ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

LNT仮説の歴史的経緯

[ 2011/09/24 (土) ]
 たまたま、下記の文献に巡り合った。
 放射線被ばくの説明の知恵「しきい値なし直線仮説」LNT:Linear No threshold Theoryを検証する 輪嶋隆博 北海道医療大学歯科内科クリニック放射線部 発表:2007年4月、掲載:2008年11月
 輪嶋隆博さんで検索してみると、ホルミシス効果仮説が良く出てくる事、この文献が内部被ばくに関して全く言及がなく外部被ばくのみを念頭に記述されている事、などの特質を踏まえた上でも、“なるほど”と思う内容が多かった。
 特に下記の部分はあらためて勉強になった。

【当該部分のみ引用】

1-2 放射線リスクの考え方の歴史的経緯-LNTの概念の登場と基本理念の変遷

 放射線リスクの問題をあらためて考えるためにも、現在に至るまで放射線リスク問題がどのように捉えられてきたのか、変遷の概要を知ることは重要である。
 1895年、レントゲンのX線発見は医療分野にX線診断を急速に普及させたが、それに伴い放射線医の放射線傷害(皮膚炎⇒皮膚がん)が多発した。X線の発見とともに放射線障害も発見されたわけである。
 そこで、当時の国際放射線医学会では自主規制を行った。1930年頃に許容量が10mGy/週、1950年頃には3mGy/週に規制された。この結果放射線障害は影を潜めた。この経緯から放射線障害には安全量があるという認識が医学界では定着していた。

 LNTなる概念が登場したのは、実は1950年代後半以降である。国際放射線防護委員会(ICRP)は放射線被ばくによる発がんリスクには現在直線仮説:LNTを採用しているが、LNTの概念が形成されていた当時は遺伝的影響が中心であった。
 LNTの根拠に1927年のマラーによるショウジョウバエのX線照射による遺伝的影響の実験結果が根底にあった。遺伝的影響は線量に直線的に比例し、遺伝的影響毒性には下限が認められなかったからである。ICRPは遺伝的影響はハエでの実験結果が人間にも当てはまると考えたわけである。

 1970年代後半に大規模な広島原爆被爆者の遺伝学調査が行われ、低線量被ばくによる遺伝的影響が否定されると、その後はどういう訳かLNTは発がんリスクの問題にすり替わってしまった。LNTは広島原爆被爆者の疫学データを基にしている。低線量域の放射線の健康影響に関しては「高い線量で起きた障害は低い線量レべルでも縮小して起きるだろう」と仮定し、「影響の不明な部分は安全側に立って危険なものとみなして対応することが放射線の安全管理にもつながる」との国際的な取り決めが行われた。これが1958年国連原子放射線委員会合意であり、以来現在に至っている。

 1990年以降、がん研究の中心となっている分子生物学の知見、動物実験データ、低線量被ばくの疫学データを基にLNTに異論を唱える研究者が増え始め、これが国際的な放射線リスク論争の端緒になった。その中心的な存在が「放射線ホルミシス」で知られるT.D.Luckey米国ミズーリ大学教授と近藤宗平大阪大学教授である。近藤教授の著書「Health Effects of Low-level Radiation」は1990年代半ばから、ヨーロッパを中心とした放射線研究者間で競って読まれるようになり、Luckey教授よりも高い評価を受けるようになった。これが巡り巡って米国のエネルギー政策にも影響を与えることになった。

 放射線リスクの基本概念はICRP、国際原子力機関(IAEA)ではLNTを基本としているが、“LNTに揺らぎが生じている”のが実情である。ICRP1990年勧告のICRP加盟国の国内規制法令への取り入れの大幅な遅れは、1990年以降起きてきた国際的な放射線リスク論争と無縁ではない。

(ブログ主注記)
 ショウジョウバエの実験結果が否定されたのは“その実験で用いた成熟精子という細胞系が、DNA修復機能のない特殊な細胞系である事が判った”からとする説明も多くある。

【追記】
 下記のTogetterを読むと上記の“その実験で用いた成熟精子という細胞系が、DNA修復機能のない特殊な細胞系である事が判った”はガセと言えるようだ。
★「Togetter」科学的に考えるとは?(ショウジョウバエ精子のDNA修復機能の話から)by minako_genkiさん


【関連エントリー(新しい順)】
●LNT仮説の歴史的経緯 ←本エントリーです
●LNT仮説ほか、放射線の“確率的影響”を巡る諸説のまとめメモ
●【改定】核分裂、放射線、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)、人体への影響

【メモ】
●LNT理論に関する論争 (電力中央研究所 2008/6/4)
[ 2011/09/24(土) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(0)
コメントの投稿










管理者にだけ表示を許可する
トラックバック
この記事のトラックバックURL

このブログについて
管理人 icchou から簡単な説明です 更新,追記の通知はTwitter
カテゴリ
最新記事
ブログ内検索