ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

LNT仮説ほか、放射線の“確率的影響”を巡る諸説のまとめメモ

[ 2011/09/18 (日) ]
 不定期に加筆しています。最新部分のみ赤字で明記しています。


 【既エントリーから引用】

 がん・白血病や遺伝性影響といった確率的影響(数年後に100人中がんになる人が何人増える、といった影響)も100 mSv *1以上では、線量とともにリスクが上昇することが判っている。確率的影響のなかで最も早く現れるのは白血病である。
 しかし、100 mSv *1以下の低線量被ばくでは、確率的影響がふえる証拠は疫学的・統計的に得られていない。100 mSv*1以下の低線量被ばく影響(リスク)では“異なる仮説”がある。
 なお、遺伝的影響については、動物実験ではみられているものの、ヒトでは確認されていない。

 *1:125 mSvとする資料や、100 mSv~150 mSvとする資料もある。

 この“異なる仮説”について、あまりにも様々な情報があり、個人的にも一度整理したかったので、メモ的にまとめてみた。
 素人のまとめなので、誤りや不適切表現などもあるかと思います。

 “仮説”であるので、当然ながら反論もある。
 実は、反論のうち一次資料(原論文)がきちんとしたものや二次資料でも一次資料(原論文)をベースにしたものを集めてみようと思ったのだが、反論の反論があったり、内容が咀嚼できなかったりで、素人には手が余る事が直ぐに判った。また、つたない検索技では引っかからない情報も多いと思った。
 結局、“反論の例(参考)”として出典なしで記載する事にした次第である。 なお、他の仮説からの反論は記載していない。

【目次】
1.LNT仮説
2.ある線量以下では影響はでない、とする仮説【しきい値説】
3.ホルミシス効果仮説
4.ECRRの主張、【二事象理論とTondel論文による仮説】
5.ICRPか?ECRRか?
6.分子生物学の研究からの説明
7.発がんの生涯リスクには被ばく時の年齢が大きく影響することが明らか
8.低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ報告書
9.食品安全委員会の主張
10.労働安全衛生法の規制値を適用とする主張
11.その他の情報(2012/9/1追記)
12.仮説に対する直接説明ではないのですが、“なるほど”と思った情報
13.煽り系情報に対する的確な反論例
14.個人的な専門家評価、私的な中間整理

1.LNT仮説(比例説、閾値なし線形モデル)

(1) 概要
 確率的影響にはしきい値がない、とする仮説。がんによる死亡者数は100 mSvで0.5%増加する。100mSv以下の低線量域であっても、放射線量の増加に比例してがんの発生率が上昇し、10 mSvでは0.05%増加すると“仮定”する、という“取り決め”であり、予防的意味がある。
 乱暴にいうと疫学的に確かな領域の線を、不明な低線量域にそのまま延長したと、言う事。
 その疫学とは広島・長崎の原爆の影響調査(原爆被爆者寿命調査 LSS:Life Span Study)である。
(2) 反論の例(参考)
 ●原爆被爆者寿命調査が、5年以上経ってから開始されていること、残留放射線や内部被ばくの影響が峻別できていないなどの非被ばく群の選定に問題があること、腫瘍登録制度は 1958 年に確立されたので原爆投下から 13 年の間ガンの発生率は評価できなかったこと、などで放射線影響の過小評価となっている。
 ●低線量の場合は、直線を下回る反応もしくは防護的でさえある反応を仮定することが賢明でありまた信頼に足る。(ホルミシス的LNT仮説?)
(3) 採用しているのは
 ICRP(International Commission on Radiological Protection、国際放射線防護委員会)、アメリカ科学アカデミー、日本の公的機関など。
 (補足)ICRPは国連の科学委員会や国際原子力機関と連携している。

 なおICRP Publication 103 P13 (K)では、この仮説は放射線管理の目的のためにのみ用いるべきであり、すでに起こったわずかな線量の被曝についてのリスクを評価するために用いるのは適切ではない、としている。
【関連エントリー】LNT仮説は予測には使えない、ALARA原則とセットで意味を持つ

(4) 具体的な基準などの例
 ICRPは以下を示している。
    平常時:1 mSv/年
    緊急時:状況に応じ20mSv/年から100mSv/年の間
    事故収束後の復旧期:1~20mSv/年を超えないようにする

 本仮説に関する詳細は以下の別エントリーに纏めてあります。
 ●ICRPをベースにしたリスクコミュニケーションがうまく進まないのは何故か?
 ●LNT仮説の歴史的経緯 
 ●1Sv、100 mSvの被ばくで、がんによる死亡者数は何人?(統計学の勉強)
 ●LNT仮説に関する典型的な間違い記事

2.ある線量以下では影響はでない、とする仮説【しきい値説】

(1) 概要
 中国やインドの自然放射線量が高い地域で、がんの発生率の増加が見られないこと等から、細胞には放射線でできたDNAの傷を修復する能力もあるため、がんのリスクがゼロとなる安全な線量(閾値)があるとする仮説。
(2) 反論の例(参考)
 情報に巡り合えなかった。
(3) 採用しているのは
 フランス科学・医学アカデミー
 フランス科学アカデミーは、2005年2月に『実質的なしきい値』(1999年ポーランド:Jaworowskiによる提言)を採択した 。
 フランスでは、世界で唯一政府の見解として「閾値あり」モデルが採用されていて、それに応じた放射線防護策が取られているらしい。
(4) 具体的な基準などの例
 情報に巡り合えなかった。

3.ホルミシス効果仮説

(1) 概要
 低線量は人体に有益という仮説。低線量の放射線照射は、体のさまざまな活動を活性化するとされる。低レベル被曝においては免疫機能が高まるといった効果を重視する主張が増えている。
 免疫機能がDNA損傷の修復機能の働かなかった細胞を除去する最後の砦だということ。
 中心的な存在が、T.D.Luckey米国ミズーリ大学教授と近藤宗平大阪大学教授である。近藤教授の著書「Health Effects of Low-level Radiation」は1990年代半ばから、ヨーロッパを中心とした放射線研究者間で競って読まれるようになり、Luckey教授よりも高い評価を受けるようになった。
(2) 反論の例(参考)
 ●WHOは疫学調査の基礎データ解析から、低線量であっても天然ラドンの放射線の危険性を指摘している。
(3) 採用しているのは
 ないと思う。(情報にめぐり逢えなかったので)

4.ECRRの主張、【二事象理論(The second event theory=SET)とマーチン・トンデル氏による疫学調査(Tondel論文)による仮説】
 【 】内のように読みとったが、難しいので間違っているかも。

(1) 概要
 二事象理論は、ウランやストロンチムによる内部被ばくは相当リスクが高く、二つの放射線(α線もしくはγ線)による細胞内での、ある特定の時間枠内のヒットが、変異原性を非常に高め、癌のリスクも高めるというもの。
 Tondel論文は、チェルノブイリの事故後1988年から1996年までの期間にスウェーデン北部の小さな地域コミュニティー毎のガン発症率をセシウムCs-137の汚染の測定レベルとの関係において調べたもの。
(2) 反論の例(参考)
 ●二事象理論は、イギリスのCERRIE(Committee Examining Radiation Risks of Internal Emitters、内部被曝調査委員会)が否定した。
 ●Tondel論文に対する懐疑論は結構あるが、そのまた反論もある。論文そのものの合理性の問題ではなく、それを独自に解釈(恣意的に誤用)しているとの指摘が的を得ているようだ。(5項を参照)
(3) 採用しているのは
 ECRR(European Committee on Radiation Risk、欧州放射線リスク委員会)、
 クリス・バスビー英アルスター大客員教授はロンドン在住のECRRの科学委員長である。
 (補足)ECRRは、欧州議会(EUの主要機関の一つ)に議席を持つ「欧州緑の党」のイニシアティブで、1997年に設立された。しかし、欧州議会の下部組織ではなく、市民団体として緑の党と同様にベルギーを本拠に活動している。
 ●「GEPR」2012/5/31 メディアが醸成した「放射能ストレス」(上)感情的な報道の生んだ人権侵害(石井孝明氏)によれば、『クリス・バズビーが日本人向けに数万円のサプリ、放射能検査を売り込んでいたことを日英のメディアが暴いた。すると失踪してしまった。』とのこと。
(4) 具体的な基準などの例
 ウランやストロンチムによる内部被ばくが300倍危険(がんによる死亡確率?)、「公式の考えで出る確率」を 600 倍(がんの確率)
 一般人の年間被ばく線量限度:0.1mSv/年

5.ICRPか?ECRRか?

 学術界の動向としては、ECRRの主張を支持する科学者もいるが、大方の科学者はICRPの方に妥当性がある、と受け止めている。科学論文は、内容が優れていると質の高い学術誌に掲載され、ほかの科学者から数多く引用されることになる。ECRR主張の論文の掲載誌は評価が高いとは言い難く引用もほとんどされていない(査読もなし)。

 論文に対して、いくつかの驚くべき統計の誤りがある、との指摘がある

 そもそも、ICRPECRRがメディアの両論併記により等価に見えてしまうのが問題。「メディアは、一つの意見を書くことの責任を取りたくないために、100人対1人の意見の対立であっても、それを1対1の重さで書く」との批判がある。
 「主流対反主流」という構図で理解しようとすると、主流を批判するために反主流を主流と同じ位置にもって行くことになります。実際に意見が二分されているような状況ならいいのだけど、反主流がとっても小さくて弱いと、ここで虚像が出来上がります。

 (関連エントリー)
 ●放射線防護の国際的枠組み

 安井至教授による“ICRPはなぜ信頼できるのか”との論説です。今までで一番腑に落ちる論説でした。
 ●ICRPをベースにしたリスクコミュニケーションがうまく進まないのは何故か?

 トンデル論文とECRRの関連で、素人のブログ主が今までに読んだなかで、一番、判りやすい解説。
 ●トンデル論文の概要とバスビー教授の恣意的な誤用、判りやすい解説

6.分子生物学の研究からの説明

 がん化のプロセスやDNA障害や修復の機構についての研究は比較的新しい研究である。特に、放射線によるDNA障害の修復機構の研究は、ここ10年に大きく進展した。このDNAに関する分子生物学の研究分野は、がんの研究と共に発展してきたらしい。
 同じ放射線量でも、少量ずつ長期にわたり被ばくした場合は、一度に被ばくした場合よりも放射線により傷ついた細胞の修復が行われやすいことから、影響が少ない事の理論付けにもなっている。
 この分野から言える方向性は、LNT仮説に疑問符がつき、しきい値説が有力になるようだ。

 この分野の研究について理解した事

(1) 低線量のβ線・γ線によるリスクは他の発がんリスクと定性的には同じであり、活性酸素(フリーラジカル)によるDNAの損傷として捉える事ができる。
(2) それぞれのリスク要因の量は、発生した活性酸素がどの位、DNAを損傷するか?で捉える事ができるので、低線量のβ線・γ線は、たばこ、化学物質、紫外線、過度なストレスなどと定量的に比較可能である。(酸素をとり入れて生きていくだけでもエネルギー代謝の過程で活性酸素が発生している)
(3) 損傷を受けたDNAは、“人間が進化の過程で獲得してきた身を守るシステム”によって、何重にも直されて行く。(活性酸素によるDNA損傷を修復するシステム、変異細胞をアポトーシスに導くシステム、免疫システム)
(4) DNA損傷を修復する能力以上の放射線をあびた場合に何らかの障害が発生する。
(5) 現状の福島の方々の被ばく線量レベルではそれによるDNA損傷の頻度は自然の傷よりはるかに少ないものである。

 関連エントリー
 ●放射線のDNAへの作用(染色体、遺伝子、直接作用と間接作用、電離や励起、活性酸素)
 ●放射線によるDNAの損傷(DNAの修復・アポトーシス・免疫システムなど、がん化防止のプロセス)
 
7.発がんの生涯リスクには被ばく時の年齢が大きく影響することが明らか

(1) 概要
 原爆被爆者寿命調査で、白血病以外の全てのがんの相対リスク*2は被ばく(1Gy*3)時年齢が10歳以下の場合では、対照者(非被ばく群)の2.32倍となっている。これは全年齢の場合の相対リスク1.29の2倍に近い。
 ●ATOMICA 放射線生物効果の年齢依存 (09-02-02-18)の表1 原爆被ばく時の年齢と到達年齢別の1Gy被ばく後の種々の部位における致死がんの相対確率
    *2 “相対リスク”という言葉はこちらエントリーを参照
    *3  1Gy(グレイ)は1Sv と同じことと思っていい。

 ●田崎晴明教授(学習院大学理学部)の『放射線と原子力発電所事故についてのできるだけ短くてわかりやすくて正確な解説』の子供の被ばくに気をつけなくてはいけないのは何故か


(以下は、本題から少々外れるが、関連の参考情報です)


(1) 概要
 内閣官房の放射性物質汚染対策顧問会議の下に設置されたWG(ワーキンググループ)による12月22日の報告書
 現在避難指示の基準となっている20 mSv/年の被ばくのリスクがどの程度のものなのか、などについて、国内外の科学的知見や評価の整理、現場の課題の抽出、今後の対応の方向性の検討を行ったもの。  
(2) 反論の例(参考)
 WGのメンバーが、これまで低線量被ばくによるリスクは小さいということを強調してきた人々である、と言う批判があるが、科学的な反論にはなっていない様だ。
(4) 具体的な提言の例
 20 mSv/年という数値は、今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切
 除染の実施は適切な優先順位をつけ、参考レベルとして、例えばまずは2年後に10 mSv/年まで、その目標が達成されたのち、次の段階として5 mSv/年までというように、漸進的に設定して行うこと。
 子どもの生活環境の除染を優先するべきであり、(中略)具体的には、校庭・園庭の空間線量率が1μSv/h以上の学校等は、避難区域内の学校等を再開する前に、それ未満とする。さらに、通学路や公園など子どもの生活圏についても徹底した除染を行い、長期的に追加被ばく線量を1 mSv/年以下とすることを目指すこと。
 など。

9.食品安全委員会の主張

(1) 概要
 放射線を被ばくした人々の実際の疫学データに基いて、生涯における追加*4の累積の実効線量で、おおよそ100mSv以上で健康影響が見い出されているが、100mSv未満については、現在の知見では健康影響の言及は困難である。
 なお、100mSvについて、疫学データの間で数値が錯綜している中、安全側に立って判断したものであり、100mSvの場合の具体的な発がんリスクの値について示すには至っていない。小児はより放射線の影響を受けやすい可能性あり。 
   *4 “追加”とは、自然放射線(日本平均約1.5mSv/年)や、医療被ばくなど
   通常の一般生活において受ける放射線量を除いた分としての意味
(2) 反論の例(参考)
 8月にパブリックコメントを募集したが、様々な意見があるようだ。
 【追記】
安井至氏の「市民のための環境学ガイド」2011/7/17 その2:緊急事態期の数値の読み方および2011/7/31 生涯被曝100mSvを目安を読むと、食品安全委員会が審議を重ねるごとにおかしな方向に行ってしまい、迷走の末に出来上がった内部被ばくの基準であることが分かる。(迷走の原因は脱被ばくサイドからのメール攻撃、これを小島記者は「世論という妖怪に負けた」と表現している。)
安井氏は「生涯被曝100ミリを目安」に関して、「論理の飛躍どころではなく、単なるあてずっぽうに過ぎない。」と酷評している。
さらに、2011年10月になって、「内部被ばくと外部被ばくを含めて」という部分は誤報であることが分かった。 詳細は「日経BPネット 復興ニッポン」2011/11/25 こうして“世紀の大誤報”は起こった
(3) 採用しているのは
 内閣府食品安全委員会。7/26に発表の「食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価(案)」(既エントリー
(4) 具体的な基準などの例
 生涯における追加*4の累積の実効線量:100mSv
(5) 最終答申
 10/27に食品安全委員会はパブリックコメントの結果をふまえた最終答申を厚労省に対して通知した。
 食品による内部被曝に限定して、生涯における追加*4の累積の実効線量:100mSv、とした。
(6) 厚労省による食品の規制値
 厚労省は、これを「リスク評価になっていない」として却下し、コーデックス(CODEX)委員会のガイドラインを踏まえて、現行の5mSv/年1mSv/年に引き下げ、個別の規制値を設定した。それに伴って現在セシウムでいうと500Bq/kgである暫定基準値を1/5の100Bq/kgに引き下げるというのが主な内容である。
 詳細は下記のエントリーを参照ください。
 ●新基準値どおりに汚染された食品を摂取した場合、一日に何ベクレルか?
 ●食品の放射性物質(セシウム)の新基準、詳細な考え方を確認してみた

10.労働安全衛生法等の国内法規の規制値を適用とする主張

(1) 概要
 主張者で有名なのは、武田邦彦中部大学教授(専門は資源材料工学)。
 これは、仮説でもないし学術的でもない。
 3/17に厚労省は食品の暫定規制値*5を設定した。それに対し、労働安全衛生法等の国内法規の規制値を厳格に適用すべし、という主張である。
   *5 厚労省は3/17に食品の暫定規制値を設定。
   緊急時の対応として、放射性ヨウ素:甲状腺等価線量50mSv(実効線量2mSv/年
   相当)、放射性セシウム:実効線量5mSv/年から個別の規制値を設定。内閣府
   食品安全委員会は3/29に「十分な安全性を見込んだものと判断」と追認した。
(3) 採用しているのは
 ないと言える。労働安全衛生法等の国内法規の当該規制値は法的には有効でなくなっている。
 何故かというと、原子力災害対策特別措置法(略称:原災法)第15条の「原子力緊急事態宣言」が3/11に発令されている。暫定基準値の設定は超法規的措置ではなく、原災法に基づいた災害時の合法的な措置であるということ。
 下記のブログに詳しく説明されています。
 ●「3.11東日本大震災後の日本」6/11 今は非常時?平常時?まずこれをしっかりと
(2) 反論の例
 そもそも、労働安全衛生法規制は決め事の周知・強制が目的であり、その被ばく規制量は精度の高い放射線管理が主眼であって、非常時に必要な情報である健康影響量とは別のモノサシである。
 法令上の年間1mSvとは、健康影響上の科学的なデータではなく、安全を十分に見込んだ防護上の目安に過ぎないことを忘れるべきではない。なぜなら、チェルノブイリで顕著であったが、非常時に平時の目安に固執すると逆に健康被害を含め様々な障害が出るからである。
(4) 具体的な基準などの例
 年間被ばく線量限度:1mSv/年。
 3月間につき1.3mSvを超えるおそれのある区域を管理区域として管理する。 
(明文化ではないが管理区域境界の限度(250µSv/3ヵ月)や事業所から廃棄される放射性物質の数量・濃度は放射線障害防止法等に記述されていて、それらは1mSv/年を守るように定められてる。)

 ●「専門家が答える 暮らしの放射線Q&A」被ばく限度について教えてください
 ●「放射線審議会2011年3月」国際放射線防護委員会(ICRP)2007 年勧告(Pub.103)の国内制度等への取入れについての57~58ページ

 詳細は下記のエントリーを参照ください。
 ●(メモ書き)ICRP111の考え方と現状の日本の基準の整理、ICRP60:1mSvの被曝基準は受容性

11.その他の情報

(1) 内部被ばくの事例
 人口層が被ばくした内部被ばくの事例は、そんなに多くなく、IARC(国際がん研究機関)は、広島・長崎の原爆事例に関しては内部被ばくの評価をしていない。

(2) ALARA(アララ)の原則(防護の最適化)とは
 ALARAの原則というのはAs Low As Reasonably Achievableの略で、「合理的に達成可能な限り被ばく量を低減する」という原則です。これをAs Low As Possibleと勘違いしている人も見受けられるわけですが、ICRPは放射線防護に関して、「すべての被ばくは社会的、経済的要因を考慮に入れながら合理的に達成可能な限り低く抑えるべきである」と言っています。

 2012/3/28に下記の資料が発行されました。
ICRP111から考えた事
Introduction to ICRP Publ. 111
福島で「現存被曝状況」を生きる


[著者]
高井先生 @J_Tphoto
生徒会長 @buvery
 事故収束時の対応の基本が書かれていて、超お勧めです。これを読んで、ALARAの原則の重要性が良く判りました。

【関連エントリー】LNT仮説は予測には使えない、ALARA原則とセットで意味を持つ

(3) ペトカウ効果について
 「ペトカウ効果」については1972年の論文が、0.6 mSv/h~600 mSv/hの高い領域、かつ試験管内(in vitro)で行われた実験なので、「低線量被曝における健康影響」の根拠とするのは、かなり無理があるのではないか、との説明があった。
 ●「ぷろどおむ えあらいん」6/16 「ペトカウ効果」は低線量被曝が健康に大きな影響を与える根拠となるのか?
 ●「ぷろどおむ えあらいん」8/1 低線量放射線の健康影響をどう考えるか

【追記】
(4) バイスタンダー効果
 ●「市民のための環境学ガイド」2012/7/29 バイスタンダー効果
 ●放射線のDNAへの作用(染色体、遺伝子、直接作用と間接作用、電離や励起、活性酸素)
 
12.仮説に対する直接説明ではないのですが、“なるほど”と思った情報を引用します。

 ●澤口俊之さんの「脳科学者はかく稽ふ」8/7低放射線と健康被害:その錯綜性
  【当該部分のみ引用】

 なぜ、このような諸説・効果が錯綜してしまうのか?その理由もまた錯綜としているが、ざっくりと言えば次の4点が大きい
a) 実験系・調査方式などの研究法の違い
 例えば、培養細胞系・in vitro系を使った実験ではバイスタンダー効果や放射線適応反応が認められることが多い、マウス・ラットを使った場合にはLNT説が支持される事が多い、ヒトでの疫学的・集団的調査では、閾値説と放射線ホルミシス効果が示唆される事が多い、などの傾向がある。
b) 研究者の「感情・思想」
 これは本来あってはならない事だが、例えば原爆投下に罪悪感を感じていると思えるアメリカ研究者(むろん一部)では、閾値説とホルミシス効果を支持するような研究・言説が多いし、原発を推進したいように見える研究者もそうだ。逆に、反原発派に見える研究者はLNT説を採用したがる事が多い様だ。
c) 研究者のレベル
 これは上記b)とも関係するし、こうした問題だけに関わる事ではないが、関係する多数の原著論文を参照していない、参照していても批判的な参照に欠けている、と言う研究者も散見される。原著論文ではなく調査報告だけを参照する場合もあり、この場合は科学的言説ではなく話にならない。また、これは当時の社会体制のせいもあって仕方ないかもしれないが、チェルノブイリ事故に関する旧ソ連での研究レベルはかなり低い傾向にあり、当該事故が有意義な研究成果にさほど結びついていない。
d) ヒトでのin vivo実験ができない
 これが最も大きな問題で、a)とも関係する事である。臨床的な事例報告や疫学的研究は当然ながら可能だが、仮説―検証を基軸としたin vivoでの実証的研究がヒトではできない、と言う事は大きい。種の「独自性」がさほど問題にならない場合には、マウス・ラットなどの実験動物でのデータが参考になるが、放射線被ばく問題はヒトの「独自性」がかなり関与していると推測できるので、このimitationsは決定的な問題である。
e) 以上の他にも「錯綜」は多い
 例えば放射線の種類、γ線かα線かx線か・・・や、放射性物質の種類、なども含めれば、さらに錯綜してくる。



13.煽り系情報に対する的確な反論例

 別エントリーにまとめました。
 ●煽り系情報、デマに対する的確な反論例

つぶやき

(1) 個人的な専門家評価
 この内容は追補して、単独のエントリーに纏め直しました。
 ●きわめて主観的なメモ(信用する専門家、しない専門家)

(2) 私的な中間整理
 下記のエントリーに纏めました。
 ●“低線量被ばくの健康影響(私的な中間整理)”と“原子力ムラの既得権益保守仮説”


関連エントリー

●【改定】核分裂、放射線、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)、人体への影響
[ 2011/09/18(日) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(6)
Re: 安斎先生、今中先生
今中先生の良い情報を教えて頂き感謝です。
“人格”を感じますね。
[ 2011/11/13 19:36 ] [ 編集 ]
安斎先生、今中先生
安斎先生の本、今リクエストしています、事故前にもかなり書かれていますね。
今中先生は、小出先生と同じかと思っていたので、飯舘の講演会http://2011yomemucyu.blog.so-net.ne.jp/2011-10-04見て、非常にうれしかった思いがあります。

生物学系の学者さんの言うことを信じるがよいという気持ちは私もあります。
松本市長の場合は医師ですし、実際に何度も行かれているので、突っ込むところはどこにもないだろうと、かなりショッキングな気持ちでアップしたところでしたので、何人もの方が反論してくださっているので、うれしい気持ちです。

icchouさんの御見解も、お待ちしています。
[ 2011/11/13 16:22 ] [ 編集 ]
Re: とても参考になりました。
コメント、ありがとうございます。
全く、同感です。

個人で勉強して“この発言はちょっとおかしいな”と思うくらいの知識がいりますね。
しかし、何でそこまで必要なんだろうという疑問もありますが・・・困ったもんです。

本文の【つぶやき】に書いた以外に、個人的には、“講演や出版で儲けるために発言していると思われる専門家”“あまりにも反原発主義に偏った専門家”はかなり割り引いて受け止めたいと思っています。
[ 2011/10/14 09:19 ] [ 編集 ]
とても参考になりました。
まとめありがとうございました。大変参考になりました。
まとめてくださったように諸説ある中で、TV、ラジオ、SNSなどメディアでは「専門家」を名乗る人々が、完全には立証できていない「仮説」を根拠に自信満々で「~である」と断言する。

そして何も知らない多くの人が混乱している。現在メディアを賑わせている無責任な発言に、憤りを感じます。
[ 2011/10/13 23:06 ] [ 編集 ]
Re: lightning
毎度、ありがとうございます。
●児玉龍彦氏については、下記情報の内容を自分なりに確認できていない為、保留扱いにしています。

 福島先生といえば遺伝毒性発がん物質の閾値についての代表的研究者であることをまず1つ。
http://www.ilsijapan.org/ILSIJapan/LEC/TTC/Dr.Fukushima.pdf
福島先生のチェルノブイリ膀胱炎の論文では
http://carcin.oxfordjournals.org/content/30/11/1821.long
「残念ながら我々は患者の(事故のあった1986年からの)被ばく量を知る方法がない。ただ尿中放射性セシウム濃度の測定結果(1994年以降2006年までのいつかの時点での)を入手することができた。」
 とあるのを児玉先生は
http://plusi.info/wp-content/uploads/2011/08/Vol.41.pdf
「すでに福島,二本松,相馬,いわき各市の女性からは母乳に 2~13 ベクレル/kg のセシウム137 が検出されることが厚労省研究班の調査で報告されている.この濃度は,福島博士らのチェルノブイリの住民の尿中のセシウム 137 にほぼ匹敵する.福島博士の報告では,表 1 のように,6ベクレル/L とほぼ同じレベルである」
と解釈するわけですが、これをおかしいと思わないのでしょうか。「正義」のためならいい加減でもいいのでしょうか。それってとても怖いことです。
 さらに言えば福島先生の論文は、多段階発がん説を前提にしていて、膀胱炎を前がん病変あるいは発がんのプロモーションプロセスとみなしているわけです。慢性的に繰り返す炎症が最終的にはがんにつながるというのはわりと常識的な話で、この場合炎症を止めればがん予防になるわけで、原因はなんであれ膀胱炎になったら治療しましょうね、ということです。まして乳腺炎なんて普通放置しないと思いますけど。炎症も無いのにがんが心配なら、それは福島先生の論文とは関係ない話です。
 福島先生の論文を、一時的に母乳中から放射性物質が検出されその後不検出になっていて特に何の症状もない母親を脅かすのに使うことの妥当性を問題にしているのです。

以上の出典
 食品安全情報blog 9/8のコメント欄http://d.hatena.ne.jp/uneyama/20110908

●肥田舜太郎氏については、勉強してみます。
[ 2011/09/20 15:34 ] [ 編集 ]
lightning
まとめメモ編集ご苦労様です。大変参考になりました。
>生物系の発信に○が付く“専門家”の最近の発信に巡り合えないのは
肥田舜太郎氏、児玉龍彦氏などは、医学系で貴重な発信源といえるのではないでしょうか。

>個々人が自分の責任と権限の範囲の中で、どの説を信じるかは自由な選択
>LNT仮説→これがベースかな、(安全サイドのスタンスとして)
やはり医科学の知見が解を出すに到ってない以上、安全よりで考えるというのが、現在とるべき最低限の姿勢だと考えます。
では東北の産業をどうするのかという問題は、冷酷かもしれませんが、別個の政治問題です。

[ 2011/09/20 14:33 ] [ 編集 ]
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