ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

(メモ書き)ICRP111の考え方と現状の日本の基準の整理、ICRP60:1mSvの被曝基準は受容性

[ 2012/04/22 (日) ]
『田崎先生の“ICRPとの付き合い方”』を追記しました。2012/9/9


 このエントリーは考えの整理のための個人的メモです。少々、細かい話です。 放射能

ICRP Publ. 111 の考え方

ICRP111から考えた事
Introduction to ICRP Publ. 111
福島で「現存被曝状況」を生きる


[著者]
高井先生 @J_Tphoto
生徒会長 @buvery

 この冊子中に下記の図があります。
平時と事故時
(説明の一部を引用)

まずは、計画被曝状況。これは、原子炉作業員や、放射線を扱う医者や技師など、線源が制御されている状況です。

 これに対して、核事故での場合を緊急時被曝状況(ICRP109が扱う)と現存被曝状況と呼んでいますが、(後略)

 ただし、そもそも、原子炉で働いたり放射線を扱う医者や技師でない一般の人は、計画被曝状況とは無関係です。(患者として放射線を浴びる医療被曝は、必要に応じて行うことになっていて、計画被曝状況とは関係がありません。)
 さらに、空間線量が年間20mSv以上のところは避難してしまったので、緊急時被曝状況も関係がありません。だから、福島などで一般の人に意味があるのは、現存被曝状況だけで、それはICRP111の担当分野になります。
 
 計画被曝状況の場合、被曝するのは職業人でそれなりの訓練を受けた人です。大事なのは、拘束値=線量限度であって、基本的には、「被曝限度に達したから、もう仕事はやめてくだい」という考え方です。これは、線源が制御されているから、線源から物理的に離れればもう被曝しないからです。
 これに対して現存被曝状況は、一般人の被曝の話をしています。これには拘束値は用いず、参照レベルを用いて、対応の優先順位を決めることになっています。「住み続けたい人で、もっとも被曝の多い人から最初に被曝を減らすようにする」という考え方です。ただし、これの適用範囲は被曝が年間1~20mSvであることが前提です。



現状の基準

1.外部被ばくの基準 (実際は避難区域の基準)
  
低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書

(1) 概要
 内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に設置されたWG(ワーキンググループ)による12月22日の報告書
 現在避難指示の基準となっている20 mSv/年の被ばくのリスクがどの程度のものなのか、などについて、国内外の科学的知見や評価の整理、現場の課題の抽出、今後の対応の方向性の検討を行ったもの。  
(2) 具体的な提言
 20 mSv/年という数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切
 除染の実施は適切な優先順位をつけ、参考レベルとして、例えばまずは2年後に10 mSv/年まで、その目標が達成されたのち、次の段階として5 mSv/年までというように、漸進的に設定して行うこと。
 子どもの生活環境の除染を優先するべきであり、(中略)具体的には、校庭・園庭の空間線量率が1μSv/h以上の学校等は、避難区域内の学校等を再開する前に、それ未満とする。さらに、通学路や公園など子どもの生活圏についても徹底した除染を行い、長期的に追加被ばく線量を1 mSv/年以下とすることを目指すこと。

 【関連エントリー】
 ●避難指示解除準備区域、居住制限区域、帰還困難区域に関する区分マップ(地図)など

【メモ】buveryの日記2013/9/21 先日の安全安心チームの会合についての意見

2.内部被ばくの基準
  食品安全委員答申を受けて、厚労省が設定

(1) 概要
 放射線を被ばくした人々の実際の疫学データに基いて、生涯における追加*の累積の実効線量で、おおよそ100mSv以上で健康影響が見い出されているが、100mSv未満については、現在の知見では健康影響の言及は困難である。
 なお、100mSvについて、疫学データの間で数値が錯綜している中、安全側に立って判断したものであり、100mSvの場合の具体的な発がんリスクの値について示すには至っていない。小児はより放射線の影響を受けやすい可能性あり。 
   * “追加”とは、自然放射線(日本平均約1.5mSv/年)や、医療被ばくなど
   通常の一般生活において受ける放射線量を除いた分としての意味
(2) 具体的な答申
 現状では外部被曝の影響は小さいとして、食品による内部被曝に限定して、生涯における追加*の累積の実効線量:100mSv
(3) 厚労省の対応
 厚労省は、これを「リスク評価になっていない」として却下し、コーデックス(CODEX)委員会のガイドラインを踏まえた1mSv/年として、個別の規制値を設定。それに伴ってセシウムで100Bq/kg(これによる最大被ばくは13~18歳、男子で0.8mSv/年)というのが主な内容。詳細はこちらのエントリー

以上から言える事

(1) 政府はICRP111の個人の参照レベルを言っていない
 
(冊子の65ページ)

 参照レベルは、個人の被曝がバラバラな値をとるので、一人ひとり個別の問題になります。そこでは、ある参照する値を決めて、それより高い人を低くし、徐々に参照レベルを下げ、全体の被曝を低くします。


(冊子の104ページ)

 今回〔の福島原発事故〕は、個人の参照レベルを政府は言っていません。もっとも、空間線量率が20 mSv/年で、被曝の実測は、最大で数mSv/年程度になっているから、内部被曝の平均1mSv/年以下、最大数mSv/年とあわせて、どうがんばっても10mSv/年には行っていません。


(2) 外部被ばくの基準的なものとして1mSv/年が良くでてくるが
 数値としては1mSv/年だが、その出典は人によって様々なのだろうと思う。

 【事故時】から出てくるもの
 ★ICRP 111の現存被曝状況の最終目標か?(本来は外部被ばくと内部被ばくの合計値ではあるが)
 ★上記1項の“長期的に追加被ばく線量を1 mSv/年以下とすることを目指す”か?
 ★文科省の「学校において『年間1ミリシーベルト以下』を目指す」ことについてなのか?
 ★除染の基準か?
  除染特別地域、除染実施区域、汚染状況重点調査地域、様々な問題も

 【平時】から出てくるもの(ブログ主はこちらを出典とするのは間違い、と理解しているが)
 ★公衆の線量限度の勧告か?(ICRP 2007年勧告 Pub.103、線量限度自体は1990年勧告 Pub.60がベースとなっている)
 ★国内法規か?
 明文化ではないが管理区域境界の限度(250µSv/3ヵ月)や事業所から廃棄される放射性物質の数量・濃度は放射線障害防止法等に記述されていて、それらは1mSv/年を守るように定められてる。
 ●「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」被ばく限度について教えてください
 ●「放射線審議会2011年3月」国際放射線防護委員会(ICRP)2007 年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについての57~58ページ

(3) このような状態は安井先生の指摘のとおり「日本のリスク管理の枠組み」の悪い特徴だと思う 既エントリーから転記
EUと日本のリスク管理の枠組み
欧州は、哲学的に美しい仕組みを第一に目指す。
日本は、既存のシステムとの細かい擦り合わせを重視する。


【追記】
ICRP111での『正当化』の意味が分かっていない人が散見

●buveryの日記 2012/8/1 から
『被曝1mSv-年を超える地域は移住が原則。』は妄想
日本語の通常の使い方と混同する人がいるので、いくつかのICRPの用語は括弧つきにしてある。
ICRP111での『正当化』はICRP90までの『正当化』と意味が異なる。
ICRP111では、『拘束値を適用しない』と宣言している。
概要のところを追加する。
全体の構成としては、ICRP 103, 109, 111がセットになっている。
 ICRP 103。この勧告は長大な構成で、様々の被曝状況を列挙して、こういう場合には、こういう指針で対策をとる、という枠組みを決めたもの。このICRP 103は、その前のICRP 90(現行の日本の法律の基盤になっているもの)を置き換えた、最新の土台となるもの。現存被曝状況や緊急被曝状況はここで定義されている。
 ICRP 109。これが、20-100mSv/年の被曝に対する緊急被曝状況の勧告。
 ICRP 111。これは1-20mSv/年の被曝に対する、長期的、広範囲の汚染に対する対策。

緊急被曝状況は中央集権的に管理、現存被曝状況は分散的に管理。
現存被曝状況への移行は当局が決定する。
現存被曝状況への移行は一律にはおこるとは限らない。

【追記】
ICRP 1990年勧告 Pub.60における公衆の線量限度1mSv/年の考え方

 安井至教授のHP「市民のための環境学ガイド」から、2012/7/22の1mSvの被曝基準 その根拠は受容性だった

 (部分的に引用)

 1mSv/年の基準については、ICRPの1990年勧告が元になっています。

(190) At least two approaches are possible in choosing a dose limit for pubulic exposure. The first is the same as that used for choosing occupational limits. Assessing the consequences is no more difficult than in the occupational case, but judging the point at which these consequences can reasonablly the descibed as unacceptable is much more difficult.
 The second approach is to base the judgement on the variation in the existing level of dose from natural sources. This natural bakcground may not be harmless, but it makes only a small contribution to the health detriment which society experiences. It may not be welcome, but the variations from place to place (excluding the large variation in the dose from radon in dwellings) can hardly be called unacceptable.

(190)公衆の被曝限界を決めるのには、二種類の方法がありうる。
 一つは、職業的な被曝限界を決めたときに用いた方法である。被曝の帰結を評価することに何も難しいことは無いのだが、これ以上の値は受容できない、という限界を決めるのは難しい。
 もう一つの方法は、自然放射線の場所による違いを判断基準にするという方法。自然放射線は無害だと断言できる訳ではないが(ICRPはLNTを採用しているので、ゼロ以外の放射線量について、それは無害だとは言わない)、公衆は自分の経験から、健康に悪影響があると思うことはないものがある。自然放射線量も場所場所で違うが、その地域差の範囲内であれば、加えて、ラドンによる大きな違いを除けば(ヨーロッパではラドン被曝は地域によって大きく異なる)、「受容できない」とは言えないはずである。

(191) Excluding the very variable exposures to radon, the annual effective dose from natural sources is about 1mSv, with values at high altitudes abouve sea level and in some geological araeas of at least twice this. On the baseis of all these considerations, the Commission recommends an annual limit on effective dose of 1mSv.

(191)ラドンによる非常に差が大きな被曝を除けば、自然放射線による年間の実効線量は大体1mSv程度である。ただし、標高の高いところ(宇宙線の影響、岩盤の影響)や、やや特殊な鉱物がある地質上の影響で、2倍ぐらいのところもある。この相違を考えて、ICRPは、1mSvを年間実効被曝の基準にすることを提案する。

 要するに、何をどう考えても公衆が受容できる(Acceptable)と言うことができるレベルを選択した。それは、自然放射線の場所による違いの範囲とほぼ同じ1mSvである。ただし、ラドンへの被曝はかなり場所によって違うのでそれは除く、ということ。

 ICRPに近い人からの話の感触では、1mSvは安全と危険との境目ではなくて、管理基準だということですね。
 管理基準だという意味は、これをしっかり守ることによって、決して過大な被曝を受ける人はでないという意味。
 一般公衆が、「しょうがない」という量であるということとはかなり違う

 もう一つ、ICRPが言っていることがある。それは、「1mSv/年とは言っても、毎年毎年この値を厳密に守るべきだとは思っていない。一応の目安として5年間の平均値が1mSvになるように、といった運用で十分である」*

今回、中西先生の安全工学シンポジウムでの講演をキッカケとして、オリジナルのICRPの1990年勧告を読んでみて、1mSvというものの本当の意味が、これまで考えていた一定のリスク以下の値というものではなくて、一般公衆の受容という、極めて心理的なもので決まっていることが分かった。

 1mSvが心理的な考察から決まった受容値だとしたら、それこそ、これ以下の被曝は安全で、これを超したら危険だといったこととは、事実とは全く違うことになる。
 まして、この1mSvは法律で決まっている安全上の数値なのだから、この値を絶対遵守しなければならないという値では全く無いことになる。
 この1mSvを基準値として、除染をやりますと言っている環境省の見解も妙なことなのかもしれない。その地域の住民が受容すれば、実は、1mSvではなくて、ヨーロッパの自然放射線並の数値でも良いのかもしれない。
 さらに、ICRP自身が、毎年のばらつきはあるだろうから、5年間での平均値として考えれば良いと言っている。受容値であることを考えると、5年間の平均をするというのも変なのではあるが。

 例えば、発電所の周辺の住民に対して、今年は、1mSvの基準値をちょっと超えてしまったけど、来年はしっかり下げますから、という言い訳が通用してしまいそうな気がするが、これはどうなのだろう。
 いずれにしても、日本的な厳格に法律を守る国が考える基準の根拠とは、相当に違った心理的要素という根拠をもった基準値のようではある。もう一度、すべてを考えなおすべきなのかもしれない。

 * ICRP 1990年勧告 Pub.60 およびICRP 2007年勧告 Pub.103 の文面では、『特別な事情のみ年間1mSv を超えることも許容されるが、5年間の平均で1 mSv を超えない』となっている。

【追記】
欧州各国の自然放射線とチェルノブイリの影響
欧州各国の自然放射線とチェルノブイリの影響01出典:http://twitpic.com/anmb9q(by 水野義之先生)

(つぶやき)
 バラツキが大きいことに驚きました。例えば、イギリスとフィンランドでは5mSv/年以上の違いがあるんですね。詳細はこちらのⅣ項
 この実態を認識すると、上記の『ICRPの1mSv/年の基準が自然放射線の場所による違いを判断基準として決められた数値であること』が結構、納得できます。


(個人的メモ)
生涯の被曝線量の平均、国ごとの比較
http://twitpic.com/5s8zpk

【最新追記】
田崎先生の“ICRPとの付き合い方”

 田崎先生の最新資料の中の説明が“なるほど”でした。
★日々の雑感的なもの―田崎晴明2012/9/5
資料の中のある2枚のみを下記に紹介します(田崎先生の本意から外れる引用で恐縮ですがご容赦ください)。
田崎先生のICRP感

【つぶやき】
 ICPRの勧告に対して専門家の中で、それを過大(安全余裕を見すぎている)とする主張も、過小(危険性を軽視している)とする主張もありますが、放射線防護としては適切であるとの主張が主流を占めると思っています。ただし、今後も、立場を異にする専門家の間での論議としては、長く続くのでしょうね。

田崎先生の科学の方法

(個人的メモ)
★「アゴラ」2012/8/14「住民の被曝限度は年間1mSv」と定めた法律はない
[ 2012/04/22(日) ] カテゴリ: 基準値,規制値,測定値な | CM(0)
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