ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

【前篇】放射性セシウムと放射性カリウムの人体影響は同じレベル(内部被ばく)

[ 2012/01/21 (土) ]
 放射性セシウム(Cs137、Cs134)による内部被ばくについて、自然放射線のカリウムK40による内部被ばくと比較した説明が、田崎晴明 学習院大学 教授の放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説にありますので、勉強しておきます。(このサイトには沢山お世話になっています。)
 なお、ブログ主の理解の道筋に沿って記載したので、オリジナル資料の順序とは異なっている部分があります。

目次

1.放射性カリウムについて
2.体に入ったセシウムはどうなるか
3.実効線量係数・生物学的半減期からの比較
4.ベクレルで測った量が等しくても、重さ(質量)はぜんぜん違う
5.放射線の強さをエネルギー [MeV]で比較する
6.K40による被ばく量:0.18mSv/年の根拠
7.人体中には放射性でない安定なセシウムCs133もある
8.つぶやき
9.関連エントリー

1.放射性カリウムについて 出典:田崎教授セシウムは体に何ベクレルくらいたまるのか?

 自然界にあるカリウムの中に 1 万分の 1 くらい、不安定なカリウムK40が混ざっている。カリウムK40は不安定といっても、半減期はなんと 12 億 8 千万年。ほとんど崩壊しないということだ。
 生物を学んだ人はよく知っていると思うが、カリウムはわれわれ生き物が生きていくために絶対に必要な元素だ。神経の情報伝達とか、いろいろなところでカリウムイオンが活躍している。我々の体のなかには、体重のおおよそ 0.2 % 分のカリウムがあるとされる。そして、このカリウムの量はつねにほぼ一定になるように調整されている。
 体内のカリウムの量がほぼ一定で、自然界のカリウムのうちの約1万分の1が放射性のカリウムK40だということは、ぼくたちの体の中にはいつでもほぼ一定の量のカリウムK40があるということを意味する。実際、人の体内には体重 1 kg あたり約 60 BqのカリウムK40がある。ぼくらは、カリウムK40が体の中で出す放射線を受けてつねに内部被ばくしているのだ。これは、生命がこの地球の誕生して以来ずっと続いていることなのである。

一般的な説明は既エントリーにあります。

 以下の、いくつかのデータを元にすると、放射性カリウムと放射性セシウムが体内に定常的に存在する場合、ベクレルで測った量が等しければ、体に与える影響も大ざっぱには等しいとというのが結論である。



2.体に入ったセシウムはどうなるか 出典:田崎教授セシウムは体に何ベクレルくらいたまるのか?

 セシウムCsは実はカリウムKとよく似た性質をもった元素だ。カリウムとセシウムは、体内でほぼ同様に分布すると考えられている。
(中略)
 ただし、カリウムと違ってセシウムは生命活動に使われないので、普通は体内にはほとんどない。食べ物や飲み物といっしょにセシウムを摂ると、胃腸でほとんど吸収され、血液に溶けて全身にくまなく運ばれるとされている。それから少し時間をかけて尿といっしょに体外に排出される。 これは、放射性のセシウムについても、安定なセシウムについても同じことだ。

 カリウムは体内にたっぷりと存在し、濃度はほぼ一定だということを上で説明した。セシウムの場合は、濃度もきわめて低いし、一定しているわけでもない。体内にあるセシウムの量は、どれくらいセシウムを摂取するかに大きく左右されるのだ

田崎教授11

 上のグラフは、5 歳児の体内の放射性セシウムの総量の時間変化を表している。実測ではなく、ICRP の使っているモデルによって計算した理論的なグラフだ。ここでは、この子供が 100 日目から 600 日目のあいだ(グラフではピンクで示した領域)、一日に 10 Bqずつの放射性セシウムをずっと摂り続け、その後、放射性セシウムの摂取をやめたということを想定している。

 体内のセシウムの量は、最初はゼロだが、摂取を始めると急激に増えていき、ある一定値(この場合は約 300Bq)に達したところで変化しなくなる(この子供は途中で摂取をやめているが、同じ割合で摂取を続ければ何年間も 300Bqが維持される)。この「一定値」は、日常的にどれくらいセシウムを摂取するかと、セシウムがどれくらい排出されるかのバランスで決まってくる。「平衡量」と呼ぶことにしよう。もちろん、摂取をやめれば、体内のセシウムの量はどんどんと減りゼロに近づいていく。

注意
 マスコミの報道(特に朝日新聞の「プロメテウスの罠」)などで「人が摂取した放射性セシウムは、全身に均等に行き渡るのでなく、心臓や甲状腺など特定の臓器に蓄積されることがわかった」というバンダジェフスキーの研究について読んで心配している人もいると思う。バンダジェフスキーという人は、ベラルーシの政府に不当に弾圧されて逮捕されたりしたものの、がんばって論文を出版したことで知られている。弾圧に負けす自説を貫く立派な人なのだろう。ただし、立派な人だとしても、それで研究の内容が正しいということになるわけではないから注意が必要だ。
 実際、セシウムが臓器に集中するというバンダジェフスキーの論文はデータの扱いなどがかなり杜撰(ずさん)で、研究としての信頼性は低いと思われる。ぼく自身は医学の専門家ではないが、ぼくが調べてみた範囲でも、動物実験を含む多くの研究では、セシウムは特定の臓器には蓄積されないことを示しているようである。

【関連エントリー】●セシウムの体内動態(文献による勉強)

3.実効線量係数・生物学的半減期からの比較 出典:田崎教授付録:放射性カリウムと放射性セシウムの比較

 単位時間あたりに体に及ぼす影響

 K40の実効線量係数はCs1343分の1程度だ。ただし、この数字をそのまま(我々の考えている状況に)使ってはいけない。実効線量係数は、一定量の放射性物質を一気に摂取したことを想定し、それが、摂取してから後の(排出される、あるいは、減衰するまでの)長い期間にどれだけの被ばくを引き起こすかを示す数字である。
 同量の放射性物質が単位時間あたりに体に及ぼす影響を比べるには、実効線量係数を半減期(実効半減期だが、この場合は生物学的半減期とみなしてよい)で割った量を比較する必要がある。
 実効線量をそれぞれの生物学的半減期で割れば、
 K40: 6.2 ÷ 30 ≒ 0.21、 Cs134: 19 ÷ 110 ≒ 0.17、 Cs137: 13 ÷ 110 ≒ 0.12
となる。
 K40の及ぼす害は、Cs134とほぼ等しい(細かく見ればやや大きい)ということになる。
 つまり、ICRP の実効線量の表からは体内の定常的なK40の及ぼす影響は、(ベクレルで測って同量の)定常的なCs134の及ぼす影響とほぼ等しいと考えてよいという結論が得られる。



4.ベクレルで測った量が等しくても、重さ(質量)はぜんぜん違う

 4000BqのK40の重さ(質量)はだいたい 0.015 グラムだが、同じ4000BqのCs134の重さは 8.4 × 10-11 グラム、つまり、0.000000000084 グラムしかなくK40の約 2億分の1、4000BqのCs137の重さは 1.3 × 10-9 グラム、つまり、0.0000000013 グラムしかなくK40の約 1千万分の1である。この違いは、おもに半減期の違いによる。
 (計算方法はベクレルを重さ(グラム)に変換する方法を参照)
 カリウムとセシウムの比

5.放射線の強さをエネルギー [MeV]で比較する

(1) 放射性崩壊のおさらい(詳細はこちら
 この手の図がお好きでない方は (1)(2)は飛ばして(3)へ

 カリウムK40崩壊図03
 セシウムCs134崩壊図03
 セシウム137崩壊図101

(2) 放射性崩壊の詳細(ウィキペディアなど)
                              【正確には】
K40崩壊図pngK40崩壊図(水野)
                              出典:水野義之教授の資料

【追記】Cs134崩壊図
出典:奥村晴彦教授のおもな放射性核種
Cs134のβ崩壊直後のBa134は励起状態にありγ崩壊を伴う。Cs134の放射能(ベクレル値)はそれから出るγ線(ビークは604.7 KeVなど複数)を計測することで測られる。一回の崩壊で放出されるγ線の光子は約2.2個。

 Cs137崩壊図png

【メモ】おもな放射性核種(奥村晴彦教授)

(3) 一回の崩壊でのβ線とγ線のエネルギー [MeV]
 出典:田崎教授付録:放射性カリウムと放射性セシウムの比較
 崩壊エネルギー12
 ブログ主注1:MeVとはエネルギーの単位で「メガ電子ボルト
 ブログ主注2:田崎教授の資料から結果だけを表にした。
 β線のエネルギーは確定しておらず、ゼロから核種固有の最大値までの範囲に分布する(同時に放出されるニュートリノとエネルギーを分けあうため)。(2)の記載数値は最大値なので平均値が必要となる。エネルギー平均値×確率で算出するようだ。
(メモ)https://twitter.com/hyd3nekosuki/status/447416772124086272
 γ線のエネルギーは(2)の記載数値から計算できる。各エネルギー×確率の和で算出する。

 【ベータ線のエネルギーの平均】
 一回の崩壊で放出されるβ線のエネルギーの平均値は、K40が飛び抜けて高いことがわかる。

 【ガンマ線のエネルギーの平均】
 一回の崩壊で放出されるγ線のエネルギーの平均値は、K40が特に小さい。

 【総合すると・・】
 β線についてはK40 が高く、γ線についてCs134が高い。内部被ばくの場合、β線はほぼ全てが寄与し、γ線は(体の外に出て行くので)半分くらいが寄与する。そういった効果を合わせると、上で実効線量係数から導いた「内部被ばくへの寄与はK40がもっとも大きい」という結論と整合するはずだ。

 平均値ではなく、具体的なエネルギー分布を見れば、もちろん、K40、Cs134、Cs137 の出す放射線は微妙に異なる。ただ、その微妙な相違が生体への影響を大きく変えると考える理由はないように思う。



6.K40による被ばく量:0.18mSv/年の根拠
 この部分はブログ主オリジナルです。間違いがあれば、ご指摘願いたい。

 飲食によって人体中のカリウムK40の量は増加することになるが、一方で同等の量が排出されるため、常に一定に保たれている。
 K40は、人体全身中に約4,000Bq存在している(日本人男性体重65kgの人)。
 年間の被ばく線量は、0.18mSv/年である。
 こちらから転記

 この、0.18mSv/年の根拠を確認してみた。

摂取量からの確認

・カリウムの一日の所要量は2010年5月の厚生労働省「日本人の食事摂取基準」で目安量は男性 2.5g/日、女性 2.0g/日と勧告されているので、2.5g/日と仮定
・その中に、K40は0.0117%含まれるので、0.29mg/日
・それをベクレルに換算すると、76Bq/日
・さらに実効線量系数6.2×10-9をかけ、365日をかけると、0.17mSv/年になる。

 【関連エントリー】
 ●自然放射線による被ばく【続編】カリウムK-40、一日の摂取量(調査結果)に幾つかの調査結果を纏めています。

吸収エネルギーからの確認
(5項のデータを使用する)

・γ線源が体内に一様に分布している場合、そこから放出されるエネルギーの約30%が体内で吸収される*とのことで、1 回の崩壊あたりの吸収エネルギーは、
 (0.52+0.16×30%)MeV/崩壊×(1.6×10-13)J/ MeV=0.91×10-13J
・体重60kg 、4000 Bqで1年間(3.15×107 秒)の吸収線量は、
 4000Bq×(0.91×10-13)J×(3.15×107)s/60kg=0.19mJ/ kg=0.19mGy/年(ミリグレイ)
・β線・γ線の放射線加重系数は1なので、0.19mSv/年

 * 30%について

.
7.人体中には放射性でない安定なセシウムCs133もある

 人体中には放射性でない安定なセシウムCs133が約6mgある*01*02との事。
 *01 「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」セシウムの毒性について教えてください
 *02 John Emsley,“Nature's Building Blocks:An A-Z Guide to the Elements,”Oxford University Press(2011): 山崎昶 訳,『元素の百科事典』,丸善(2003), pp.265-270

 人体中では、K40もCs137,134も安定同位体と同じ動態であると思うので、放射性同士の比較に加え、総量も比較してみた。
カリウムとセシウムの比02
こちらのエントリーにも少し記載があります。

つぶやき

 【内部被ばくでの基本認識の再確認】

 ●セシウムとK40の体内動態は似ており*1、同じような低レベル被ばく影響を人体に与える。
 *1これに対する反論は“少数”で“科学的にかなり弱い”
 ●K40による被ばくは人体影響がないレベルである。これは認められている事実と言って良い。(生命がこの地球の誕生して以来ずっと続いていることなのだから)
 科学的な説明は下記のエントリーにあります。
 ●放射線によるDNAの損傷(DNAの修復・アポトーシス・免疫システムなど、がん化防止のプロセス)

 【田崎教授が示した仮説】(田崎教授は仮説という言葉は使っていませんが )

 ●今までは、内部被ばくでの人体への影響はCs137,Cs134K40より大きいと言われていた。(成人の実効線量係数の比からCs137K40の2倍、Cs134K40の3倍程度)
 しかし、長期の定常的な摂取では、それとは逆に、K40の人体への影響はCs137,Cs134よりやや大きいレベルである。

 【以上から言える事など】

 ●K40の事を気にしない(知らない)で、それより遥かに少ないCs137,Cs134を怖がる事は間違っている。
 ●例えば、コープふくしまでは、このようなデータ*を出している。カリウムK40も測定しているので大変参考になる。これと本エントリーの理解からの結論は
セシウムだけに放射線ゼロリスクを求めるのは間違い
という事である。 
 *データが更新されるとリンクが外れるようです。その場合はサイドバーの「重要なおしらせ」から見て下さい。




関連エントリー

●セシウムの体内動態(文献による勉強)
●放射線のDNAへの作用(染色体、遺伝子、直接作用と間接作用、電離や励起、活性酸素)
●“放射線ゼロリスクの追及”を止めないと復興・復旧が進まない、皆が幸せに暮せない
●放射線によるDNAの損傷(DNAの修復・アポトーシス・免疫システムなど、がん化防止のプロセス)
●【改定】核分裂、放射線、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)、人体への影響

【メモ】
●「小波の京女日記」2012/06/03 放射性セシウムはどんなふうに体内に留まるのか
●東北大 金田雅司助教 放射線測定実習セミナー
引用 転記
[ 2012/01/21(土) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(2)
Re: セシウムとカリウムの存在量比
bloomさん
大体あっています。
オーダー的には
Cs134:1BqとK40:10 Bqはモル比では10の10乗の違い、
Cs137:1BqとK40:10 Bqはモル比では10の8乗の違い、
セシウム1Bq(Cs134:.0.5 Bq+Cs137:.0.5 Bq)とK40:10 Bqはモル比では10の9乗の違い、
となります。(さらに、カリウム総量はK40の10の4乗ですが)

オリジナリティーのない2次加工記事が多いですが、授業の参考にしていただけるなど光栄です。遠慮なくどうぞ。もし、リクエストなどありましたら出来る範囲であれば対応も。

私のバックグラウンドはチョット恥ずかしいので、bloomさんのブログにシークレットで入れておきます。では。
[ 2012/01/23 00:50 ] [ 編集 ]
セシウムとカリウムの存在量比
icchou さん、情報有り難うございます。
セシウムは崩壊が早いから少ない質量でも放射能(ベクレル)が大きくなる・・という理屈は納得です。

そうなると、ロケットニュースで紹介されるようなホーボディーカウンターの値(セシウム134 不検出・セシウム137 不検出・カリウム40 3830ベクレル)では体内のセシウム量は果てしなく少ないということですよね。
http://rocketnews24.com/2012/01/17/173266/

項目2のモデルのように体内のセシウム300ベクレルと、ロケットニュースのカリウム3000ベクレルという例を考えると、項目4の計算式を使って、モル比は10の9乗くらい違うかな?

アサイチの食卓まるごと放射能調査でも普段の食品中のカリウムが数十~数百ベクレルなのに、セシウム由来の放射線が数ベクレル・・ということなので、こちらもモル比ではかなり異なるということですね?
http://www.nhk.or.jp/asaichi/2011/10/17/01.html

食品中のセシウム10ベクレルとカリウム100ベクレルという例を考えて、項目4の計算式を使うと、10の10乗くらい食品中の存在量が違うという話になるかと思います。

そうなると体内に入ったセシウムがカリウムが関わる代謝系に混入して悪影響を及ぼす・・という説は怪しいような気がしますが、この計算で合っていますか?

icchou さんの説明や資料は分かりやすいですね。
授業の参考にしたいと思います。
本来はどの分野の専門ですか?
私は生物学に関しては研究室を渡り歩いているのでかなり広範囲で理解出来ますが、物理や化学はこうやって色々な人に説明してもらっています。
[ 2012/01/22 22:45 ] [ 編集 ]
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