ポストさんてん日記

放射線・エネルギー・環境・化学物質・食品などの情報をアーカイブとして整理すると同時に、徒然につぶやいています。 リンクはご自由に。

1 Sv、100 mSvの被ばくで、がんによる死亡者数は何人?(統計学の勉強)

[ 2011/08/28 (日) ]
『被ばく量と人体への影響』における確率的影響のLNT仮説(LNTモデル、閾値なし線形モデル、比例説)では、“がんによる死亡者数は100 mSvで0.5%増加するとされる”既エントリー
 では、具体的に何人ふえるのか?メディア記事やWeb上には色々な情報があるが、いまいち、どれが本当なのかよく判らない。 まずは正しく知る事が大切だ。

 そこで、調べてみた。めぐり合えた情報は、サイト『我楽多頓陳館--雑学と統計学の館』の『第4展示室 雑学の部屋』の『雑学コーナー』の『放射線による発がん――データ解析屋的解説』である。2011年4月22日更新との記載がある。

 広島、長崎の被爆者の方々の疫学調査(原爆被爆者寿命調査:LSS:Life Span Study)から得られたデータからスタートして、統計学的な解説を加えて、十数ページの最後の『補足のページ』に“ほしい結論”があった。相対リスク、過剰死亡数、寄与リスクと絶対リスク、被曝量と死亡率の用量反応解析、致死リスク係数、などの単語がでてきて、とても全てを理解できた訳ではないが、なんとか“ほしい結論”を読む事ができた。
 執筆者の本意から外れてしまうかも知れず恐縮だが、“ほしい結論”をピックアップさせて頂く。
 素人が抜き出した情報ですので、間違いや不適切表現があれば、ご指摘を願いたい。

1.LNT仮説を具体的なモデルで理解する

(1) 1万人の人間が1000 mSv(1 Sv)の放射線を浴びたとすると、50年後のガンによる累積死亡数は5%増加し500人増える。

 数字上は、1万人×5%=500人 という単純な事になるが、その全体像は次ぎのとおりである。
がん死亡者1000mSv
 (この単純モデルでは145%になっているが)“相対リスクが1.5倍”という情報も良く目にするので、その意味する処も判った。

【一般に良く出て来る用語】 ここは読み飛ばして戴くのもOKです。

 過剰絶対リスクEAR = Excess Absolute Risk)=累積死亡率の増加分、上記の5%
 過剰相対リスクERR = Excess Relative Risk)=相対リスク-1、上記の0.45(45%)

 疫学分野で使う言葉として
 寄与リスク(AR = attributable risk):過剰絶対リスクと同じ、上記の5%
 寄与リスク割合(AR% = attributable risk percent):過剰累積死亡数を被曝群のがん累積死亡数で割った値、上記では500÷1600=31% (すなわち、1600人のがん死の内、500人が被ばくに起因したことを意味する) 

 生涯寄与リスク(LAR = lifetime attributable risk)という言葉もある。
 例えば、the lifetime attributable risks of Breast Cancer Incidence and Mortalityは生涯にわたって、乳癌の罹患と死亡というイベントが全体のリスク(この場合はあらゆる疾患の罹患・死亡)のうちどれだけを占めるかと言うことを意味する。出典はこちら
(ある集団が観察期間内に全員死亡したときに、そのうちのリスク因子に曝露を受けたことに起因する死者の比率)

 名目リスク係数:ICRPで出て来るものだが、大雑把な理解として下の致死リスク係数と同じ。なお、ICRPの2007年勧告(Pub103)では5.5%/Svとしているが、放射線防護の目的では5%を使って良いらしい。

 致死リスク係数:「がんなどで死ぬ危険は1000 mSvあたり5%高まる」というのは、ガンの「致死リスク係数」と呼ばれる指標が1 Svあたり5%であることを表しています
 

(2) 1万人の人間が100 mSvの放射線を浴びたとすると、50年後のガンによる累積死亡数は0.5%増加し50人増える。

 数字上は、1万人×0.5%=50人 という単純な事になるが、その全体像は次ぎのとおりである。
がん死亡者100mSv

(3) 1万人の人間が20 mSvの放射線を浴びたとすると、50年後のガンによる累積死亡数は0.1%増加し10人増える。

 数字上は、1万人×0.1%=10人 という単純な事になるが、その全体像は次ぎのとおりである。
がん死亡者20mSv

(原ブログから外れますが)
2.LNT仮説は予測には使えない、ALARA原則とセットで意味を持つ【重要】

この部分は別エントリーにまとめ直しました。
LNT仮説は予測には使えない、ALARA原則とセットで意味を持つ

(再び原ブログに戻って)
3.その他

上記のリスクをたばこのリスクと比べている。その部分を引用させて頂いた。

100 mSvの放射線の発ガンリスクはタバコの発ガンリスクの20分の1程度であり、0.5歳の加齢つまり6ヶ月だけ年を取ることによる発ガンリスクの上昇よりも小さい値です。これは「明らかな健康障害」とはとても言えないでしょう。
●医学的に意義のある発ガンリスクは、少なくともタバコの10分の1以上の発ガンリスクつまり200 mSv以上の放射線を浴びた場合であり、
●「明らかな健康被害」と言えるのは、タバコの半分程度の発ガンリスクである1 Sv以上の放射線を浴びた場合ではないかと思います。

“なるほど”と思った箇所を引用します。

 放射線が健康に与える影響について書かれた資料を科学的に正確に解釈するには、統計学的知識と医学的専門知識の両方を兼ね備えていなければなりません。 僕がこれまでに読ませていただいたウェブサイト等の資料のうち、医学分野以外の分野――例えば工学、物理学、化学等――の専門家が書かれた放射線の健康被害に関する説明は、残念ながら統計学的に正確とは言いかねるものが少なからずありました。 専門家は専門分野のことを正確に理解する難しさをよくわかっているだけに、専門外の分野のことは最も安全側に立って解釈することが多く(もちろん、これは科学者として当然の態度です)、ややもすると放射線が健康に与える影響を過大評価しがちな傾向があるように思います。
 放射線の健康被害について考える時は、胸のX線写真1回分の放射線量や飛行機で東京-ニューヨーク1往復分の放射線量を目安にするのではなく、「1 Sv(=1000 mSv)の放射線の発ガンリスクは、タバコの発ガンリスクの半分程度」ということを目安にする方が良いと思います。

 寺田寅彦の有名な言葉に、
 “ものを怖がらなすぎたり、怖がりすぎたりするのはやさしいが、正当に怖がることはなかなかむつかしい” (『小爆発二件』1935年11月、文学)
というものがあります。
 放射線はまさに「正当に怖がること」が非常に難しいシロモノです。 例えば50 mSv程度の放射線被曝を恐れて喫煙者がいる避難場所に避難すると、かえって発ガンのリスクを上げてしまうことになりますし、1 mSv程度の内部被曝を恐れて野菜を食べないでいると、やはりかえって発ガンのリスクを上げてしまうことになります。 また甲状腺被曝を恐れて毒性の強いヨードチンキを飲んで副作用が発現したり、飲料水を飲まずに脱水症状になったりと、不正確な情報や偏った情報に煽られて闇雲に行動すると、かえってリスクを上げてしまう結果になってしまいます。
 放射線を正当に怖がり、正しい対処法を考えるためには、放射線に対する正確な科学的知識を持ち、健康被害に関する幅広く正確な情報をできるだけ沢山手に入れることが大切です。 我々の周囲には放射線だけでなく多くのリスクが存在します。 全体的なリスクを減らすためには、それらのリスクの大きさと相互の関連性をできるだけ正確に見極め、どのリスクを減らせば全体的なリスクが最も効果的に減るかをよく考えて、冷静に行動する必要があります。

【おまけ】
4.コホート研究(Cohort Study)とは

 1項のモデルは疫学では、コホート調査と言われるものです。
 コホート研究(Cohort Study)
 最も精度の高い疫学調査の方法である。
 この方法は、まず、観察開始時点ではがんに罹患していない人の集団(分母)を調査集団として設定し、この集団に発生するがん患者(分子)を把握するために長期追跡調査を行うものである(がん発生の把握は難しいのでがん死亡で代用されることが多い)。
 そして、被ばくした群としなかった群のがん発生率の違いを知らべ、放射線被ばくがどの程度がん発生率を増加させるかを推定する方法である。しかし、この方法は時間と費用がかかる欠点があり、特にリスクが小さい(発生数が少ない)場合は多くの調査対象者数を必要とする。

 代替の方法として、症例対照研究(ケースコントロール研究:Case-control study)がある。
症例群(がんに罹患している群)と対照群(がんに罹患していない群)の(過去の)放射線被ばく線量を比較して放射線リスクを調べる方法である。この方法はリスクが小さい場合に有用で、時間と費用はかからないが、対照群の設定により結果が大きく異なるという欠点がある。
 出典:放射線による発がん

関連エントリー(新しい順)

●LNT仮説の歴史的経緯
●LNT仮説ほか、放射線の“確率的影響”を巡る諸説のまとめメモ
●LNT仮説に関する典型的な間違い記事
●1Sv、100 mSvの被ばくで、がんによる死亡者数は何人?(統計学の勉強) ←本エントリーです
●【改定】核分裂、放射線、ベクレル(Bq)とシーベルト(Sv)、人体への影響

【さらに詳しく知りたい場合の参考資料】
●「サイエンスポータル - SciencePortal」2012/6/19 放射線被ばくのリスクを正しく怖がる 諸葛宗男氏(東京大学公共政策大学院 特任教授)
●togetter 2012/6「とんきょさんの癌死確率講座」 by @leaf_parsleyさん
●「ニュースの社会科学的な裏側」2012/6/17 科学リテラシーの専門家によるカルト的な放射線への恐怖の流布について

【個人的メモ】
名目リスクってなに? - tohru
●素人のための疫学入門 2001/1/26 上田昌文+小牧史枝
●放射線および環境化学物質による発がん 2005年 佐渡敏彦、福島昭治、甲斐倫明 医療科学社
●「踊る小児科医のblog」2012/3/19「1Gy被曝でがん死リスク42%増」の意味、LNT仮説が「哲学ではなく科学」であることは明白 中川恵一批判
[ 2011/08/28(日) ] カテゴリ: 放射線,放射性物質の勉強 | CM(0)
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