ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

“低線量被ばくの健康影響(私的な中間整理)”と“原子力ムラの既得権益保守仮説”

[ 2012/02/05 (日) ]
 “科学が公式な結論を出せていない低線量被ばくの影響問題”というフレーズは、本ブログの中に何回も出てきます。
確かに、この分野の研究は諸説・効果が錯綜しており、強い・弱いを含めれば色々な説が唱えられています。
その様な中で、様々な情報を自分なりに理解したりガセネタを掴まない様に、勉強してきました。
 このへんで、中間的に整理しておく事にしました。
 後半では、厳しい放射線安全基準を求めたのは、原子力ムラが既得権益を守る為である、という仮説の紹介。
 最後に、私的なつぶやきをチョット書きました。

低線量被ばくの健康影響(私的な中間整理)

 詳細は、2011/09/18にアップしてその後も追記してきた下記エントリーのとおりである。(今回、かなり加筆した。)
 ●LNT仮説ほか、放射線の“確率的影響”を巡る諸説のまとめメモ
 そこには結論を書いていないので、以下に書きます。
 (念のため)あくまで、素人が限られた情報で判断したもので、この項全体が個人のつぶやきです。

1. この問題に回答を与えるのは、DNAに関する分子生物学の研究分野だと思う。

 がん化のプロセスやDNA障害や修復の機構についての研究は比較的新しい研究である。特に、放射線によるDNA障害の修復機構の研究は、ここ10年に大きく進展した。このDNAに関する分子生物学の研究分野は、がんの研究と共に発展してきたらしい。
 この分野から言えるのは、LNT仮説に疑問符がつき、しきい値説が有力になる方向性だと思う。(現在でも、それを唱えている研究者もいるようだが)
 現在は、科学は「リスクが絶対にないとは言えないよ」としか答えてくれないが、いずれはかなり明確に答えて戴ける事を期待したい。

 この分野の研究について理解した事

(1) 低線量のβ線・γ線によるリスクは他の発がんリスクと定性的には同じであり、活性酸素(フリーラジカル)によるDNAの損傷として捉える事ができる。

(2) それぞれのリスク要因の量は、発生した活性酸素がどの位、DNAを損傷するか?で捉える事ができるので、低線量のβ線・γ線は、たばこ、化学物質、紫外線、過度なストレスなどと定量的に比較可能である。(酸素をとり入れて生きていくだけでもエネルギー代謝の過程で活性酸素が発生している)

(3) 活性酸素による損傷を受けたDNAは、“人間が進化の過程で獲得してきた身を守るシステム”によって、何重にも直されて行く。(DNA損傷を修復するシステム、変異細胞をアポトーシスに導くシステム、免疫システム)

(4) DNA損傷を修復する能力以上の放射線をあびた場合に何らかの障害が発生する。

(5) 現状の福島の方々の被ばく線量レベルではそれによるDNA損傷の頻度は自然の傷よりはるかに少ないものである。

 【関連エントリー】
 ●放射線のDNAへの作用(染色体、遺伝子、直接作用と間接作用、電離や励起、活性酸素)
 ●放射線によるDNAの損傷(DNAの修復・アポトーシス・免疫システムなど、がん化防止のプロセス)

2. 上記を踏まえて現状の基準値をどうみるか?(専門家が集まって出した結論に対して論評すること自体、おこがましいのだが、つぶやきとして、ご容赦を)

(1)  内部被ばく
① 規制値(本来は4/1からの予定値であるが、生産者・流通者・消費者とも現時点で現実的には適用している)
 食品安全委員会が10/27の最終答申でまとめた『生涯における累積の実効線量で、おおよそ100mSv以上で健康影響が見い出されているが、100mSv未満については、現在の知見では健康影響の言及は困難である。』という疫学的な最大公約数としての結論
 これを受けて、厚労省が1mSv/年として定めたセシウムの基準値(基準値案そのものはこちらのエントリーを参照)

② つぶやき
 吸入による被ばく量が極めて小さい事*1と1項の見方で、自然放射線のカリウムK40との比較*2も合わせ見れば、規制値以内であれば、神経質になる必要はない。(そもそも現状の生産・流通状況では努力?して摂取しても、とても1mSv/年には届かない)
 *1関連エントリー
 ●福島原発周辺住民の内部被曝量は限度をはるか下回る(京大論文の抜粋)
 ●放射性セシウムの吸入による内部被ばく、セシウムの土壌付着
 *2関連エントリー
 ●【前篇】放射性セシウムと放射性カリウムの人体影響は同じレベル
 ●【後編】放射性セシウムの影響をカリウムK40を指標として評価する。(食品の新基準も評価)

(2)  外部被ばく
① 公式な基準(らしきもの)
 12月22日に発表された「低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書」の提言である。ごく一部を抜粋する。
 20 mSv/年という数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切。
 除染の実施は適切な優先順位をつけ、参考レベルとして、例えばまずは2年後に10 mSv/年まで、その目標が達成されたのち、次の段階として5 mSv/年までというように、漸進的に設定して行うこと。
 子どもの生活環境の除染を優先するべきであり、(中略)具体的には、校庭・園庭の空間線量率が1μSv/h以上の学校等は、避難区域内の学校等を再開する前に、それ未満とする。さらに、通学路や公園など子どもの生活圏についても徹底した除染を行い、長期的に追加被ばく線量を1 mSv/年以下とすることを目指すこと。

② つぶやき
 この命題については、個人的関心度が他より低かった事もあり、作成したエントリーもほとんどない。
ただし、中国やインドの自然放射線量が高い地域の住民、航空機乗務員、宇宙飛行士、などなどの放射線健康障害についての研究結果がある事は承知している。原発事故の初期の頃に、この手の情報が結構、斜に見られていたが、今では1項の方向性をサポートする証拠になっているんだと思う。 
 個人的な収集情報も勉強も足りないので、あまり言える筋合いではないが、
現実として対象となるリスク源はセシウムのγ線だけなので、かなり保守的(安全サイド)にみても、日本人の自然放射線による外部被ばく量0.67mSv/年の数倍~10倍程度は“人間が進化の過程で獲得してきた身を守るシステム”の修復能力で充分カバー可能であろう。(30倍,100倍くらいでも、とのイメージもあり、その様な被ばく量限度を発信をしている研究者の方も居るようである。)

3. 新たな疑問
 1項の方向性は今回の原発事故後に急に出て来たものではなく、過去の諸研究の流れの中で、ある程度見えていた様に思う。であれば、放射線防護のルールは、なぜ緩和方向に動いていかなかったのか?という新たな疑問が生ずる。素人に取っては疑問だらけの分野である。

 【追記】関連エントリー
 ●ICRPをベースにしたリスクコミュニケーションがうまく進まないのは何故か?

 と新たな悩みを抱えていたら、藤沢数希さんによる下記の論説に巡り合った。
 この仮説は、厳しい放射線安全基準を求めたのは、原子力ムラが既得権益を守る為である、というものだ。
 興味深い見かたで、“なるほど”、“一理ある”と思う。



 【全文引用】 (太字のみブログ主による)

 一般的に、放射線の安全基準は、厳しくすればするほど原子力施設の建設費やランニングコストが高くなる。それゆえに良識ある医師や反核運動家が、放射線の基準を厳しくしようとし、原子力利権に関わる組織や人、つまり原子力ムラが放射線基準の緩和を求め、それがバランスすると考えられているようだ。しかしながら、福島第一原発での事故が起こる前は、人々の間で原子力に対する関心は驚くほど希薄だった。そのような中で、池田信夫氏も指摘するように、放射線の安全基準が年々、厳しくなっていったのである。動物実験や分子生物学の研究により、低放射線被曝の安全性を確認するデータが次々と見つかっているにもかかわらず、だ。なぜだろうか? 

 筆者の仮説は、厳しい放射線安全基準を求めたのは他ならぬ原子力ムラである、というものだ。あらゆる既得権益は、参入障壁を高めることにより自らの権益を守ろうとする。その手段は多岐に渡るが、典型的なものは、法規制や業務プロセスを複雑化することにより、内部をブラックボックス化し、外部の人間によるチェック機能を麻痺させ、健全な批判を極めて困難にすることである。金融業界でいえば、一番上の全体に関わるレイヤーでは、民間の金融機関と政府の規制当局とによる阿吽の呼吸により、金融行政に関わる法規制を複雑極まりないものにしている。これによって、この強固に守られた既得権益に、外部から参入することはほぼ不可能になる。そして、インナーサークルのメンバーだけで、莫大な利益を分け合うのである。 

 ミクロな視点で見ても、業務プロセスの複雑化、ブラックボックス化による既得権益の防護はあらゆるところで観察される。金融機関のITエンジニアは、自らが開発するシステムの可読性を意図的に低下させ、自分にしかわからないコードを大量に生み出している。こうすることにより、自分にしか保守できないシステムに業務プロセスを依存させ、自らの雇用リスクを極小化しているのである。

 放射線の健康被害というのは、医学的には喫煙による健康被害の次に活発に研究された分野で、極めてよく理解されているのである。よく放射線の健康被害に関しては専門家の間でも意見が割れていて分からない(よって危険である)ということがメディアで誇張されているが、これは極めて無責任な報道であろう。近日中に出版される拙著にも書いたのだが、低放射線被曝は、最大限に見積もってもLNT仮説が示唆する程度であり、それは経済的利益などと引き換えに、我々が引き受けている多くのリスク―煙草、自動車、大気汚染、生活習慣病など―と比較しても極めて軽微なものである。その軽微なリスクがあるのか、それともないのか、という極めて狭い範囲の不確かさに対して、専門家の意見が分かれているのである。よって、筆者の意見は、例えLNT仮説が示唆するほどのリスクが低線量被曝に内包されているとしても、気にするだけ時間の無駄、というものだ。

 それでは、なぜ原子力ムラは、放射線の安全基準を厳しくしたのであろうか。それは多くの官僚組織や業界団体が、その既得権益を守るために様々な障壁を作ったとしても、個々のプレイヤーはそれほど自覚的に動いているのではないのと同様に、微妙な集団的なインセンティブに突き動かされていると考えられる。さて、筆者の仮説を組み立てるひとつ目の仮定は、原子力ムラは、本当に先進国でシビア・アクシデントが起こるとは全く想定していなかったということである。これは全くもって無理もないことである。金融業界ではヘッジファンドがたまたま3年も続けて儲ければ、それは永久に続くと多くの投資家が勘違いする。OECD諸国での原発のシビアアクシデントは、なんと1979年のスリーマイル島原子力発電所事故にまで逆上る。チェルノブイリは1986年であるが、それとて25年も前の話で、なんといってもあの崩壊した旧ソビエトである。先進国で原発のシビアアクシデントなど起こるわけがない、と原子力ムラが心底信じていたとしてもなんら不思議ではない。 

 さて、原子力ムラが原発のシビアアクシデントが起こらないと信じていたとしたら、放射線の安全基準が年々厳しくなっていくのは自明なのだ。放射線安全基準は、人体への影響というよりも、原子力ムラの一角を構成するGE、アレバ、東芝、日立、三菱重工などの原子力メーカーの放射線防護技術のレベルに応じて引き上げられていくはずなのである。極めて微弱な放射線をも許容できないとなると、原子力発電に関わるあらゆる要素技術が非常に高価になり、また、一部の原発メーカー以外に参入することが著しく困難になる。これはそういった一部の原発メーカーにとって極めて都合が良い状況である。原子力ムラにしてみれば、自分たちで達成できるギリギリの放射線安全基準を法制度化するのが経済合理的なのだ。

 筆者は常々、規制緩和が経済を活性化させ、長期的な国民の利益になると主張してきた。そして、現在、放射線の安全基準や様々な法規制こそ、可及的速やかに大幅に緩和するべきものなのである。



つぶやき

 本エントリーに“私的な中間整理”というフレーズを使いました。
 この中には2つの意味があり、一つは狭い意味、すなわち低線量被ばくの影響問題です。実はもう一つ、ブログに対する取り組みの意味もあります。
 4月にこのブログを初めて以来、何とか続けてきた原動力は“知りたがりの虫”と“理不尽さに対する憤り”のエネルギーだったと思います。むろん、後者の方は個人の価値観によるものですので、独りよがりの部分は否定しません。
 その原動力を向けた対象は、当初は原発そのものでしたが、その延長で代替エネルギーやエネルギー政策に移りました。ここまでは、自分のバックグラウンドに近い所に特化して、あえて放射線影響問題は避けていました。
 その頃に出会ったネット上の情報で、どこかの被災地の説明会か何かの論議の中で、反原発・脱原発をテーマに掲げては?という問いかけに対して、そこの長の方の「それどころではない、そーいうのはこれをニュースで観ている皆さんでやってください!」という毅然とした発言がありました。
 そんなきっかけもあり、9月頃からは、ほぼ放射線問題に特化してきた次第です。
 その放射線問題を勉強して書いて行くなかで、微力ではありますが“福島をはじめとした被災地の方々を支援させて戴きたいという気持ち”もブログ継続の力でした。それは、今後も変わりませんが、本エントリーを書き終えた現段階で、前の2つ“知りたがりの虫”と“理不尽さに対する憤り”の素人なりの空白の余地が少なくなっている事を感じました。プライベートで他に注力すべき問題もあります。
 そのような訳で、本エントリーにて、従来の様な内容や更新ペースをキープする事は、ひとまず無くなります。休止ではなく縮小のつもりですので静かにモードを切り替えます。
[ 2012/02/05(日) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(5)
Re: 私も助かっています
突かれてしまいましたね。当ブログの守備範囲の“大きな弱点”を。

>早く東北の漁業が復活して欲しいと思っています。
全く同感です。
“大きな弱点”ですので、今後にマンパワーを割けるかどうか判りませんが、ご要望として承りました。(官僚答弁だと叱られそう!)

ところで、bloomさんの良コメントを、“放射線ゼロリスクの追及”を止めないと・・・の記事に移植させて戴きましたが、コメントが続かなくて申し訳ない気持ちです。まあ、そんなコメントプワーな性格のブログだと言う事で。(ブログ主としては、それで良いと思ってます。)
[ 2012/02/08 17:08 ] [ 編集 ]
私も助かっています
更新がゆっくりになるとのこと、残念ですが、その分こちらもゆっくり読ませて戴いてしっかり知識を身につけたいです。

厚かましく記事のリクエストをしておきますが、海や地下水に流れ込んだ放射性物質が最大どれくらいの濃度になるのか、生物濃縮は最大どれくらいの勢いになるのか、過去の例など教えて戴けると助かります。

地下水や海水自体はよほど特殊な条件じゃないと今より濃くなる場所は考えにくいです。

生物濃縮もよほど多段階で捕食関係が続かないと難しいとは想っています。

ちなみに私はこれまで農産物で検出された量は気にしていません。
「セシウム牛」も不謹慎ながら「気にせず買う」「半額だったら絶対買う」とまで思っていました。

今気にするとしたら、底魚だろうと考えています。
でもセシウム自体のリスクに関しても、世間が騒ぐほどではないと感じているので、早く東北の漁業が復活して欲しいと思っています。
[ 2012/02/07 22:00 ] [ 編集 ]
Re: 力いただいています。ありがとうございます
Kさん

嬉しいコメントありがとうございました!

そのとおりです。飯舘村の「負けねど!飯舘」代表の方だったんですね。
発言内容のメモしか残っていなかったので。
(頭の中なのかも知れないけど)Kさんのアーカイブはすごいですね。関心しました。

ところで、瓦礫に関する興味深い良い情報があったので、後でそちらにコメントしておきます。
では。
[ 2012/02/06 10:42 ] [ 編集 ]
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このコメントは管理人のみ閲覧できます
[ 2012/02/06 09:33 ] [ 編集 ]
力いただいています。ありがとうございます
飯舘村の「負けねど!飯舘」代表の佐藤氏のことですね、きっと・・・。http://2011yomemucyu.blog.so-net.ne.jp/2011-10-04
この方も休止です。秋田で再就職先も決まったそうです。TSOKDBAさんもペースダウンとおっしゃっていましたし、震災から時間が明らかにたったのだなあと思わせられます。ハイペースで来ていたブログのギアダウンは、読者としては寂しいんですが、でも、「急を要しなくなった」という点で、よかったという見方もできるなと、思っています。

icchouさんのブログは、福島出身のものとして非常に力をいただき一番参考にしてきた(というか今までもこれからもです)ブログです。難解でなかなかついていけないのですが、何か生ニュースでひっかかるときに、「icchouさんのところで解説があった」と戻って学べる、生きた放射線の勉強の窓口であり案内人でした。
特に、瓦礫受け入れと、それにも関連しますがゼロリスクについてどうとらえるかという考え方については、何回も何回も引用させていただきました。福島にはゆかりのない方の応援がいかに骨身にしみてうれしいかも実感しました。いつも適切なガイドをありがとうございます。

島田市は16、17日に一般ごみとあわせて試験溶融、いよいよです。

今後もicchouさんのペースでお願いします。
[ 2012/02/06 09:24 ] [ 編集 ]
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