ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

NHK「低線量被ばく 揺らぐ国際基準 追跡!真相ファイル」への反論まとめ

[ 2011/12/30 (金) ]
 適宜、追記しています。最新追記は『ドキュメンタリー番組の罠 片瀬久美子さん』、『BPOへの提訴に関する動き』、赤字で【追記】です。


 表記の番組(12月28日 22:55~23:23)を見て、NHKがこんな“煽り系”,“脅かし系”の情報を流すのかと、少々、驚きました。
 内容についての的確な反論・疑問をアーカイブさせていただきました。

1.番組の概略内容

番組のHPに掲載の予告情報
 この予告を見て、科学が公式な結論を出せていない命題に30分で何を言うのか?、と疑問を持ちました。

【追記】 “なるほど”が、池田信夫さんがツイッターで。


2.『サーメ人の村が受けた被ばくの量』への反論、その他

●「スウェーデンの今」12/30 NHK追跡!真相ファイル『低線量被ばく 揺らぐ国際基準』コメント
 【結論部分のみ引用】

 この番組が(暗黙に)示唆しようとしている因果関係もしくは解釈の仕方を、視聴者が受け入れるに値する根拠がこの番組には乏しい



3.トンデル論文について

●2項のブログにも、5項のブログにも指摘があります。
 【5項のブログから一部を引用】

 トンデル論文と、その独自解釈による引用には、buvery氏の記事*1粂和彦氏の記事に批判があり、web上では結構有名です。しかし、NHKの番組は、トンデル氏の主張を特に検証もなく流したようで、それっていいのかなー(?ω?)、という感じです。

*1(ブログ主注)次の記事のこと。●「buveryの日記」5/20 ECRRの福島リスク計算は妄想の産物  かなり以前の情報ですが、良く引用されているブログ記事です。トンデル論文に対する懐疑論は他にも結構あります。

【追記】
 上記のように、Tondel論文に対する懐疑論は結構あるが、そのまた反論もある。論文そのものの合理性の問題ではなく、ECRRやバスビー教授は、それを独自に解釈(恣意的に誤用)しているとの指摘が的を得ているようだ。
パストゥール通信 2012年新春号 特集:放射線とがん
 【6~7ページの分子免疫研究所 藤田哲也所長の解説】

 チェルノブイリのすぐ風下にあったスウェーデンでは、1986年の原発事故後、2日間続いた豪雨によって空中のセシウム137が大量に降下しました。 トンデルさんらは汚染の高度な地区に住んでいた60歳以下の113万7,106人について汚染地図をもとに被爆量を算定し、スウェーデンの完備した癌登録制度を活用して1988年から1999年に診断された3万3,851件の悪性腫瘍と汚染度との関連を統計的手段を活用しながら推算しました。

 その結果、「チェルノブイリ事故2年後から4年問は癌と診断された人の数は平時に比べて有意に増加した。ただし、この間にも甲状腺癌や白血病が増えたという証拠はない。しかし、これに続く8年間には、どのタイプの癌症例にも有意の増加はなかった。」と報告しているのです。
 被爆後2年目から11年目までの内、最初の4年問だけ悪性腫瘍の有意の増加があったというのは、ヒト癌の発生と自然史の経過を考慮に入れると(図3)、先に指摘したのと全く同じように、スウェーデンのこの時期の汚染の増加は、癌を発生させたかどうかという観点からみて、全く関係がないと言えることは明らかです。
 この汚染地域でも、最初の6年間、住人は自らの酪農産物の摂取制限はもちろん、市販も制限され、多くは元のコミュニティを引き払って退去・疎開を強制されるチャンスも多かったことと考えられます。だから、実際に癌の発生が増加したとは考えられませんが、当然、このストレスが自然免疫の低下を介して進行期(ないし末期)にあった癌恵者のQOLの悪化`病勢の急速な進行など、癌の顕在化や癌死の増加として癌登録データの上に癌患者の数的増加の形で現れたものと推定されます。

 トンデルさんたちも、これが真の癌発生事象の増加とは考えておらず、プロモーション(促進現象)が強化された結果、既に存在していた癌の病勢が速く進行したのではなかろうかという推察を述べています。

 しかし、驚くべきことに、多くの日本の学者が、トンデルさんのデータをもって、「原子炉爆発後の低線量の被曝は、間違いなく多くの悪性腫瘍を発生させる」証拠であるとして癌の恐怖を煽るような言動を示しているのです。これは大きな過ちであると私は考えます。しかし、これは日本人だけではありません。
 ECRR(欧州放射線リスク委員会)に属しているバズビーさんというイギリスの学者などは、もっと高圧的で、トンデルさんらの論文を根拠に推算し、「今後、癌の発症例は10年間で10万人に及ぶだろう、福島原発から20km以内に住む人々をいま直ちに退避させれば、この人数は著しく減らせるだろう。IAEAは日本の文部科学省のデータを使い、汚染レベルを著しく低く報告している。今後、あらゆる政治的判断はECRR(欧州放射線リスク委員会)の勧告をもとになされるべきである。今回の事故において故意にデータを公表しないものや、健康への影害を過小評価するメディアについては調査し、法的制裁を加えるべきである。」と、脅迫的ともとれる発言を公的にしているのです。
 これらの学者*2はトンデルさんの論文の結論を、「低線量でも癌が増える」としているのですが、これは、とんでもない誤解です。癌発生の自然史を考慮に入れれば、このような結論には全くもって達しませんし、トンデルさんたちもそんな結論を出しているわけではないのです。

 *2(ブログ主注)NHKも含めてですね。

4.『ICRP が採用している低線量の被ばくによるガンのリスクは、広島・長崎での被爆者の追跡調査の結果から得られたリスクの約半分だ』は“ちっとも驚くべき事実ではない”、ほか

●田崎晴明教授(学習院大学理学部)のweb日記「日々の雑感的なもの」12/29
 【結論部分のみ引用】

 公式の理屈は、

低線量の放射線をゆっくりと浴びた場合は、強い放射線を一気に浴びた場合よりも健康被害が少ないので、それを補正するために DDREF(線量・線量率効果係数)で割ることにする。 ICRP では DDREF を 2 に選ぶ

ということ。

 一応、動物実験などの知見がもとになっているとされるが、DDREF の概念がかなり曖昧であることは確か。「体制派」の報告書を見るだけでも、米国 BEIR は(確か)DDREF を 1.5 くらいに取ろうと言っているし、国連(UNSCEAR)はそもそも DDREF の概念を認めていない。まあ、そのくらいのもの。「えいやっ」と半分にしていると言って大きな誤りはないと思う。

 くり返すけど、これは「関係者に取材して」はじめてわかるような話じゃなくて、ぼくみたいな素人が(ほとんどは無料で公開されている)文献を短期間に読んだだけでわかるようなこと。

 これを本気で「驚くべき事実」だと認識したなら、番組制作者は犯罪的なまでの知識不足・準備不足ということになる。そのような準備のままこういった深刻な問題に関する番組を作ったとしたらまったく許し難い。おそらくは、さすがにこれくらいのことは知っていたが、番組の中にスクープ的要素を取り入れて山場を作らなくてはいけないということで、敢えて「驚いてみせた」というのが事実だろうと推測(あるいは、邪推)する。しかし、そうだとしたら、それはやっぱり欺瞞だ。 ICRP の体質を批判するのは結構だが、嘘をもとにした批判は無意味。

 いずれにせよ、番組制作者は批判されるべきだ。ぼくは、こういうのは大嫌いなので、強く批判します。


●「buveryの日記」1/5 NHK追跡!真相ファイルについて(他6題) 【追記】
 【一部のみ引用】

 これに関しては、田崎先生の文章もあるので、詳しく書きません。ただ、DDREFに驚いているのなら、単にNHKが無知なだけだと思います。
 ただ、私の意見ではことの本質はそこにはありません。『DDREFは実効線量の計算を変更しているのではなくて、低線量低強度被曝の場合の実効線量の効果が、高線量での結果の何分の一かを計算する係数であること(つまり、DDREFが2なら、効果は半分になる)』です。
 ところで、実際の防護は、『効果を基準にして行うのではなく、実効線量を基準にして行う』わけですから、実際の防護はDDREFがいくらであろうと、無関係です。例えば、外部被曝の参照値が年間10mSvであるとするならば、DDREFがいくらの値であっても、参照値は10mSvであって、実際の防護の行動はDDREFによらず全く同じです。NHKは『低線量のリスクを半分にしている』と言いますが、それは『ある線量の仮想的なリスクをどの程度と考えているか』という机上の空論の話で、文学の問題。『この人は美人か不細工か』と議論しているだけのことです。

 実際、公衆に対する通常の基準は1985年に5mSv/年から1mSv/年に引き下げられたままで、ICRP pub 60がDDREFを導入していた1990年には変更されていません。


●「あいんしゅたいん」1/16 NHKにモノ申す・・・情報発信者の責任(ブログ その79)【追記】
 この項の纏め的な批判です。 

5.その他

● 「カクリ論」12/29 サーメ人の件まとめ

6.番組全体について

●「 BLOGOS(ブロゴス)」12/29 NHKの放射能デマ「低線量被ばく 揺らぐ国際基準」(池田信夫)
●「日本核武装講座」1/4 クズはフジだけではない。NHKの煽り番組「真相ファイル」 低線量被曝揺れる国際基準 受信料払う価値無し! 【追記】
●「福島 信夫山ネコの憂うつ」1/6 NHKのデマ番組を「追跡!」していたら オマケ番組も見てしまった 【追記】
●「あいんしゅたいん」1/11 「追跡!真相ファイル:低線量被ばく 揺れる国際基準」のもたらすもの・・・情報発信者の責任(ブログ その78) 【追記】
●「アゴラ」2/1 NHKは低線量被曝について正しい番組を放送せよ 【追記】

7.今回の番組とは離れますが、“なるほど情報”にタイムリーにめぐり合ったので引用します。

●「アゴラ」12/29 放射能対策、「健康被害極小」から「事故影響減少」に目的の転換が必要=検証と効果推定を経た公的支出を 石井孝明
 【一部のみ引用】

■放射線をめぐる議論は「日本だけ」が混乱
 「放射線の影響をめぐる議論が混乱している」「何を信じてよいのか分からない」。福島第一原発事故以来、多くの読者の方は、メディアの議論、特にネット上の議論を見て、そのように思うかもしれない。
 私は放射能をめぐる文献調査をして、それは誤りであると分かった。放射線と健康への影響では「科学の分かること」「分からないこと」が見えている。次の2つの現象が日本で起こっていると私は理解している。

▼日本では何も知らない人が、査読(論文・意見への識者の検証)も検証も行われていない説を拡散させて、社会を混乱させている。そうした人々は少数であるが、繰り返し騒ぎ、分かりやすいので目立つ。
▼同調者の大半は善意であり、そこに恐怖感も影響している。しかし別の目的を持ち騒擾に関わる人が散見される。目立ちたい自称ジャーナリスト自称研究者サプリを売る私設団体ECRRのクリストファー・バズビー氏などビジネス目的の人々エネルギー政策への影響力を増したい政商落ち目の政治家や活動家などだ。

 放射能と健康をめぐる議論では、米国の「Journal of Radiation Research」など、いくつかの重要な学会誌があり、そこで低線量被曝を含めて、最近の日本で出た論点はすでに議論され、知見は進化している。しかし日本では、なぜか正しい情報ではなくエキセントリックなもののみが目立つ。この混乱は日本社会の抱える諸問題、つまりメディアの勉強不足アカデミズムの発信力の不足現象を解析して議論をする訓練の不足など、複合的な理由が重なっているのだろう。



つぶやき

 低線量被ばくの健康影響(リスク)については、科学が公式な結論を出せていません。詳細はこちら
 その中で、多くの方や組織が自分の立場や利害を念頭に置いて発信をしていて、ICRPに対する批判論も、理性的な論なら読んでみたいと思います。
 ただし、今回のNHKは単なる“煽り系”,“脅かし系”の情報と言えるのではないでしょうか。その立場や利害も多いに疑問です。


【追記】
BPOへの提訴に関する動き

ICRP日本国内委員が提訴

 6月10日にICRP(国際放射線防護委員会)通信のサイトが開設されました。
「ICRP日本国内委員が、ICRPに関連した国内の動きについて発信するサイト」とのこと。

 このサイトで6月14日に「放送倫理・番組向上機構(BPO)*への提訴状」が公開されました。

 このトンデモ番組に対して、5月7日付けでICRP日本委員が行った「提訴」の内容が書かれています。
 その内容はICRPによるものなので、ICRPに関する問題に絞られていますが、ICRP委員が語ったことに対する「改ざん」「捏造」等を具体的に指摘し、「番組の主張は、英語翻訳における意味のすり替え、事実の隠匿、音声記録の改竄など、を通じて捏造された情報に基づいてなされており、虚偽である」という強烈な告発をしています。
 その最後には、以下が記載されています。

 当該番組(NHKの大型企画開発センター・チーフ専任ディレクター西脇順一郎氏、同センター・チーフプロデューサー 春原雄策氏、報道局報道番組センター・社会番組部専任ディレクター 吉田宏徳氏)の公平さを欠く報道について、放送倫理・番組向上機構に、本訴状をもって提訴する。
 (中略)
 番組制作時において上記3名を監督し放送への信頼を守るべき立場にあったNHK放送総局長の金田新氏についても、放送倫理・番組向上機構に、そのご判断を仰ぐものである。


* 放送倫理・番組向上機構(BPO)

BPOは門前払いした


ICRP通信サイトに短文が掲載されていました。

BPOから電話で連絡があり、提訴状は下記の理由で却下されました。
「BPO の放送倫理検証委員会は、放送人権委員会とは異なり、申し立て制度をとっ ていないので、今回の訴状は一つの資料として扱う。根本にある意見対立は、低 線量のリスクに対する考え方であり、これについては放送倫理の問題ではないと 判断される。英語の録音を変えたことについては、報道番組の編集の問題であり、 倫理に抵触するものではないと判断される。ゆえに本件は、審査対象にしない。」



「エネルギー問題に発言する会」がBPOに新たな「審議要求」

●「福島 信夫山ネコの憂うつ」2012/7/3 NHK「低線量被曝 揺れる国際基準」6-28「エネルギー問題に発言する会」がBPOに新たな「審議要求」

【追記】
ドキュメンタリー番組の罠 片瀬久美子さん 2012/7/20

 NHKで放送された「追跡!真相ファイル 低線量被ばく・揺らぐ国際基準」での虚偽と捏造
 フランス国営テレビで放送された「Parmi les Hommes」でのインタビュー改竄(インタビューアは山本太郎)
[ 2011/12/30(金) ] カテゴリ: ゼロリスク風評デマ不信専門家 | CM(2)
Re: ありがとうございました
こちらこそ、今年もよろしくお願いします。

メディア組織にも玉石混交でいろんな人が居るので、その全てにプロの気概と品質を求めるのは、「無い物ねだり」であることは承知していますが、少なくとも、人の健康に関わる事についてだけは、まじめな仕事をしてほしいものですね。

研究内容が正確か不正確なのかの判断が、書き手に任せられているのだから、ちょっとネットで調べれば、賛同や反論がどんな具合かぐらいは判る訳だし、第三者の専門家へ取材する時間や費用だって、充分あるでしょうに。
[ 2012/01/02 08:40 ] [ 編集 ]
ありがとうございました
反論、まとめてくださり感謝いたします。
この番組を見て、がっかりしました。「トンデル」という名前に嫌な何か聞き覚えがあったので、あちら側の話を信じた記者のつくった番組かとは思いました。朝イチであんなに頑張ったのが帳消しのような・・・。しかしわかったことは、社として、担当がバラバラにうごいているのだなということです。

今年もよろしくお願いします。
[ 2012/01/01 23:54 ] [ 編集 ]
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