ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

“福島の子 10人の甲状腺機能に変化”に関する情報まとめ

[ 2011/10/08 (土) ]
 信濃毎日10/4の記事 10人の甲状腺機能に変化 福島の子130人健康調査 について はテレビで取り上げられた事もあり、かなり気になっていたが、その後、的確な情報発信もあって収斂した様である。
 関連する情報をまとめておきます。

1.医学関係者からの情報発信

(1) 鎌田實 諏訪中央病院名誉院長:今回の調査を行ったJCF(NPO法人 日本チェルノブイリ連帯基金)の理事長でもある。
 有名な方である。信濃毎日記事に発言が記載されているし、ご自身のブログでも発信している。

 ●信濃毎日記事に記載されている発言
 いろいろ意見はあるが、被ばくの可能性は捨てきれないと思う。継続してフォローしていくのはもちろん、福島の新たな希望者がいれば、健康調査の枠を広げるつもりだ。

 ●ご自身のブログ
 (前略)テレビ各局がJCFや諏訪中央病院にやってきたので、できるだけセンセーショナルにならないように対応に追われた。
 (中略)
 数値が上昇=甲状腺の病気というわけではない。もちろん、将来、甲状腺がんになるというわけでもない。
 サイログロブリンが上昇した2人に関しては、被曝が原因して甲状腺組織が壊れたことは推測できるが、断定できない。おそらく時間とともに正常値になっていくと思うが、経過観察が必要だ。大事なことは、健康診断をして、病気ではないけれど、基準値を超えた子に関しては慎重にフォローしていく体制をつくること。(後略)


(2) 北海道大学病院核医学診療科の医師:PKAnzugさん
 医師の発信を探してみたがブログでは巡り合えず、ツイッターにあった
 原意を損なわない範囲で子見出しを付けて全文引用させて頂く。

 例の甲状腺機能異常の話に関連して、甲状腺についても少し詳しく書いた方がいいかなと思ったので書くことにしました。甲状腺という臓器の特性も知らないと理解できない部分もあるので、基礎的な部分からできるだけわかりやすいよう書こうと思います。
 まず、「なんで放射線科のお前が語るのか」というツッコミに対しての予防線ですが、私が専門としてる核医学(放射線科の一分野)ではI-131による甲状腺癌&バセドウ病の治療をやってる関係上、甲状腺内科みたいな外来もやってるんですね。
証拠→http://t.co/V0mcPj0z

1.甲状腺についての基本的なこと

 甲状腺は全身の代謝を上げる作用のある甲状腺ホルモンを作る臓器です。顕微鏡で見ると甲状腺細胞が中空の球体を作ったものが無数に集まっていて、その球体の中には甲状腺ホルモンが溜め込まれています。甲状腺=倉庫付きの元気ホルモン工場と思っていただければ問題ないかと。
 甲状腺は基本的に甲状腺ホルモンしか作らず、甲状腺ホルモンは飲み薬で補充できるので、たとえ病気で甲状腺を失っても薬さえ内服していれば健康な生活が可能です。甲状腺がヨードをやたら集めるのは、甲状腺ホルモンの原料として必要だから。そして、甲状腺ホルモンの前段階がサイログロブリンです。
 サイログロブリンは甲状腺細胞しか作らず、また正常では僅かしか血中に出てきません。しかし、炎症などで甲状腺細胞が壊れたり、バセドウ病などで甲状腺機能が異常に活発になったり、「出来の悪い甲状腺細胞塊」である甲状腺腫瘍(良性も悪性も)ができたりすると、血中の濃度が上がってきます。
 特に甲状腺癌で甲状腺を全摘した後は、正常でサイログロブリンを出す組織が存在しない状態になるわけで、そこでサイログロブリンが検出されたら、「どこかに甲状腺モドキ(=甲状腺癌の再発病変)がいるぞ」ということになります。腫瘍マーカーとしてのサイログロブリンというのはこういうことです。

2.甲状腺ホルモンの自動調整について

 甲状腺は甲状腺ホルモンを血中に放ってますが、無作為にやってるわけではありません。血中の甲状腺ホルモンが下がると、脳の視床下部というところからTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)というのが出て、それが脳下垂体を刺激します。
 TRHに刺激された脳下垂体は、TSH(甲状腺刺激ホルモン)という物質を血中に放出します。これが甲状腺に届くと、甲状腺が頑張って甲状腺ホルモンを作って放出するわけです。で、血中の甲状腺ホルモンが十分になると、TRHが出なくなって、TSHも出なくなって、甲状腺も頑張るのをやめる、と。
 で、たとえば甲状腺がぶっ壊れて甲状腺ホルモンを作れなくなった場合、血中の甲状腺ホルモンが減るのとともにTRHがバンバン出て、TSHもそれに続いて、結果として「血中の甲状腺ホルモンは低値TSHは高値」という状態になります。放射性ヨードのβ線で甲状腺がぶっ壊れた場合も同じ。
 十分な量の放射性ヨードなどで甲状腺細胞が壊れた場合の流れをもう少し詳細に書きましょう。甲状腺細胞が壊れると、さっき書いた「甲状腺ホルモンを溜めた袋」が破綻するので、一時的に甲状腺ホルモン値が上がり、サイログロブリンも出てきます。で、その後どちらも速やかに下がります。
 やがてサイログロブリンは平常時あるいはそれ以下になり、血中の甲状腺ホルモンは正常を下回ります。で、TRHが出てTSHが出て、TSH高値&甲状腺ホルモン低値の状態になります。つまり、甲状腺ホルモン低値TSH高値というのが典型的な甲状腺機能低下の状態というわけです。

3.ここで今回報道にあった「甲状腺機能異常」を考えてみましょう

 どこぞの報道によると、被験者が130人のうち、サイログロブリン高値が2人、甲状腺ホルモン低値が1人、TSH高値が7人で合計10人だったと記憶しています。
 まずサイログロブリン高値の2人について。確かにI-131で甲状腺細胞が壊れた早期にはサイログロブリン上昇がありえます。ただ、測定が7月末ですから、放出されたI-131(物理半減期8日)は何半減期も経過して減ってるわけで、検出されうるサイログロブリン上昇を起こすとは考えにくいです。
 次に甲状腺ホルモン低下の1人。これは早いうちに甲状腺に大量被曝して甲状腺機能低下した事例としても理論的に矛盾はしないものの、I-131の環境量から推定される摂取量では考えにくいですし、甲状腺機能の低い人は普通に一定の割合でいるので、そのうちの1人と考える方がよほど自然です。
 最後にTSHの高かった7人TSHは甲状腺機能が下がると出るホルモンですが、甲状腺機能が低いという指摘が前述の1人である以上、この7人はTSHだけが高いということになります。この場合、甲状腺自体はちゃんと甲状腺ホルモンを出してるわけで、病気を疑うとすれば視床下部や脳下垂体です。
 当然、脳下垂体や視床下部はI-131が集積する部位ではないわけで、病気だとしてもI-131が原因である可能性は極めて低い。放射性セシウムも同様。
 もちろん、「基準値」というのは「多くの人がこの範囲に収まる値」でしかないわけで、この7人もたまたまTSHが逸脱しちゃっただけの可能性が高いとは思います。ただ、病気もあり得なくはない以上、要再検とした医師の判断に間違いはありません
 この件を調べた団体の代表者である医師は「被曝が原因である可能性も否定できない」としていて、実際完全に否定するのは構造的に不可能なわけですが、私が「被曝が原因か」と聞かれたら、そんなゴミみたいな可能性は切り捨てて「違う」と言い切ります。可能性としてはそれくらい低い事案だと言えます。

4.甲状腺に関する余談を少しばかり書いておこうと思います。

 まず、慢性甲状腺炎(橋本病)ですが、非常に多い病気かつホルモン補充で簡単に治る病気でありながら、特徴的な症状が乏しいので無治療で放置されている場合が結構あります。詳細は各自調べてもらうとして、認知症や鬱病とされてる人が実は橋本病ということもあるので、心当たりのある人は確認を。
 ああ、橋本病は「治る」わけじゃないな。治らないけど薬だけで正常な生活を送れるってことです。
 小さい子供もバセドウ病になることがあります。小さい子のバセドウ病は、「落ち着きがない子」としてしか評価されないことがあるため、多動児と勘違いされてることがあります。頻度は低いですが、多動や注意散漫が問題になってるお子さんがいる方は、一度確認を受けておくといいかもしれません。
 甲状腺疾患には遺伝性がある場合が結構あります(腺腫様甲状腺腫、甲状腺癌、バセドウ病、橋本病は指摘あり)。甲状腺疾患は女性に圧倒的に多い傾向がありますので、甲状腺疾患がある方は、血縁のある女の子が20歳くらいになったら、一度甲状腺の検査を受けさせるのをオススメします。
※科学的事実の指摘と差別意識がどうのこうの言われてる状況で、病気の遺伝性の話をするのはアレですが、こんなもので差別意識を持つ程度の人間に伝えないことより、甲状腺疾患のある人に伝える方が重要と判断して書いてます。

5.さらにコメント欄での説明

 「そもそもの被曝量が少ないということが書いていない」という指摘を受けたので追記しておきます。この件の第一報を聞いた時に私が真っ先に思ったのも「異常が出るような量を摂取したはずがない」だったんですが、子供たちがどの程度I-131を摂取したのかが判断できないことや、「検査数値の異常」がどの程度か分からない等の理由から、その方向で他人を納得させられる検証は難しいと判断して、こういう形での検討を行っています。

 基準値というのは結構厄介なんですよね。実はこれすらカッチリ決まった値はなくて、検査施設や病院によって微妙に違います(検査装置などで多少違った値を出すため)。基本的には健常者の95/100程度が入る値になっているはずですが、その基準にも多少のムラがあるかもしれません。ということで、違う病院の検査結果って厳密には直接比較できないんですよ。

 このまとめの話から甲状腺癌の増加有無については語れないんですが、結論としては「この事故が原因で甲状腺癌になる人がいる可能性はあるが、目に見えた増加にはならないだろう」というのが私の見立てです。
 福島原発の事故ではダラダラとI-131摂取をすることが極力ないようにかなり厳しい基準が設けられましたし、日本人は元々ヨード摂取の多い民族なので、甲状腺にI-131が入る余地自体がそもそもあまりないという事実もあります。I-131治療で甲状腺にI-131入れるのに我々がどれだけ苦労していることか・・・
 ああ、誤解を招かないように書いておくと、さっきの「福島原発事故のI-131が原因で甲状腺癌になる人がいる可能性がある」というのは、LNT仮説に基づいたもので、これに基づくと温泉やバナナで癌になる人だっているということになります。完全に否定はできないけど小さすぎて見えないようなリスクであることは最後理解ください。

 地域性による差はあるかもしれません。上記の通り、甲状腺疾患には遺伝性がある程度存在するとされていますので、地域によってその遺伝子が多かったり少なかったりすることで、10人も出ない地域やもっと出る地域がありうるかなと。遺伝だけが原因ではないですが、地域によって多かったり少なかったりする病気って、実は結構あるんですよ。

 「TSHだけ高いのは潜在性甲状腺機能低下症ではないか」という指摘があり、確かにこれの考察が抜けていたので追記します。これは甲状腺ホルモンの分泌が少し下がっていて、それに応えてTSH分泌が上がることで、甲状腺ホルモンが基準値内に収まって異常と判定されなくなる状態のことです(遺伝的にTSHに対する甲状腺の反応性が弱い場合もありますが、稀なので割愛します)。
 私の経験的には「一度TSH高値の判定になって再検になった事例」も、次回以降は正常化していることが多かったので、この7人も同様の顛末になる可能性が高いだろうと思いますが、確かにTSHだけがずっと高い症例というのもあって、そういう症例には「潜在性甲状腺機能低下症」という病名がつきます。高齢者で行われた検討では、この潜在性甲状腺機能低下症のうち10%程度が後に甲状腺ホルモンも下がったとされており、特にTSHが高いほどその傾向が強かったとのことで、そういう事例は要注意だと思います。
 今回TSH高値となった7人がどの程度の高値だったのかは記載がないので分かりません。ただ、精査ではなく再検になっていることからは、そこまで目立った高値でないことが示唆(不明因子が多く確信はできないですが)されますし、実際に甲状腺ホルモンが低下していた事例でも書いた通り、甲状腺に確定的影響を及ぼすほどのI-131摂取があったとは到底思えない状況ですから、I-131の影響ではない可能性が高いという判断には変わりありません。
 なお、子供の場合にそういう事例がどの程度あるのか調べてみたところ、数値的な情報はなかったですが、小児科のサイトで「小児でときどき見かける」という記述は見つかりましたので、滅多に見ないようなものではないようです。 http://www.kids-clinic.jp/e/041119jcem89_4890abs.html
 潜在性甲状腺機能低下症に関しては、こちらもご覧ください http://oh-kinmui.jp/angle/rinshou/73.html。この中で「高齢女性では7〜17.5%に見られる」とありますが、甲状腺機能低下は年齢を重ねるほど増えるので、子供の場合は大分少ないはずです。ただ、これは2段落目に書かれたステップを経て「潜在性甲状腺機能低下症」と診断されるような症例の割合であって、単なるTSH高値の割合は当然もっと多いことも強調しておきます。

 我々の使うI-131ってかなり多いんです。I-131を使った甲状腺機能の検査(当然こんなので甲状腺機能低下なんかしません)の場合、3.7メガベクレルのカプセルが半分に減衰してからなので1850000ベクレル。その資料にある中で一番I-131の多かった雑草を1kg食べてもまだ足りません。しかも、甲状腺に入るようにヨード制限というのをしないと、日本人ではほとんど甲状腺に入ってくれないんですよ。

 で、実際にはみんな警戒して極力I-131を摂取しないようにしていましたし(水道水に200ベクレル/リットルとかで「多い!」って大騒ぎしていましたよね?)、ヨード制限なんか当然誰もしていませんでした。当時の子供たちの具体的な摂取量が不明でも「甲状腺機能低下するほど摂取したはずがない」って言えちゃうのは、当時どんなに頑張っても検査より多くのI-131を甲状腺に入れるのは難しかっただろうという具体的事実に基づく確信があるからなんです。


【つぶやき】
 (1)の信濃毎日記事に書かれた鎌田實院長発言では不安感を持ってしまう(記事全体に“煽り”の気配を感じるが・・・)。
 (2)の北海道大学病院核医学診療科の医師の赤字部分の発信は、一般人がほしかったものの医者としては勇気のいる発信ではないか、と思います。甲状腺機能障害については、たまたま、前に個人的に調べた事があるのですが、この説明全体は大変判り易かったです。的確な情報発信に感謝します。


2.リカバリー報道  福島民友10/6の記事 甲状腺異常なし

 信濃毎日記事の情報源であるJCF信州大医学部附属病院に対し、直接取材した結果の報道である。

 両者は、検査結果のデータを明らかにしたうえで、以下の様に答えている。
 ●甲状腺異常とみられる事例はゼロで、基準値から変動があった場合でも、医学的に機能異常を認められる数値ではない。
 ●念のために経過観察を呼び掛けている。
 この10人の子供のうち1人は、福島県内の医療機関で甲状腺エコーを受診した結果、甲状腺に異常はなかったという。
 さらに、甲状腺を専門とする福島医大の鈴木真一教授の談話を載せている。
 ●この結果を見る限り、一般の健康診断で測定される範囲内


3.報道当初から気になった最大の理由は“「食品安全委員会」の説明と合わない”こと。

 「食品安全委員会」2011/7/27発表の放射性物質を含む食品による健康影響に関するQ&Aの18ページに次の記載がある。

 問14 放射線による子どもへの影響が心配です。



 チェルノブイリ原発事故の際は、多数の子どもが甲状腺がんになったと聞きましたが、どのくらいの放射線量で、どのような影響が出るのですか?
 (前略)
 チェルノブイリ原発事故の際には、放射性ヨウ素に汚染された牛乳が大量に消費されたこと等により、避難住民(ベラルーシ・ウクライナ)の9割以上の子ども(未就学児)が、甲状腺等価線量で200mSv以上の被ばくをし、多数の周辺住民の子どもたちが甲状腺がんにかかりました。ただし、チェルノブイリ原発事故に関する多数の研究を見ても、統計的に有意に甲状腺がんの発症増加が認められているのは、甲状腺等価線量で100mSv以上となっています。
 一方で、今回の原発事故の後、原子力安全委員会と福島県が、3月下旬に、福島第一原子力発電所の周辺市町村の約1000人の子どもを対象に行った被ばく量の調査では、最も被ばく線量の高かった子どもで0.1μSv/時(1歳児の甲状腺等価線量で年50mSv相当)であり、そのうち99%の子どもは0.04μSv/時以下(1歳児の甲状腺等価線量で年20mSv相当以下)であったとされています。
 (後略)


【つぶやき】
 これは、食品中の放射性物質の健康影響をめぐり、内閣府の食品安全委員会が7月にまとめた「生涯の累積放射線量の限度は100ミリシーベルト」とする評価書案の添付資料であるが、個人的にはかなり信用している。この食品安全委員会の姿勢が、文献などのエビデンス重視のかなり慎重サイドで、慎重すぎる事に対する批判*1もある位だからである。 *1 既エントリーを参照ください。
 また、チェルノブイリで多くの子供たちが大量被ばくしてしまった状況については、既エントリーを参照ください。


【追記01】
時事10/9 子どもの甲状腺検査始まる=2年半で36万人に実施-福島
甲状腺検査
(出典:10/10読売新聞)


【追記02】
J-CASTニュース10/26 (cache)「子どもの甲状腺機能に異常」報道は行き過ぎ 専門医学会が「原発と結びつける理由なし」

【つぶやき】

 【追記02】の報道により、当初の信濃毎日記事は誤報あるいは煽り系報道であった事が確定した。
 どう責任を取るのであろうか?


関連エントリーはカテゴリーにひとまとめにしています。記事下部or左欄のカテゴリーリンクから、どうぞ。
[ 2011/10/08(土) ] カテゴリ: 甲状腺がんなどに関する | CM(0)
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