ポストさんてん日記

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脳と感覚、脳の中での嗅覚のしくみ

[ 2020/05/07 (木) ]
脳の勉強ノート、第6弾です。
嗅覚は視覚や味覚などとは少しちがった感覚で、匂いのもとが脳に伝達されるルートが、ほかの感覚とは異なること、五感の中で最も強く記憶に残ることなどが理解できました。

目次

1.鼻の構造と嗅覚、化学物質を読み取る嗅覚センサー
2.嗅覚の脳への伝わり方
3.大脳に直接届く唯一の感覚
4.ソムリエと一般人の違い
5.嗅覚障害
6.主な参考文献

1.鼻の構造と嗅覚、化学物質を読み取る嗅覚センサー

匂いのもとは、匂いを放つ化学物質で分子の重さが分子量で300以下と軽く、気体になりやすい性質(揮発性)をもっている。

嗅上皮きゅうじょうひの表面は、常に粘液で濡れた状態になっており、鼻孔から入ってきた吸気が通過する時、吸気の中の臭気物質が粘液に溶け込む。
鼻腔の奥には上中下3つの通り道がある。一番上の天井部を嗅上皮という。

10cm2程度のヒトの嗅上皮には数千万個の嗅細胞が並んでいる。嗅細胞の先端には、匂いの受容器:嗅覚センサー(タンパク質の嗅覚受容体があるとともに、嗅細胞自体がニューロン (神経細胞)で、それぞれ異なる化学物質に反応し電気信号に変換する。
嗅覚受容体の遺伝子が発見されたのが1991年、これが嗅覚分野のブレークスルーとなり、様々な研究がすすめられた。発見者2名は2004年のノーベル生理学医学賞を受賞。
ニューロンは、一般に再生しないといわれるが、嗅神経細胞はニューロンでありながら数週間のサイクルで生まれ変わる。

ヒトには、396種の嗅覚センサーがあるが、これは396種の匂いしか嗅ぎ分けられないということではない。そもそも匂いは、化学物質の集合体であり、バラの花だけでも、何種類もの化学物質を出している。これをセンサーがばらばらにしてとらえ、ひとつの化学物質が、複数のセンサーをオンにする。そのため396種のセンサーの「オン」と「オフ」の組み合わせで、理論上は数千種の匂いを嗅ぎ分けることが可能だといわれている。
鼻の構造と臭いを感じるしくみ
自然界に暮らす動物は、ヒトの何倍もの嗅覚センサーを持っている。匂いは食べ物を探したり、敵と仲間を識別したりするために欠かせない感覚。進化の過程で、ヒトや霊長類は視覚の能力を高め、その分、嗅覚センサーの数が少なくなっていったと推測されている。
動物の嗅覚は人間よりどの位優れているか


2.嗅覚の脳への伝わり方

臭気物質が嗅上皮の粘液に付着し、嗅神経細胞が興奮すると、大脳底部の嗅球きゅうきゅうに電気信号が伝わり、さらに嗅球から大脳皮質の嗅覚野嗅内野に送られ、「匂い」として認識される。
嗅覚の仕組みは複雑で、まだわかっていないことが多いが、嗅覚野からは扁桃体に、嗅内野からは海馬に匂いの情報が届き、情動や記憶に働きかけると考えられている。
嗅覚情報だけが視床を経由しないで大脳皮質海馬扁桃体に届く02

3.大脳に直接届く唯一の感覚

例えば、「バラの香り」とか「カレーの匂い」という言葉を聞いただけで、まるで実際にその匂いを嗅いでいるように思い出せる。反対に、微かな匂いを嗅いだだけで、遠い昔の思い出が鮮明によみがえることがある。
このように、嗅覚は五感の中で最も強く記憶に残ることが知られている。その理由は、匂いのもとが脳に伝達されるルートが、ほかの感覚とは異なるため。
嗅覚以外の感覚系(視覚、聴覚、味覚、体性感覚)は、いずれも脳内の感覚中継センターである間脳の視床を経由して、それぞれの感覚野に情報が送られる。ところが、匂いの情報だけは、視床を通らず、大脳皮質のほか、その奥の大脳辺縁系にある記憶を担う海馬と感情を担う扁桃体に直接届く。
この特異な伝達ルートが、匂いと記憶、そして記憶から引き起こされる感情を強く結びつけていると考えられている。

4.ソムリエと一般人の違い

同じワインを飲むにしても、ソムリエであれば細かい香りの違いがわかるが一般人では赤ワインと白ワインの大まかな違いしかわからないこともある。
実はソムリエも一般人も、嗅覚の物理的な能力自体にはほとんど差がない。嗅神経細胞の数は数千万個、嗅覚受容体の種類は396種類と同じ。それではいったい何が違うのか。ソムリエのほうが記憶している香りの数が圧倒的に多い。
香りは視覚や味覚などのほかの五感とは少しちがった感覚。視覚には赤(R)、緑(G)、青(B)の「光の三原色」がある。また、味覚にも甘味、旨味、塩味、酸味、苦味の「五基本味」とよばれる味がある。一方で嗅覚には香りの基本単位となる「原臭」のようなものがない。そのため、香りを区別するためにはその香りが何から香っているかや、香りから思いだされる記憶の情報が重要になってくる。
一つの香りには複数の香り成分が含まれているため、香りをかいだだけでは何の香りかを判別するのは難しい。たとえば目の前にお茶がある状況で香りを感じればだれしもが「お茶の香りだ」とわかるだろう。しかし、目の前にお茶がなければお茶の香りを「畳の香り」と感じる場合もある。香りを認識するために、前者は視覚の情報、後者は記憶の情報をそれぞれたよりにしている。
ワインのように、見た目だけでは細かく判断できない複雑な香りをかぎ分けられるようになるには記憶をたよりにするしかない。ソムリエは「カシスの芽」や「猫の尿」の香りなどワインに含まれているさまざまな香りを単体で記憶する訓練を積んでいる。記憶している香りは1000~2000種類ともいわれる。目の前のワインのあいまいな香りの情報と、多数の記憶を結びつけることでワインの香りを細かく分析できる。

香りの好き嫌いも、記憶の影響を受けている。
排泄物の匂いはほとんどの大人から嫌われている。その理由は匂いと排泄物がセットで記憶されているため。生まれて間もない赤ちゃんはまだ排泄物の記憶をとどめていないため、排泄物の匂いをいやがらない。

このように、香りと記憶は密接にかかわっている。このことは周囲の環境が安全かどうかや、目の前の食べ物が食べられるかどうかなど生物が生き残るための判断を下すときに役立ってきた。また、相手の体の匂いでパートナーを選ぶなど香りは動物同士のコミュニケーションにも使われる。

5.嗅覚障害

こんなときにニオイを感じなくなる
嗅覚障害は、匂いの伝達経路のどこが障害されるかによって、1.呼吸性、2.末梢性、3.中枢性の3つに大別される。
  • 1.呼吸性
    鼻に関する病気によって匂い物質を含んだ空気が嗅粘膜に届かないため匂いが感じられないもの。副鼻腔炎アレルギー性鼻炎が原因。
  • 2.末梢性
    嗅粘膜が障害される「嗅粘膜性」と嗅神経が障害される「末梢神経性」がある。

    風邪をひいた後に風邪症状がおさまった後も嗅覚が戻らない場合は、インフルエンザなどのウイルスによって嗅粘膜が変性する嗅粘膜性嗅覚障害が疑われる。副鼻腔炎などの慢性炎症でも、嗅粘膜は変性することがある。
    COVID-19(新型コロナウイルス肺炎)の特徴として、嗅覚障害・味覚障害を訴える患者さんが多いとのことです。
    亜鉛は酵素活性に関与する微量元素であり,特に細胞増殖にかかわる酵素と関連が深いため,感覚細胞の新陳代謝がある嗅覚器,味覚器の機能維持に必要と考えられている.このような背景に基づいて亜鉛製剤は嗅覚障害,味覚障害に長く使用されてきているが,過去の研究では感冒後嗅覚障害に対する亜鉛補充の効果は明確には示されていない出典:PDF感冒後嗅覚障害(近藤健二 J. Japan Association on Odor Environment Vol. 45 No. 4 2014)

    また、頭部外傷などで脳内に異常がないのに嗅覚が失われる場合には、嗅神経の切断に由来する末梢神経性嗅覚障害が考えられる。
  • 3.中枢性
    嗅神経よりも中枢側で障害が生ずるタイプ。匂い情報が脳まで伝達されると、過去に入力された匂いの記憶と照合して「何の匂いであるか」を認識する情報処理を行う。また同時に匂い情報は、記憶し整理される。
    匂い情報を処理する脳が障害を受けると、匂いを判別することができなくなる。中枢性嗅覚障害は、頭部外傷や脳腫瘍、脳梗塞、パーキンソン病、アルツハイマー病などの病気で起こる。
出典:嗅覚障害(健康長寿ネット)

6.主な参考文献

個別に出典を記載した資料の他は以下の資料。
●図解でわかる 14歳から知る人類の脳科学、その現在と未来(インフォビジュアル研究所(著), 松元健二(監修))
●脳と心のしくみ(池谷裕二(監修))
●Newton「香り」をあやつれ
[ 2020/05/07(木) ] カテゴリ: 脳の勉強ノート | CM(0)
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