ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

大気中の放射性物質の挙動(フォールアウト時、再浮遊時、現状)

[ 2012/05/25 (金) ]
『I-131の粒子状と気体状の比率』を追記しました。2012/12/13
『文献B 産総研レポート、セシウム運ぶ粒子を推定=硫酸塩の可能性高く』を追記しました。2012/8/3
高崎CTBTのデータ、鉛Pb-212のグラフを更新、早野先生によるセシウムグラフを更新しました。2012/7/6


 フォールアウト時に、大気中のセシウムなどの放射性物質がどの様な形になってたのか?気になっていましたが、関連文献に巡り合ったので、ヨウ素I-131と合わせて纏めておきます。(今さらの感もありますが知りたがりの虫が騒ぐので、)
 以前のエントリーに纏めた7月の再浮遊粉塵データ(京大論文)との比較も含みます。
 さらに、最新データとして
●ふくしま再生の会による測定
●日本国際問題研究所のCTBT高崎放射性核種観測所の粒子状放射性核種の観測結果
も引用させて戴きました。

 かなり細かな内容です。さらに、一部には素人の推測も交えていますので、間違いがあるかも知れません。(ご指摘を)

Ⅰ.フォールアウト時の放射性物質の大気中の挙動

【文献A】

国立保健医療科学院が出版している『保健医療科学』 第60巻 第4号 (2011年8月)に掲載

(当該箇所を部分的に引用)

 大気中でガスと粒子の両方の状態で存在しうるI-131*1のような物質の場合には、ガス/粒子変換を引き起こす。最終的に、大気中の放射性物質は、風の乱れ等による鉛直物質輸送によって(乾性沈着)、あるいは、降水に取り込まれて(湿性沈着)大気中から除去され、地表面に負荷される。

 放射性物質は、大気中を輸送される過程において、乾性・湿性沈着によって大気中から除去されるが、一般的に、粒子はガスよりも乾性沈着しにくく、湿性沈着しやすい。このため、大気中で粒子と存在しているCs-137*2は、乾性沈着よりも湿性沈着によって大気中から除去されやすく、その大気濃度が高い所で雨・雪が降り始めた場合に、沈着量が大きな地域(いわゆる「ホットスポット」)が出現する。一方、I-131乾性沈着しやすいため、その沈着量はCs-137ほど降水現象に依存しない。

 筑波*3では、大気中の放射性核種の粒径分布も測定している。図5 は、4月4~11日に、12 段のインパクターと活性炭繊維フィルターのセットで測定された粒径分布を示す。この結果によれば、I-131のほとんどはガス状であるが一部は微小粒子として存在していること、放射性セシウム(Cs-134とCs-137)は数ミクロンの粒子として存在していることがわかる。
粒径分布

*1 参考としてヨウ素の融点・沸点・昇華性など
*2 参考としてセシウムの融点・沸点など
*3 茨城県つくば市大穂1番地1

上図から、Cs-137(太い実線の棒グラフ)を目分量で読みとる。(後で考察する)
(単位の nBq/cm3は mBq/m3に等しいので置き換えている。)

表1 フォールアウト大気中のCs-137の粒径分布と放射能
                  2011/4/4~11 筑波 屋上高10m     
粒径
μm
Cs-137の放射能
mBq/m3
Cs-137
439%
31235%
21029%
1618%
0.6以下39%
合計34100%


【追記】
【文献B】
産総研(産業技術総合研究所)2012/7/31 風に乗って長い距離を運ばれる放射性セシウムの存在形態
理事長 野間口有、田尾博明、兼保直樹

                  2011/4/28~5/12 産総研つくばセンター
図1 セシウム粒径分布
 2μm以下に存在し、0.2~0.3μmと0.5~0.7μmに極大値を持つ二峰性の特徴的な分布を示した。(図1A)。


(つぶやき)
 この2つ文献の粒径分布は、かなり違っていますね。今後の考察に期待です。
 ちなみに、
 場所は筑波で同じ。時期は3~4週間違う。後者の地上高は不明(有料の原典には書いてある?)


(文献Bから部分的に引用)

【結論】
 放出された放射性セシウムを大気中で長距離を輸送する担体は硫酸塩エアロゾルである可能性が大きい、との結論を得た。


(上記引用の続きとして)

 測定された放射性セシウムの質量は1m3の空気中に数フェムトグラム ( fg =1×10-15g)程度ときわめて微量であり、放射性セシウム単独では図1Aの粒径分布の粒子は形成できず、大気中に比較的豊富に存在する何らかの大気エアロゾル成分の粒子に付着するか含まれた状態で浮遊していたと考えられた。
 そこで、主要成分の粒子の粒径分布を調べ、放射性セシウムを含む粒子の粒径分布と比較して放射性セシウムの輸送担体を推定した。

 硫酸塩エアロゾルの粒径分布は、放射性セシウムを含む粒子の粒径分布とほぼ同じ。

 これまでの研究により硫酸塩エアロゾルでは、硫酸塩が大気中で雲粒または霧粒に取り込まれ、さらに二酸化イオウ(気体)と反応して、より大きいエアロゾルが形成され、その結果として二峰に粒径分布が分かれる場合があることが知られている。放射性セシウムを含む粒子の微小粒子領域での二峰性の粒径分布は、このような硫酸塩エアロゾルの挙動により生じる粒径分布と一致する。

 放射性セシウムが付着した土壌粒子の再飛散による大気中の放射性セシウム量は2011年4月末~5月中旬の時点では少ない。
 放出された放射性セシウムを大気中で長距離を輸送する担体は硫酸塩エアロゾルである可能性が大きい、との結論を得た。

 これまでの研究では原子炉(軽水炉)の事故により放射性セシウムが大気中に放出される際の化学形態としてはヨウ化セシウム(CsI)または水酸化セシウム(CsOH)が想定されており、今回の結論と合わせて考えると、放射性セシウムの輸送・沈着過程の概略は、図2に示すものと考えられる。

図2 セシウムの粒径変化

 つまり、事故で放出された放射性セシウムを含む初期粒子(水酸化セシウムやヨウ化セシウムが想定されている)は、何らかの機構により硫酸塩エアロゾルの形成初期に取り込まれ、気体状の硫酸の凝縮・粒子相互の凝集を経て大気中での寿命が長い粒径0.1~2μm程度のサイズに成長、長い距離を輸送される。
 放射性セシウムを含む硫酸塩エアロゾルは乾性沈着、または落下中の雨・雪と衝突することにより地表に到達し、硫酸塩エアロゾルを核として雲粒・霧粒が形成された状態では重力沈降により地表に沈着する。さらに、このような雲から降水が生じると雪・雨に含まれた状態で大量に地表面に落下する、と考えられる。
 また、今回測定された放射性セシウムを含む粒子の粒径は、事故形態が違うにもかかわらず、1986年のチェルノブイリ原子力発電所事故時に世界各地で測定された放射性セシウムを含む粒子の粒径と大差なかった。

 

(比較のために)
Ⅱ.再浮遊時の放射性物質の大気中の挙動
京大論文を参照した既エントリーから転記

表2 再浮遊粉塵の粒径分布とCs-137放射能
            2011/7/2~8 福島市* 地上1.5m
粒度
μm
Cs-137の放射能
mBq/m
3
Cs-137
100~11.40.36 %
11.4~7.40.36 %
7.4~4.90.48 %
4.9~3.30.613 %
3.3~2.20.24 %
2.2~1.10.24 %
1.1~0.70.48 %
0.7~0.461.123 %
0.46未満1.328 %
合計4.7100%
*原典には、37°45'42" N 140°28'18" Eとあり、googleで見ると花園町

Ⅲ.まとめ

1.フォールアウト大気中のI-131

 ほとんどはガス状であるが一部は微小粒子(0.1~1μm前後)として存在する。
 主に乾性沈着により地表に落ちる。

 大気中での I131 の滞留時間は 12日前後、という情報もあります。
 みーゆさんのツイッター
  https://twitter.com/miakiza20100906/status/206236749029048320

 【追記】2012/12/13
 粒子状と気体状の比率について @parasite2006さんのコメントより
 「I-131は気体が70~80%」は、発生源からある程度離れた場所なら南関東からヨーロッパまでほぼ成り立つようですが、福島県外でも比較的放出源に近い茨城県東海村では、福島原発から放出されたプルームが通過していた時間帯の放射性ヨウ素の揮発性/粒子状の濃度比は1(気体が50%)で、粒子状の比率が高いことがJAEAにより報告されています。
 「JAEA-Review」2011/8/10 福島第一原子力発電所事故に係る特別環境放射線モニタリング結果
 雨が降らない場合、揮発性ヨウ素は粒子状より遠くまで簡単に移動できるのに対し、粒子状は途中で降下してあまり遠くまで移動できません。福島県内では県外より粒子状の比率が高く、しかも原発に近い所ほど、また放出からプルーム到達までの時間が短かった所ほど粒子状の比率が高かった可能性が考えられると思います。
 場所ごとの揮発性/粒子状比は結構幅があるようで、どこでどんな値だったかは調査中。
 同じものですが、Togetterにも記載されています。

2.フォールアウト大気中のCs-137

 【文献Aから】
 表1から4μm以下の粒子として存在し、粒径分布では3μm程度に放射能の35%がある。(その粒子の存在比が35%と考えても良い?)
 合計で34mBq/m3程度であるが、筑波の2011/4/4~11の値であり、あまり意味がない。(合計値の方にご興味があるかたは、原文に3/14以降のデータがあるので参照ください。)
 
 (以下は「小波の京女日記」2012/03/28 ●セシウムの沸点は使えないデータの情報とそれをベースにしたブログ主の推測)
 化学的な形態としては、水酸化セシウムになっていると思われる。すなわち上記の粒子は水酸化セシウム粒子。 
 セシウムの原子はとても電子を放しやすく1価の陽イオンになる。地上の物質中のセシウムは必ず化学結合に参加していて、電子を奪われて陽イオンになっていると考えてよい。
 一般的な環境中で考えられるセシウムの代表的な化合物は、塩化セシウムと酸化セシウムである。大気中では酸化セシウムになる(推測)。さらにそれが大気中の水蒸気と反応して水酸化セシウムを生成する(推測)。
 あるいは、原子炉中で、すでに水酸化セシウムとなっているのかも知れない(推測)。

●「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」放射性セシウムの様態について教えてください。

 なお、Cs-134はCs-137と同じ挙動である。 

 【文献Bから】
 2μm以下に存在し、0.2~0.3μmと0.5~0.7μmに極大値を持つ二峰性の特徴的な分布
 放出された放射性セシウムを大気中で長距離を輸送する担体は硫酸塩エアロゾルである可能性が大きい。

3.フォールアウト後のセシウムの挙動、再浮遊粉塵への付着

 湿性沈着(雨)で地上に降下したセシウムは、直後は水に溶けたイオンとなっている。
 イオンは電気的結合*3 or(ゼオライトによる吸着のような)物理的吸着*4で土壌に付着する。
 *3 イオン交換態:水に溶ける形。植物利用可
 *4 固定態(粘土鉱物に固定):水に溶けない形。植物も利用できない。
 イオン交換態で存在する放射性セシウム量は、多くの土壌で30%以下であることが示されており、大部分は移動しにくい固定態であると言われている。
(以上は、保高徹生さんのサイト 2012/2/16 ●[考察]農地土壌へのゼオライト投入についての個人的考察(2月8日版)
 余談だが、このセシウムと日本の土壌の絶妙なマッチングが、不幸中の幸いで、陸・海の至る所での被害を少なくしている。文献はこちらのリストで

 大気中に再浮遊した粉塵にも同様に付着しており、それが収集したダストの放射能である。
 表2から粉塵の粒径分布では0.7μm未満に放射能の51%(=23+28)がある。フォールアウト時の粒径よりも細かい粒子に放射能が多い。(比表面積が大きい小さな粉塵により多く付着しているため)

4.自然放射線との比較 (人体への影響)

 自然核種でα線を出すラドンRn-222は、 木造・鉄骨造の室内中に平均で12.8Bq/m3存在し、その中で生活している。こちらに記載
 表2の再浮遊粉塵のCs-137はこの1/3000であり、ごく微量であることが判る。

 ちなみに、京大論文の結論の1つは、下記のとおりである。
 計測値の中で最高濃度は、Cs-134が142mBq/m3、Cs-137が194mBq/m3、(2011/7/7浪江町)
 この濃度の粉塵を24時間、365日、100%体内に吸収し続けたと仮定しても、0.08mSv/年
→この事から福島各地での再浮遊粉塵の吸入による内部被ばくは全く心配のない状態と言える。


5-1.最近の測定データ【ふくしま再生の会】

 ふくしま再生の会による●飯舘村佐須地区エアロゾル測定について[速報]から引用
(オリジナルの単位はBq/m3ですが、mBq/m3に変換してます。)

表3 飯舘村佐須地区の再浮遊粉塵  2012/3/20~4/14
資料採取日大気中濃度 mBq/m3
Cs-134Cs-137合計
No13/20~310.330.480.81
No23/31~4/81.652.333.98
No34/8~140.500.701.20

→京大測定の最高濃度、2011/7/7浪江町の1/100レベルですね。

 なお、京大論文には2011/7/7飯舘村*での計測値もあり、Cs-137で38.9mBq/m3となっている。
*原典には、37°36'44" N 140°44'52" E、とあり、googleで見ると長泥という地名。

5-2.最近の測定データ【日本国際問題研究所の高崎観測所】

 ●「日本国際問題研究所」2012/7/5 CTBT高崎放射性核種観測所粒子状放射性核種の観測結果
にデータが掲載されている。平均値を下記に引用する。
*群馬県高崎市綿貫町1233番地

表4 高崎観測所の粒子状放射性核種濃度
            単位 mBq/m3         2012/3/31~6/30
核種4月
平均
5月
平均
6月
平均
備考
( )内はブログ主の推定
人工I-131NDNDND現在検出される人工放射性核種は
Cs-134とCs137の2種だけ
浮遊粉塵に付着している
Te-132NDNDND
Cs-1340.080.080.06
Cs-1370.140.120.09
Ba-140NDNDND
天然Be-74.75.25.0(浮遊粉塵の成分として存在)
K-401.11.23.6
Ac-2280.060.050.05トリウム系列
(浮遊粉塵の成分として存在)
Pb-212362729トリウム系列、ラドンRn-220の娘核種
半減期は約11時間でβ線を出し
ビスマスBi-212に壊変
(壊変は続く)
(浮遊粒子)
Pa-2340.931.11.0ウラン系列
(浮遊粉塵の成分として存在)
Bi-2140.030.060.02ウラン系列、ラドンRn-222の娘核種
詳細はこちら (浮遊粒子)

 このデータで興味深いのは、バックグラウンドとして存在する天然核種の数値、特に、鉛Pb-212 (ラドンRn-220の娘核種)である。これらは原発事故前から同様レベルのはずですね。

   同時に測定したCs-137の100倍レベル
   4項に引用した室内のラドンの1/1000レベル。 
   4項に引用した京大測定の最高濃度、2011/7/7浪江町の1/10レベル。
   5.1項の飯舘村佐須地区の現状の10倍レベル。

 平均ではなく、個別データで見ると、下図のとおりです。バラツキは大きいですね。(親核種のラドン濃度は雨上がり?降雨中?に高い、との説を読んだ覚えが?)
Pb-212グラフ03

 Pb-212の実効線量係数はこちら
 なお、この天然核種の数値は、花崗岩の多い西日本では比較的高く、関東ローム層に覆われた関東地方では低い値のはずですね。

【追記】
 早野先生が当初からのセシウムデータをグラフにしておられるので、引用させて戴きます。
早野先生Csグラフ03
https://twitter.com/hayano/status/220910469374947328

つぶやき

 セシウムの挙動に関するお勉強エントリーでした。

 再浮遊粉塵に付着しているセシウムが心配のないレベルであることは、京大論文で明らかになっていましたが、今回、バックグラウンドとして大気中に存在するラドンの娘核種の粒子の放射能数値が明らかになり、様々なデータに対するリスク比較の一つになると思います。


関連エントリー、Twitter、文献・資料

●再浮遊粉じん吸入による内部被ばく、セシウムの土壌付着
●福島原発周辺住民の内部被曝量は限度をはるか下回る(京大論文の抜粋)
●自然放射線による被ばく、カリウム K40 とラドンRn222

2012/2/24 リスク管理の視点からみた放射性物質汚染土壌の対策 京都大学大学院 教授 米田稔



●ぶんせき2011年8月 核実験監視用放射性核種観測網による大気中の人工放射性核種の測定 米沢仲四郎, 山本洋一

その他の関連エントリーはカテゴリーにひとまとめにしています。記事下部or左欄のリンクから、どうぞ。

【個人的メモ】
●「カクリ論」2012/12/11 現在のWBC検査で出たセシウムが初期の吸入摂取由来でないことの試算
[ 2012/05/25(金) ] カテゴリ: 放射性物質の環境中の挙動 | CM(0)
コメントの投稿










管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL

このブログについて
管理人 icchou から簡単な説明です 更新,追記の通知はTwitter
カテゴリ
最新記事
ブログ内検索