ポストさんてん日記

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『欧州の温暖化政策』を巡る論議、江守正多氏vs有馬純氏

[ 2020/05/18 (月) ]
近頃、『欧州が主導する現行の温暖化対応が行き過ぎているのでは?』との控えめな論説が気になっています。
いずれも、温暖化問題が内包する不確実性や他の問題とのリスクトレードオフを再認識させてくれるものでした。
(『このまま進めていいのかな?』という素人の疑問に対する説明としても有益でした。)
昨年に、カテゴリー温暖化対応は行き過ぎかを作り、いくつかの記事を紹介し、さらに、IEEI(NPO法人 国際環境経済研究所 International Environment and Economy Institute)ほかによる関連記事タイトルのリンクを紹介(本エントリーの3項に移植)しています。
ちなみに、ブログ主は温暖化懐疑論支持者でありません。カテゴリー地球温暖化でご確認可能です。

今回、江守正多(国立環境研究所 地球環境研究センター 副センター長)がその内のいくつかについての反論を展開するとともに、IEEIに対して苦言を呈しました(1項)。
その後、有馬純(IEEI主席研究員、東京大学公共政策大学院 教授)が再反論を展開しました(2項)。
以下にそれらを紹介します。(引用箇所の選択や強調文字はブログ主の主観によるものなので、正確なところは原典でご確認ください。)
なお、キーワードとして出てくるGWPFとは英国のシンクタンクで
Global Warming Policy Foundation (地球温暖化政策財団)

目次

1.(江守正多氏による反論)組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心
2.(有馬純氏による再反論)温暖化懐疑論・否定論について
3.関連記事のリンク集
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1.組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心
江守正多 IEEI 2020/3/10
国際環境経済研究所は、「経済と環境の両立」をめざし、ウェブを通じて情報を発信する場として機能しています。設置の目的にあるように、地球温暖化対策への羅針盤となることも目的とし、温暖化問題に関する多様な意見も発信しています。
その観点から、英国のシンクタンクGWPF(地球温暖化政策財団)の温暖化問題への視点をホームページ上で紹介していましたが、国立環境研究所・地球環境研究センター江守副センター長から、GWPFのレポートは一面的な見方が多いとのご指摘を戴き、具体的な内容に関する寄稿を戴きました。
当研究所の掲載は、主席研究員を中心とした論考が多いのですが、いつもの論考とは異なる視点の論考もお読み戴ければ大変幸甚です。
【小見出しとごく一部のみ引用】
  • 英語圏における組織的な温暖化懐疑論・否定論
    人間活動を原因とする地球温暖化、気候変動をめぐっては、その科学や政策を妨害するための組織的な懐疑論・否定論のプロパガンダ活動が、英語圏を中心に活発に行われてきたことが知られている。
    米国の科学史家ナオミ・オレスケスらによる「世界を騙し続ける科学者たち」(原題:Merchants of Doubt) にその実態が詳しく記されている。

    そこでは、規制を嫌う企業が保守系シンクタンクに出資し、そこに繋がりを持った非主流派の科学者が懐疑論・否定論を展開し、保守系メディアがそれを社会に拡散している。

    気候変動の危機の認識が社会において主流となってきた現在では、そのような妨害活動の実態を暴かれることが、企業にとって大きなレピュテーションリスクや訴訟リスクとして跳ね返ることになり、損得勘定は以前と変わってきているだろう。
  • 日本における懐疑論・否定論
  • GWPFの記事を組織的に紹介?
    そのため、国際環境経済研究所(IEEI)のウェブページ で、GWPFの記事が系統的に紹介されているのを知った際には、身構えざるを得なかった。

    IEEIに掲載されているGWPFの記事は、どれも評論家・翻訳家の山形浩生氏により邦訳されており、気候変動に関する記事のすべてにキャノングローバル戦略研究所の杉山大志氏の解説が付されている。
  • 内容はどこがおかしいのか?
    筆者はすべての記事に目を通してはいないが、たまたま読むことになった「熱帯の空:気候危機論への反証」 という記事について、少し詳しく紹介したい。
    ブログ主注:3項のリスト参照
    記事の主張は、地球温暖化の予測シミュレーションに用いられる気候モデルが、人工衛星による観測データと比較して、過去の対流圏(地表から数キロ上空)の気温上昇を大幅に過大評価している、というものだ。
    原著者のジョン・クリスティ氏は米国の気候科学者であり、記事の内容は査読論文(Christy et al., 2018 など)に基づいているので、一見すると正当な科学的主張のようにみえる。しかし、筆者が詳しく読んだところ、以下のような問題があった。

    クリスティ氏はリモートセンシングなどご自身の専門分野では立派な研究者なのかもしれないが、気候変動の理解や予測をめぐっては何等かの理由で主流の科学に反発する立場になったようだ。組織的な地球温暖化懐疑論・否定論活動は、そういった微妙な立場の専門家をプロパガンダ活動に取り込んでいく。
  • IPCC「1.5℃報告書」の欠陥?
    他には、アイルランドの気象学者レイ・ベイツ氏による「IPCC『1.5℃報告書』の欠陥」 という記事が筆者の周囲で話題になった。
    ブログ主注:エントリーIPCCの1.5度特別報告書は科学的知見の取り扱いに関して重大な欠陥があったと指摘する論文参照
    ベイツ氏は、GWPFと同様の目的を持つアイルランドの組織ICSF の創設者の一人であり、気候変動の科学の主流に対して長年「逆張り」をしてきた方のようだ。

    この記事について、「1.5℃報告書」の執筆者の一人であるIGESの甲斐沼美紀子氏が他の執筆者に尋ねたところ、過去の気温上昇量については「1.5℃報告書」と第5次報告書は完全に整合的であること、記事には特に目新しい知見は無いので学術論文として出版されない限りは相手にしないほうがよいこと、などの回答を得ている。
    なお、杉山大志氏も「1.5℃報告書」の執筆者の一人であるが、「IPCCの1.5度特別報告書は、その科学的知見の取り扱いについて、重大な欠陥があったと指摘する論文」と、否定も肯定もせずに受け入れるような短い解説をつけている。
  • 懐疑論・否定論のリスク
    温暖化懐疑論・否定論は主流の科学との議論に勝つ必要はなく、「なにやら論争状態にあるらしい」と世間に思わせることができれば成功なのであるから、それに反論する活動に比べると圧倒的にノーリスクで有利な、「言ったもん勝ち」の面がある。
    一方、世間がそのようなプロパガンダ活動の存在を知れば、ある組織がその活動に関わっていると世間から見られることは、組織の評判を毀損するレピュテーションリスクになるだろう。懐疑論・否定論を見る側も、見せる側も、そのことをよく理解してほしいと思う。
    最後に、この記事を寄稿させてくださったIEEIのオープンな姿勢に敬意を表し、心より感謝を申し上げる。

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2.温暖化懐疑論・否定論について
有馬純 IEEI 2020/4/1
【ごく一部のみ引用】

3月10日付けの江守正多氏の「組織的な温暖化懐疑論・否定論にご用心」を大変興味深く読んだ。特に本サイトで紹介されたGWPFの記事、「熱帯の空:気候危機論への反証」について具体的な反論を展開されているのは非常に勉強になった。

同時に「温暖化懐疑論・否定論」という用語については注意を要すると感じた。

筆者は、、、字義通りの懐疑論・否定論に与するものではない。

彼らが問題視しているのは、温暖化の悪影響ばかりが強調されていること、気候感度等を含む不確実性を捨象した議論が多いこと、欧州及び英国で再エネ補助金を初めとする割高な政策が講じられていること、異なる意見を述べると「懐疑派」というレッテルを貼られ、中傷にさらされること等である。

他方、地球温暖化が進行しており、それには人間起源の温室効果ガスが一定程度寄与していることを認めた上で、温室効果ガス削減のための政策措置の内容とその強度については様々な議論があって然るべきだ。
SDG17に代表されるように世界には温暖化以外にも様々な課題があり、各国の抱える事情、課題間のプライオリティも様々である。温暖化にどの程度のリソースを割くべきなのか、どの程度のコストを許容するのか、得られるベネフィットとのバランスはどうなのか等は、正解が本来は1つである自然科学の問題とは異なり、複数の答が存在し得る社会科学的な政策論の問題だからである。

地球全体の排出削減を考えるときに先進国のみの数字を取り上げることも著しく不合理である。しかしこうした議論に反論すると「科学の要請に背を向ける」「懐疑的である」と批判を受け、化石賞も何度と無く受賞した。こうした経験から科学の名の下に絶対的正義をふりかざして反論を封ずる類の議論に強い疑問を持つようになった。

GWPFについての筆者自身の見解を述べたい。

野心的な温暖化対策を推進している欧州各国政府の発表は大本営発表的なものになりがちであり、日本のメディアの多くは「欧州は温暖化対策の優等生であり、欧州に学ぶべき」という論調の下、そうした趣旨に合致する記事ばかりを掲載する傾向がある。そうした中でGWPFのサイトは「本当にそうなのか?」というクロスチェックを行えるという点で筆者にとって有益な情報ソースである。

江守氏はGWPFが化石燃料企業とつながりのある人から資金援助を受けているゆえにGWPFの組織としての信頼性を損なっている、としている。筆者は、実際に資金援助を受けているかは知らないが、仮に受けているとしても、それによってGWPFの組織としての信頼性を損なうとは考えていない。

こうした産業との関わりを「汚れたもの」と批判することには賛同できない。それに環境NGOや環境シンクタンクの中には温暖化対策でメリットをうける再エネ産業から資金援助を受けているものもあるだろう。要はそれぞれの組織が発信しているメッセージや情報をその質に応じて取捨選択すれば良いだけのことである。

GWPFの論考を見たり、紹介したりすることが主流の科学に逆らうことであり、世間における組織の評判を毀損するという議論には賛同できない。そもそも「主流の科学」、「世間」とはなんだろうか。「主流の科学」が「地球温暖化は一定程度進行しており、それには温室効果ガスが一定程度寄与している」ということであれば、ローソン、リドレー両氏とも「主流の科学」に異を唱えていない。上に述べたように彼らが主に批判するのは欧州及び英国の温暖化政策である。しかし、これは「主流の科学」への挑戦に当たるとは思えない。「温暖化防止のため再エネ補助金を出し、炭素税を導入し、化石燃料を駆逐することが正しい」というのは、ある価値判断に基づく政策論であり、「主流の科学」と定義付けることはできないからである。
そうした価値判断に立つ人々が「世間」の大部分を占めるのであれば、GWPFの論考を引用することのレピュテーションリスクはあるだろう。しかし筆者のみるところ「世間」とはもっと多様であり、炭素税引き上げに反対してストライキをやったイエローベストの人たちも、温暖化防止よりも貧困撲滅を重視する低開発国の人たちも、エネルギーコスト上昇により国際競争力低下を懸念する産業界も「世間」の構成員である。

繰り返しになるがGWPFの記事の中には他の組織の記事と同様、頷けるものもあればそうでないものもある。しかし欧州礼讃一色のメディアが多い中で、それとは異なる視点の情報ソースとしての有用性はある、筆者は今後もGWPFの記事の中で有益なものがあれば紹介したいと考えている。


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3.関連記事のリンク集

発信日筆者 サイトなど 表題 
2020/4/3杉山大志IEEI
温度上昇の予測は「チューニング」されている
1.地球気候モデル(GCM)とは何か
2.チューニングを公表し始めた研究者たち
3.チューニングの事実を踏まえた政策判断
2020/1/10有馬純IEEICOP25雑感
1.5℃目標、2050年カーボンニュートラルがデファクトスタンダード化
スローガン先行の環境原理主義と化石賞
COPの世界と現実世界は違う
2019/12/6スーザン・J・
クロックフォード
IEEIシロクマはじつは増えている
2019/11/26有馬純GEER2050年ネットゼロエミッションとは何を意味するのか
2019/10/9長辻象平産経
ニュース
気候変動の舞台裏 「地球温暖化」不都合な真実とは
2019/10/4ジョン・クリスティIEEI熱帯の空:気候危機論への反証

1項に関連
2019/9/30杉山大志IEEI日本の温暖化は気象庁発表の6割に過ぎない
2019/9/27有馬純IEEI世界の温度は何度上昇した?温暖化クイズ:何問正解できますか?
2019/8/26山本隆三IEEI石炭火力で分断されるEUの温暖化目標
2019/7/10ミッコ・ ポーニオIEEIIPCCが主張する健康便益は本当か?
2019/7/5ジュディス・カリーIEEIだれにでもわかる気候モデルの問題点
2019/7/1杉山大志IEEI「温暖化物語」を修正すべし
2017/3/7御園生 誠触媒学会PDF
地球温暖化の原因を再考する
2016/4/5山田耕一PDF
地球温暖化論と懐疑論
スケプティカル・サイエンス(Skeptical Science)懐疑論と科学的知見
[ 2020/05/18(月) ] カテゴリ: 温暖化対応は行き過ぎか | CM(0)
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