ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

チキンレースの様相 食品小売の放射能対策 独自対応に疲弊する関係者(後篇)

[ 2011/12/13 (火) ]
前篇からの続き

 「WEDGE Infinity(ウェッジ・インフィニティ)」12/13 小比良和威さんによる解説です。(後編)

【全文引用】

 行政の取り組みだけでは不十分として、独自の対応を取る事業者も増えてきている。その対応とは、主に自主検査の実施と暫定規制値より厳しい独自基準の設定である。どちらか片方だけではなく、両方を組み合わせて実施している事業者もある。
 そうした取り組みが行政の検査の網目を潜り抜けた食品を発見した例もある。6月には食品宅配事業者の「らでぃっしゅぼーや」の自主検査により、静岡産のお茶に暫定規制値を超えるセシウムが含まれることが判明した。このことによって、各地でお茶に対する対応が進んだ(但し、乾燥品であるお茶に対して暫定規制値をそのまま当てはめて対応したことについては疑問も残る)。らでぃっしゅぼーやイオンなど自主検査の検査結果をHPでも公表している事業者もあり、検査データを補完している例と言えるだろう。
 しかし、自主検査を行っている事業者がすべて検査結果を公開している訳ではない。例えばコープネット事業連合では自主検査は実施しているが、検査精度やデータのひとり歩きを考慮し、検査結果の公表は行なっていない。簡易的な検査機器しか有していないなどの事情から検査結果を内部管理のための利用にとどめている事業所は複数存在するが、それはそれで誠実な態度と評価すべきであると考える。

●容易ではない検査体制の構築

 では、なぜ十分な性能をもった検査機器を用意しないのだろうか?
 現在、最も高性能な放射性物質の検査機器はゲルマニウム半導体検出器(Ge)と呼ばれるもので、およそ1,500万円もする高価な機械だ。加えて、重量があり(約1.5t)、液体窒素で冷却する必要もある。精密な分析は可能だが、価格や設置・運用の困難さが障害となる。それに対して、簡易検査に用いられるのがNaIシンチレーションスペクトロメーターだ。こちらは価格も数百万と幾分入手しやすい。しかし、精度はGeに比べると劣り、カリウムなど天然に存在する放射性物質の影響を受けやすい。そのため、放射性セシウムを検出したと誤って判断してしまうケースもあるようだ。
 また、検査機器は事業者だけでなく、自治体や市民団体も入手を急いでいる。人気のある機種は引く手あまたであり入手困難な状況が続いていた。そこで、納入に時間がかかっても高性能の機種を選定するか、ある程度性能に妥協しても早期に入手するのかといった判断が迫られた。入手したとしても、正確に測定するためには前処理(食材を細かく切断し、指定の容器に隙間なく詰める)や一定の測定時間も必要とする。さらに、測定結果の判断には専門性知識のある人員の確保も必要となる。
 こうした様々な要因によって、事業者がそもそも測定を行うのか、検査機器を入手するならばどれを選ぶかといった判断が分かれる。

●全品検査の実態

 正確な測定には上記のような装置が必要となるが、なかには全品を検査していることをアピールする事業者もある。その多くはサーベイメーターという機械で食材の表面を測定している。手軽で便利そうだが、表面が高濃度に汚染されていないと検出することは難しい。多くの食材から放射性物質がほとんど検出されてない現状ではあまり効果はないと思われる。そのため、ネット上ではこの機械によるスクリーニング検査に対して「形ばかりだ」という批判も行われた。しかし、比較的安価で手軽なために、とりあえず導入しようという事業者は未だに多いようだ。

 次に事業者が設定する自主基準について検証しよう。自主基準には
(1)事故前の規制値(370Bq/kg)
(2)暫定規制値の5~10分の1程度値(ベラルーシやウクライナの基準の採用含む)
(3)検出限界を超えて検出された物は販売しない(実質0Bq/kg)
 などの段階がみられる。しかし、採用している基準値が厳しい事業者から購入すれば、より安全な食品が購入できるとは限らない。なぜなら、先にも述べた通り、現在では一部の食材を除き多くの食品からは放射性物質は検出されていないからだ。
 実際に自主基準を設定している事業者の方に話を聞く機会があったが、流通している食品のレベルから自社基準を引き下げても問題がなく、顧客からの求めも強かったため導入に踏み切ったということだった。この話からもわかるように、事業者が自主基準を設定可能なのは、流通している食材がほとんど汚染されていないからであるということは理解しておくべきだろう。

●企業の独自対策が「エスカレート」する背景

 それでは、微量でも検出された場合には販売しないという施策はどうだろうか? 例えば大手流通のイオンは検出限界を超えて放射性物質が検出された場合は販売を見合わせることを検討していると発表した
 これも、実際に販売見合わせになるケースはごく一部にとどまるのだろう。しかし、本当にゼロまでアピールする必要があるのだろうか? この施策によって消費者の放射性物質摂取リスクが大きく下がるというのであれば実施する意義もあるかもしれない。しかし、数Bq/kg程度の汚染レベルであれば、内部被曝の影響はほぼゼロと言えるだろう。それを市場から排除することは、そのコストや手間を考えたときに、優先すべきと言えるのだろうか? 仮に流通している食品に対する不安を除くためならば、別の施策もあるのではないだろうか。

 こうした過剰ともいえる放射性物質への取り組みが行われる背景にはマスコミの影響も大きいようだ。テレビや新聞では、これまでに事業者の対策を映像で伝えてきた。その際に実効性などには言及せず、対策をとること自体を評価するような取り上げ方をしてきた。さらに雑誌では各企業に取材を行い、対応状況の比較記事も掲載された(例えば、週刊朝日10月28日号では各事業者へアンケートを実施し、その結果を一覧にして公開)。こうした記事を見て、他社に比べて取り組みが劣っていると思われれば売上に影響を与える可能性もあるため、より「進んだ」対策が求められる。こうして放射性物質対策はチキンレースのような様相を見せる。
 また、そうした「おもいきった判断」は往々にしてトップダウンであると聞く。そのような場合には、品質管理の現場からみると過剰であったり、効果が薄いと思われる場合もあるが、現場とのすり合わせもなく、頭上を飛び越えて決定・発表されてしまいがちだ。イオンの施策もこうしたケースの一つだと思われるがどうだろうか? *1

*1 (既エントリー)●イオンさん、グリーンピースに褒められて嬉しいですか?IEONの大失策

●中小食品企業の苦悩

 放射性物質対策強化には別の懸念もある。アンケート記事に掲載されるのは多くの消費者も名前を知っているような大手企業がほとんどだ。しかし、食品業界には中小企業も多く、大手企業もそれらの企業から原材料などの納入を受けている。大手企業が自社の責任の範囲で検査等を実施するのはいいかもしれない。しかし、関係企業に対して検査や安全証明を要求するような事態が生じるとしたらどうだろうか?
 公正取引委員会が9月30日にとりまとめた「下請取引等改善協力委員から寄せられた主な意見について」には下請取引等についてどのような影響が出ているか、又はどのような予想がなされるかについてまとめられている。その中には「食料品メーカーや卸売業者としては、放射能の問題を受けて、今後、消費者の安全・安心 を名目として、小売業者からいろいろな要請を受けることを懸念している。」との意見が寄せられている。

●暫定規制値の信頼性を下げることに

 事業者の各種取り組みは評価されるべきだが、自主基準の設定などを行う中で暫定規制値に対して「いい加減なもの」「信用できないもの」として悪いイメージを植え付けたりする結果になっていないだろうか。たしかに、現在は暫定規制値より低い基準での運用も可能なレベルになっている。そのため、暫定規制値が「高すぎる」印象も生じるのだろう。
 しかし、それはあくまで結果論であり、原発事故の推移次第ではさらに深刻な汚染が生じていたことも十分考えられた。3月の時点では妥当なものだったと言えないだろうか。暫定規制値に対して他国の基準との比較や数値引き下げを求める声は早くから耳にしていた。しかし、暫定規制値についての理解や、欧州の基準がチェルノブイリの事故後、段階的に規制値が引き下げられて現在に至っていることなどの説明が十分になされてきたかについては疑問が残る。その結果、食品供給への信頼を毀損してきたように思える。そのことがさらに過剰な対策を取らざるを得ない負のスパイラルを招いていないだろうか。
 現在、厚生労働省が暫定規制値の見直しを進めているが、数値の見直しにとどまることなく、放射性物質への対策が健康リスクの低減やコストの観点から消費者・事業者双方の理解が得られるようリスクコミュニケーションもしっかり行ってほしい。

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【後つぶやき】

 全体的・俯瞰的な良い解説でした。
 報道の問題点についても、全くこのとおりだと思う。

 個人的意見として問題点に追加したいのは、暫定規制値の見直しが遅いことである。勉強している消費者の間では、すでに、1月?2月?に出るであろう新基準の予想値が判断のモノサシとなっていると思う。
 7月27日に食品安全委員会が評価書案を取りまとめた以降のはなはだスローペースの取り組みは、生産者、消費者、双方へ大きなダメージを与えてはいないか。本文のように、一部の食材を除き多くの食品からは放射性物質は検出されていない現状があるのに、消費者は“基準値が高いのに、それ以内と言われても”というイメージを持ってしまっている。
 文科省サイドの政治家のパフォーマンスなどが、事態をより混乱させている様だが、厚労省サイドを含め、政治の不作為による混乱という自覚がないのは、呆れてしまう。
 悲しいがまさに『アフリカの中流国家並みの政治家しかいない国』である。


【関連エントリー】
●放射線線量計(測定器)、あれこれ(種類・検出下限値・測定(計測)時間など)
[ 2011/12/13(火) ] カテゴリ: 基準値,規制値,測定値な | CM(0)
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