることを意図して作られた組織であり、その独立性と科学的客観性からUNSCEARの報告書に対する評価は高い。これまでに20件の報告書を発表しており、世界各国はこれを参考に放射線障害防止に関する法令の整備を行っている。

IAEA

 また、原子力平和利用を促進し、軍事転用されないための保障措置を実施する国際機関として「国際原子力機関」(IAEA)があり、加盟国は139カ国におよぶ。IAEAでは安全基準シルーズを発行している。IAEAの安全基準は加盟各国に遵守を義務づけるものではないが、国際規格としてみなされており加盟各国の国内法に反映されている。

ICRP

 さらに「国際放射線防護委員会」(ICRP)は、専門家の立場から放射線防護に関する勧告を行う非営利、非政府の国際学術組織である。UNSCEARの報告書を基礎資料として用いており、ICRPの勧告は国際的に権威あるものとされ、IAEAの安全基準ならびに、世界各国の放射線障害防止に関する法令の基礎にされている。

関連エントリー

★なぜリスクコミュニケーションは失敗したのか、日本の一年間、スウェーデンの例 [2012/03/27]
(一部転記)
 書籍「スウェーデンは放射能汚染からどう社会を守っているのか」
スウェーデンも事故発生直後の1年は、日本と同じように放射能をめぐる社会混乱が起こった。人々に不安が広がり、政府の対策も遅れた。それに対する反省から、政府と民間で適切な対策を考える調査と研究が行われた。
  教訓6 スウェーデン政府の放射能対策一般原則
   (1) 現行法や国際的な取り決めに反した対策は行わない。

★ICRPをベースにしたリスクコミュニケーションがうまく進まないのは何故か? [2012/03/22]

★LNT仮説ほか、放射線の“確率的影響”を巡る諸説のまとめメモ [2011/09/18]
(一部転記)
 そもそも、ICRPECRRがメディアの両論併記により等価に見えてしまうのが問題。「メディアは、一つの意見を書くことの責任を取りたくないために、100人対1人の意見の対立であっても、それを1対1の重さで書く」との批判がある。
 「主流対反主流」という構図で理解しようとすると、主流を批判するために反主流を主流と同じ位置にもって行くことになります。実際に意見が二分されているような状況ならいいのだけど、反主流がとっても小さくて弱いと、ここで虚像が出来上がります。

つぶやき

 低線量の放射線影響については、科学が完全な結論を出せていない命題であることを含めて、今まで結構回り道をしながら色々と勉強してきましたが、こうやって全体を俯瞰してみると、“やっぱICRPだね”との感がします。

 個人的に平時の基準としては、ICRP 1990年勧告 Pub.60 での1mSvの根拠を元に、『一応の目安として5年間の平均値が1mSvになるように、といった運用で十分である』が正解なのかと思います。
 詳細は(メモ書き)ICRP111の考え方と現状の日本の基準の整理、ICRP60:1mSvの被曝基準は受容性を参照ください。


【追記】
田崎先生の“ICRPとの付き合い方”

 田崎先生の最新資料の中の説明が“なるほど”でした。
★日々の雑感的なもの―田崎晴明2012/9/5
資料の中のある2枚のみを下記に紹介します(田崎先生の本意から外れる引用で恐縮ですがご容赦ください)。
田崎先生のICRP感

【つぶやき】
 ICPRの勧告に対して専門家の中で、それを過大(安全余裕を見すぎている)とする主張も、過小(危険性を軽視している)とする主張もありますが、放射線防護としては適切であるとの主張が主流を占めると理解しています。ただし、今後も、立場を異にする専門家の間での論議としては、長く続くのでしょうね。

田崎先生の科学の方法

【追記】
放射線の専門家には、いくつかの種類がある
 出典:安井至教授のHP「市民のための環境学ガイド」から、2012/7/29 バイスタンダー効果と最終結論

(関連部分のみ引用)

 放射線の専門家には、いくつかの種類があるように思うのです。
 BEIRはCommittee on the Biological Effects of Ionizing Radiationが正式名称ですが、そのBiological Effectsを研究する学問が放射線生物学

 ICRPはInternational Commission on Radiological Protectionが正式名称で、これを研究する学問が放射線防護学

放射線防護学というものは、

 生体への放射線の影響を過大に評価しても良いから、過小評価は絶対に避けて、放射線による被害を可能な限り極小化することを目的としている。そのため、LNTのようなモデルを考える。モデルというが、実際には仮説であって、生物が遺伝子の損傷を直す能力があることはすでに科学として確立しているのだが、これを無視することが、リスクを過小に評価する可能性が無いという理由でこの学問領域では正しい選択になる。
 LNTを仮定しているために、「いかに少ない被曝であっても、影響が無いとは言えない」という自縄自縛状態にある。そのため、先週の本Webサイトの記事のように、1mSvという基準値を、「公衆の受容性」という心理的な要素によって決めるというような方法論も採用する。*1
 加えて、放射線防護学は規制を作る側の論理なので、ややもすると、厳しい規制を作って自らの権威を保つという欲望を持つという危険性があるように思いますね。
 放射線防護学は、決して、原子力事業者の味方ではない。過去、ICRPの勧告が厳しすぎると、原子力事業者からは、うとましいものだと考えられていた、という歴史がある。
 行政にとっては、ICRPは便利な組織だった。4月から食品衛生法をできるだけ厳しくしたかったのは、行政そのもののようには思うが、「厳しい規制は権限強化である」という発想は官庁にもあるのは当然だが、規制の作成に関わる学者側にもあると言えるだろう。

*1 詳細は(メモ書き)ICRP111の考え方と現状の日本の基準の整理、ICRP60:1mSvの被曝基準は受容性に記載。

放射線生物学では、

 生体が放射線によってどのように損傷を受けるか、科学的に正確に表現することが求められるので、過大評価も駄目だし、過小評価も駄目。

低線量被曝を正しく評価するコツ

 ここで再度整理すれば、リスクを過小に評価しては商売が成り立たないので、過大に評価するのが放射線防護学者。リスクをさらに過大に評価する傾向が強いのが医者*2。リスクを適正に評価しなければ商売が成り立たないのが放射線生物学者、ということになる。
メディアの場合には、どのようなケースもあり得る。どのような読者を味方に付けたいと思っているかによって決まる。極めて単純な発想で考えることでも、十分に理解できる。

*2 専門家(学者、医師など)を正しく評価するコツに少し詳しく引用してます。

【つぶやき】
 以上の論説は、むろん一般論で、現実には同じ放射線防護学でも、安斎育郎先生と小佐古敏荘教授のように天と地ほどの違いがある訳ですね。
[ 2012/09/01(土) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(0)
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